ケイ視点
ケイ視点です。
ここで初めて、アトーンメントの正体が明かされます。
俺は野白 啓。訳あって塾の講師になった、元警察官。
気付けば無人島に連れてこられていたんだけど……どうやら同じ状況の人が十数人いるようだ。
「とりあえず、食料調達と拠点を作った方がいいんじゃないかなー?」
俺の提案にみんなが頷いてくれた。これからどうしようかと悩んでいると、
「あの、私、探索に行ってきますよ」
そう立候補してくれたのはスズちゃんこと森岡 涼恵。どうやら彼女は薬草や食べられる木の実などを知っているらしい。
シルヤ君も一緒に行くと言い出し、大人と一緒に行った方がいいと告げると、
「大丈夫っすよ!……それに、スズとは二人で少し話したいし」
「そうですね。私もシルヤと話したいです」
そう言われては、俺もこれ以上は何も言えなかった。
とはいえ、やっぱり心配だった俺は二人を尾行する。こう見えて、結構慣れてるからねー。
「……シル、大丈夫か?」
「あぁ、大丈夫だ」
薬草を摘みながら、二人は会話をしていた。
「それにしても……誰が連れてきたんだか……あ、それ食べられるぞ」
「分かんねぇな……心当たりもねぇ。これも食べられるか?」
「みんなそうだろうな……これじゃあ犯人特定も難しいぞ……やっぱりルイスマに聞くしかないか……?あ、それは食べられないから摘まないで」
聞いている感じ、みんなの前で話してもよさそうなものだけど……なんて思っていると、二人から驚愕の言葉が聞こえてきた。
「でも、お前だけは絶対に守ってやるからな。大事な弟は絶対に死なせない」
「オレだって、スズ姉を守ってみせるぜ。オレだって男だからな」
……は?きょう、だい……?
確かに、雰囲気はとても似ていた。しかし、苗字は違うし二人も「親友」と言っていた。どういうことだろうと思っていると、
「ん?何かいる……?」
スズちゃんの呟いた言葉に、俺はビクッとなった。しかしこちらには気付いていないようで、近くからウサギが出てくる。
「お、貴重なたんぱく源になるから捕獲するか」
「お、おう!」
シルヤ君が追いかけていくと、スズちゃんはこちらを見て、
「……それで?いるんでしょう?」
……どうやら気付かれていたようだ。
出てくると、「まったく……尾行するにしてももう少し気付かれないようにしてください」とため息をつかれた。
「……それで?どこまで聞いていたんですか?」
スズちゃんがジッと見つめてくる。
「その……双子ってこととか……」
「……はぁ。趣味の悪い人ですね」
「ご、ごめん……」
スズちゃんのため息に俺は思わず謝った。「まぁ、いいです」とスズちゃんはもう一度ため息をこぼす。
「事情は後で説明するので、誰にも言わないでくださいね」
そう念押しをされ、俺は頷いた。
「スズー、捕まえたぞー」
「よくやったな、シルヤ」
「あれ?ケイさん、来てたんすか?」
「聞きたいことがあったみたいだ。もう少し野草を摘んだら帰ろう」
シルヤ君がウサギの耳を掴んで持ってくると、スズちゃんは小さく微笑んだ。誤魔化してくれたのは本当にありがたい。
夜、話を聞こうとスズちゃんに声をかける。
「……忘れてくれてたらよかったのに……」
ため息をついたけど、約束だからと外に出た。
「……多分、双子なのに苗字が違うことが気になっているんですよね?」
「そうだねー。いろいろ聞きたいよー」
それにスズちゃんは事情を話し出した。
どうやら二人が赤子の時に、シルヤ君が森岡家の分家である憶知家に引き取られたらしく、双子であることは憶知家の人に聞いたようだ。
「でも、さすがに双子だと知られると変な目で見られるって分かっていたので、親友のふりをしていたんです」
「なるほどねー……」
確かに、その理由だとなんとなく納得できる。近くに双子の姉弟がいるのに、苗字が違うとなると世間の目が厳しくなるだろう。
「それだけですか?それなら、そろそろ戻った方がいいと思いますけど」
スズちゃんの言葉に、俺は頷いて拠点に戻った。
「よう、ケイ」
ある日、ゴウが声をかけてきた。どういうわけか分からないけど、彼に好かれているのだ。
「森の中、入ってみないかぜよ」
「うーん……まぁ、俺はいいけど……」
もしかしたら、まだ何かがあるかもしれない。探索するにはいいだろう。
そうしてゴウと二人で入る。……何が悲しくて男と一緒に探索しているのだろうか。
それはさておき、少し進むと海の家があることに気付いた。近付いてみると、
「ちょっと……!変なの作らないでよ……!」
「わわっ!何してるの、ユミさん!」
「おい!こっち大惨事になってるぞ!?」
……料理を作っている人達がいた。かなり悲惨なことになっているが、まぁ気にしてはいけない。
「あれ……?あなた達、なんでここに?」
ピンク髪の女の子が俺達に気付いた。まぁ、大男が二人もいればすぐに気付かれるよねー。
「何してるのー?君達」
俺が尋ねると、スーツ姿の男性が「ま、まぁ見て分かる通りなんだけど……」と事情を説明してくれた。
「メニュー決め、かー……そっちは楽しそうだねー」
「決まらなければ殺されるみたいだけどな」
「全然楽しくなかったぜよ……」
ゴウがガクッとうなだれる。失敗した代償が命とか最悪だ……。
「ねぇ、料理上手な人とかいない?」
こげ茶色の髪の女性が聞いてきた。料理上手、か……。
「それで……」
「私達が呼ばれたってわけですか」
ため息をつくエレンとスズちゃんに俺は「命かかってるみたいだったからさー」と答えた。
「……まぁ、あなたに任せるよりはマシですね。スズエさん、巻き込んでしまってすみません。探索してくれているのに……」
「いえ、乗り掛かった舟ですから」
「可愛いー!」
こげ茶色の髪の女性――マイカというらしい――がスズちゃんに抱き着く。「くーるーしーいーでーす」と困ったように言っていた。
「ごめんね、そっちも大変だろうに」
まだ大学生と思わしき男性――こちらはレイというようだ――が謝ると「大丈夫ですよ、むしろケイさんが手伝うとか言い出さなくてよかったです」とエレンからサラッと失礼な言葉が聞こえてきた。事実だから何も言えなかったけど……。
「それで、どんな料理がいいんですか?」
「簡単なものがいいかな……」
「了解。スズエさん、手伝ってください」
「分かりました、料理長」
こちらは二人に任せていてもよさそうだ。俺達は一度拠点に戻る。
「あ、ケイさん!スズどこ行ってます?」
シルヤ君に聞かれ、俺は「少し用事があるって」と答えておいた。
「あの二人、本当に仲いいんじゃな……」
ゴウが呟く。理由を知っている俺は「そうだねー」とごまかすしか出来なかった。
夜、「シルヤ、ちょっとおいで」とスズちゃんがシルヤ君に呼び掛けた。優しい口調に本当に姉なんだと思わされる。
シルヤ君がスズちゃんのところに行く。エレンもいるようだけど、まぁ踏み込む必要はないだろう。きっと、何かあるから。
俺達が寝た後に、三人は戻ってきたようだ。偶然起きてくると、三人はお茶を飲みながら談笑していた。
「へぇ、そんな作り方が……」
「えぇ、こっちの方が時間もかからないですし、簡単ですよ」
「オレ、作ってみようかな……」
「何の話してるのー?」
俺が声をかけると、三人は面白いぐらいびっくりしていた。
「な、なんですか」
「珍しい組み合わせだと思ってねー」
「邪魔しないでくださいっす」
エレンとシルヤ君が睨んできた。うわぁ、怖いなぁ……。
「二人とも、ケイさんも入れてあげたらいいじゃないですか」
「……スズエさんが言うなら……」
スズちゃんの一声に二人は渋々ながら俺を混ぜてくれた。スズちゃんの力、偉大なり。
「……で、今度はどこまで聞いていたんですか?」
睨んで来るスズちゃんに俺は「何かの作り方は聞こえてきたけどー……」と答えた。俺の場合、前科があるためジトッと見られるのは仕方ない。
「あぁ、オムライスの作り方ですかね。今聞いていたので」
お茶を一口飲むスズちゃんにエレンは「彼女に近付いたら殺しますからね」と殺意を放ってきた。
「エレン、スズちゃんのことお気に入りだよねー」
俺が冷や汗を流しながら聞くと、フライパンで殴られてしまった。
「あぁ、すみません。手が滑ってしまいました」
「絶対わざとだよねー」
「そんなことありませんよ。言いがかりはよしてください」
黒いオーラがわざとだと主張している。しかしこれ以上踏み込むと死にかねないので口を閉じた。
「シルヤ君も、スズちゃんが好きだよねー」
かわりにシルヤ君の方を向くと、彼もキッとにらんだ。
「……スズは絶対渡さないっす」
……番犬と化してるねー。
懐き具合からしてかなりのシスコンだと思っていたけど、ここまでだとはねー。
「シルヤ、ケイさんが私のことを狙っているわけないだろう。落ち着け」
猛犬を繋いでいるスズちゃんがそう言って止めた。……狙っているんだけどなぁ。
「よからぬ気配を察知……!」
瞬間、エレンがフライパンを持った。ヤバイヤバイ、この人エスパーだ。
ちょくちょく海の家に様子を見に行っていると、スズちゃんはよくレイと話している印象だった。
「へぇ……こうしたら早く調理できるんだね」
「えぇ。それにおいしく出来るんですよ」
案外お似合いなんだよなぁ……と思いつつ、エレンに睨まれて大人しくしていた。スズちゃんのことになると怖いなー、エレン……。
それからしばらくして、ルイスマがやってきた。どうやら約束の日らしい。
「海の家の奴らも連れてこい。あいつらも条件は満たしたからな」
ということは、どうやらエレンとスズちゃんがどうにかしてくれたようだ。……どこか遠い目だったのは気のせいだと思うことにしよう。うん。
海の家の人達も連れてきて、ボートに乗る。
「そういやスズ、お前なんで薬草とか詳しかったんだ?」
不意にシルヤ君が問いかけてくる。それは確かに気になった。いくら何でも詳しすぎやしなかったか。
「あー……引かない?」
スズちゃんの問いかけにシルヤ君が「どうしてだ?」と首を傾げる。
「……私、一応情報屋「アトーンメント」なんだよね。だからおじいちゃんからそういうの頭に詰め込まれたの。長い間潜伏することもあるからさ」
その言葉に、一瞬頭がショートする。
情報屋「アトーンメント」は警察の間でも都市伝説上の存在と言われていた。人々を救う「義賊」であり、政府公認の情報屋であると。
そのアトーンメントが、目の前の少女……。
「えぇええ!?」
「うるさいですよ、ケイさん」
「いやいやいや、さすがに落ち着けないからね!?」
「そんなことでいちいち騒いでいたら裏社会で生きていけませんよ」
スズちゃんはまるでお茶でも飲んでいるのかって思うほどマイペースに答える。
――そりゃあ、冷静でいられるのも頷けるねー……。
裏社会に足を一歩踏み入れているのなら、そりゃあ冷静な判断が必要になってくるだろう。女子高生なのに異常なまでに冷静な理由が今分かった。
「安心して、さすがにみんなの個人情報は探ってない。……正確には、ミヒロさんの事件を探るために必要な情報だけは得ていますけど」
急に振られ、ミヒロは目を丸くした。そういえば、彼囚人服だったなー。
「俺の……?」
「はい。正直一部を除く今の警察連中は信用していないので。案の定、ミヒロさんは冤罪で有罪判決を下されているのが分かりましたし。まぁ提出前にこんなことになったんですけど……」
はぁ……とスズちゃんはため息をつく。そこまで分かるのかー。すごいなー。
「戻ったらその情報はちゃんと渡しますよ。アトーンメントが集めた情報だと言えば、たとえ裏情報だとしても証拠として受け取ってくれますから」
さすが政府公認の情報屋、融通は利くらしい。
「ったくあの税金泥棒ども……一度ぶっ潰した方がいいか?最終的に誰がてめぇらの尻ぬぐいしてると思ってんだよクソ野郎どもが……」
「それはやめてねー」
ピキッと青筋を浮かせながら呟いた言葉が本気で、さすがに止める。相当キレている。
「あいつら、冤罪事件を年に五十は起こしてますからね。そろそろキレそう……」
「スズ、もうキレてるぞ……」
「あら、ごめんなさい。毎回毎回火消しをやらされる身にもなってくれ」
多分「気にしなくて大丈夫」と言いたかったのだろう。本音が出てしまっている。
「戻ったら依頼が溜まってんだろうな……何日徹夜かな……」
ズゥウウン……と言う効果音が聞こえてきそうなほどスズちゃんは落ち込む。案外感情豊かな子なんだな……。
そうして一年後。
「あ、スズちゃん。今から仕事ー?」
「はい。面倒な依頼が来たのですぐに終わらせようかと」
情報屋の服を着ているスズちゃんに声をかけると、そう答えてきた。
エレンはどうやらスズちゃん達の兄だったらしい。スズちゃんとシルヤ君にはすでに話していたらしく、特に驚いていなかった。
それから。
「スズエ」
「レイさん」
レイの顔を見て、スズちゃんは頬を染めた。二人はあの後付き合い始めたらしい。なんだかんだお似合いの二人だ。
「気を付けてね」
「はい、ありがとうございます」
では、行ってきますとスズちゃんは行ってしまった。
「エレン、いいのー?」
俺が聞くと、エレンは「スズエが幸せなら、それでいいですよ」と微笑んだ。シルヤ君が「兄さん、飯なにー?」と身を乗り出している。
「今日はオムライスですよ」
「マジ!?やったー!」
「スズエが戻ってきたら食べましょうね」
こうしてみると、本当に仲のいいきょうだいだ。うらやましく思う。
夜、スズちゃんに呼ばれて俺はリビングに来た。皆が寝ている今の時間がいいと。
「何かなー?」
「……気になっていたでしょう?自身の出生に関して」
そう言って、スズちゃんは封筒を渡してきた。まさか本当に調べたの?
まだ無人島にいる時。
「……俺、父親がいないんだよねー」
そう呟いたことがあった。スズちゃんは「そうなんですか?」と事情を詳しく聞いてくれて、
「……まぁ、調べることが出来るかも?」
そんなことを言っていたのだ。その時はさすがにするとは思っていなかったけど……。
「どうやらケイさんの父親は殉職した警官みたいですね。あなたが生まれる前に亡くなったから、ケイさんが知らなくて当然ですね」
「警官……」
「それから、ゴウさんと父方の血縁関係にあると判明しました。まぁ、こんなところですね」
スズちゃんはそう言って「それじゃ、もう寝た方がいいですよ」と後ろを向いた。
「あ、お金は?」
「いらないですよ、それだけの情報のために。これぐらいなら無償で調べてあげます」
それだけ言って、部屋に戻っていった。中身を見てみると、俺の恩人の人のことも書いてくれていた。どうやら俺の父親に助けられて、警察官を目指した人だったらしい。
――本当に調べられてるなー……。
でも、彼女のおかげで前に進めそうだ。




