新馬戦前の追い切り
「保科さん、リアン向こうでも乗られて、今朝も動いてるのでもう行けますよ」
そう私に話しかけてくるのはうちの調教助手の佐山陸斗だ。
「うん、じゃあ調子落ちないうちに出しておこうか。佐山としてはどんな感じなの?」
「んー、距離は現状はマイルかなぁと。折り合えるのでもう少し持つと思います。芝かダートかはまだわからないです」
「ふーん、そう。じゃあ中京芝1600で出しとくわ」
「承知しました」
リアンエテルネルねぇ、随分と立派な名前付けてもらっちゃって。負けたら名前負けとか言われるんだろうな。
それにリーディング5位のうちの厩舎にディープボールドってそれだけでもうちの厩舎のイメージ落ちそうなのに凡走されたらどうしようか。
「はあ…」
思わずため息もつきたくなってしまう。
そうして調教の時間となり、周回コースのスタンドへと向かう。
うちの厩舎は大体1週前からCウッドコースで追い切る。
そうしてうちの看板馬春秋グランプリホースのアストロフォールと2勝クラスのスケープゴートの併せだ。
前にスケープゴート5馬身離れてアストロフォールだ。
直線へ向くと外を走っているアストロフォールが持ったまんまで一気に差を縮めて1馬身先着をした。
「うん、素晴らしい。フォワ賞への輸送2週前でこの動きは凱旋門も勝てるんじゃないか?」
そう調教を見て思っていると最後の方から変な馬が一気に外から交わして行った。
なんだあの馬。そう思い確認するとリアンエテルネルだった。
多分見間違いだろう。そう思いスタンドを後にする。
厩舎で調教助手達と状態を見ながら話していると記者の中武がやってきた。
「お疲れ様です。保科さん、アストロフォールの取材に参りました」
「よく来たね。立ち話もあれだしコーヒー飲みながら話そうか」
そうして涼しい休憩室でアストロフォールについての話をする。盛り上がって取材も終わりに近づいた頃ある話題を出してきた。
「そういえば今朝の調教グランプリホースより追い切り速く走る新馬がいるって聞いたんですけど」
「ん?それなんの馬なの?」
「リアンエテルネルって馬なんですけど」
やっぱりあれは見間違いじゃなかったのか。
「いやーあれはどうなのかな。一応仕上がってるらしいし、来週の中京開催初日芝1600でデビュー予定だよ」
「あー、そのレースはGI馬の半弟の3億円馬出ますから面白くなりそうですね。貴重なディープボールド産駒ですからね。リアンエテルネルもコラムで話題にしても大丈夫でしょうか」
「うん、いいよ」
「ありがとうございます、ではそろそろ失礼します」
そうして暇になった私は厩舎の馬を見ていく。
端の方にいるリアンエテルネルの前に来た。
「なんなんだお前。よく分からん馬だな」
なんなんだと言われても困る。俺からしたらお前の方がなんなんだって感じだぞ。
今日1週前追い切りを済ませて厩舎でゴロゴロしている時にみる保科の顔は最悪だった。
あの前の馬ゼッケンに星付いてていいなぁと思いながら走っていた。
はー。もう来週デビューか。やる気はあるけどだんだん怠くなってきたな。
ただ先頭行けばいいだけだし簡単な話だ。
そうして1週間が経ちいよいよデビューの週になった。
水曜日の追い切りも併せ馬で軽めにやったが、かなりタイムが出たようで助手のさやまくんは俺を目一杯褒めてくれた。そうして毎日軽い調教を済ませて輸送となる。
土曜日になり、俺以外にも保科厩舎の馬5頭積み込んで輸送をされる。景色を見ていると名古屋や色々な都会の景色を見ていたせいか1時間半がすぐだった。
愛知県が目的地だったんだな。
降ろされついに競馬場に着いたがデビューへの緊張で少しお腹が痛くなってきた。
輸送の後の馬運車のボロ取ると大体みんな下痢してるんですよね。馬はやっぱり緊張するとすぐボロが緩くなります。
今日は2話投稿でした。いつもと違いすぎてびっくりです。
明日か明後日までデビュー戦まで書かないと…!




