ミヒロ視点
ミヒロさん視点です。
微弱ながら死ネタが含まれています。苦手な方は気を付けてください。
俺は松浦 実弘。もともとは歌手だったが……ある理由で殺人犯として捕まった。
そのハズ、なんだが……なぜか無人島にいる。どういうことだ?しかも、妹のマミもいる。どうしてなんだ?
「とりあえず、食料は確保したいねー」
金髪の、元警察官だというケイが呟いた。森の中は未知の領域で、誰も入ろうとはしなかったが、
「あの、私、行きますよ」
立候補したのは女子高校生のスズエ。
「君みたいにかわいい子を森に行かせるのはねー」
ケイは軽い口調で止めようとするが、
「いえ、こう見えて食べられる野草とかは分かるんですよ。畑も作れそうなら、出来ますし」
彼女は引かなかった。シルヤというスズエに似た男子高校生も行くと言ったんだが、
「シルヤはここに残っていた方がいい。何かあった時困るからな」
首を横に振る。シルヤは「分かったよ……でも、なんかあったら絶対呼べよ!?」と折れる。
そのまま、スズエは一人で森の中に入った。俺達はそれぞれ出来ることをやることにした。
「エレンさん、これでいいっすか?」
「はい、ありがとうございます、シルヤ君」
スズエが帰ってくるまでの間、エレンとシルヤは料理の準備をしていた。
俺は、怪物が出ると聞いていたので訓練をすることにした。料理も出来ねぇし、器用じゃないから邪魔になるだけだしな……。
「すみません、遅くなってしまいました」
数時間後、スズエが大量の食糧を持って帰ってきた。それをエレンに渡し、
「シルヤ、畑とか養鶏場とか作ったから明日一緒に行こう」
「おう!」
……何者なんだ、スズエ。
数日後、怪物が襲ってくる。
「おい!大丈夫か!?」
叫ぶと、全員頷いた。マミはフウとキナ、ハナを庇っている。
……あれ?スズエは?
どこに行ったのだろうと思って周囲を見渡すと、シルヤの隣に立っていた。
(いやいやいや待て待て待て!)
さすがに危ないと思ったが、それは杞憂であることに気付く。
スズエはかなり強かった。もう一人で倒せるんじゃないかったぐらい。
「ぐっ……!」
「スズ!?大丈夫か!?」
「今は目の前の怪物に集中しろ」
その間に少し怪我をしてしまったみたいだが。
怪物を倒すと、キナが駆け寄って「大丈夫ですか!?」と聞いていた。
「大丈夫だよ、これぐらい」
そこまで酷くないらしい。笑って安心させた。
ユウヤに手当てしてもらい、何事もなかったように探索に向かった。
数日後、マミに声をかけると、
「あぁ、スズエか。あいつはすごいな、何でもできる」
そう言って笑った。
「……でも、もう少しあたし達を頼ってほしいな」
そこに宿る感情は、どこか寂しげだった。しかし、すぐにいつものマミに戻って、
「ほら、兄貴。今日は釣りをするんだろ?」
俺の腕を引っ張って、ハナ達の中に入れた。
今は、スズエは休憩中だ。いつも探索に行っているから疲れているだろうとケイやエレンからのお達しのおかげだ。代わりにユウヤとシルヤが行ってくれている。
「おー、結構釣れていますね」
後ろからスズエの声が聞こえて、ビクッと震えた。
「あ、すみません。暇だったもので」
スズエは特に気にすることもなく、隣に座ってくる。
「……ちなみにその魚、毒があって食べるのが難しいですよ」
「え?」
……しばらくはスズエの知識に頼りきりになりそうだ。
「そういや、森の中に入ったことはなかったな……」
ふと呟いた言葉にマミが反応する。
「一緒に入ってみるか?」
それもいいかもしれない。スズエやシルヤ、ユウヤに頼りきりだったし、もしかしたら何か使えるものが見つかるかもしれない。
そう思って二人で森の中に入ると、声が聞こえてきた。スズエ達の声じゃない。
「まったく……人なんていないだろ」
「ここから脱出するために何かしないといけないでしょ……」
「お、落ち着いて……」
どうやら、同じようにここに連れてこられていた奴らがいたようだ。
「……海の家……?」
マミが呟く、その言葉が聞こえていたらしい、白髪の男子高校生が振り返った。
「ん?あんたらは……」
「あたし達もここに連れてこられたんだ」
マミが事情を説明すると、
「だったら、一緒に生活した方がよさそう……」
不思議なフードを被った女子が考え込んだ。こればかりは独断ではいけないとみんなを連れて戻る。
皆に事情を話すと、
「どうしようかー?ねぇ、スズちゃん?」
「なんで私に決定権があるんですか?」
ケイが相変わらずの軽い口調でスズエに聞いてきた。
「だって、基本的に食料を持ってくるのはスズちゃんだしー」
「……まぁ、いいんじゃないですか?人が増えたところでって話ですし、協力した方がいいと思いますけど」
特に興味もなさげにスズエは答える。しかしそこには深く優しいものも感じた。
許可を得て、海の家の人達と連れてくる。
「よろしくね!スズちゃん!」
「はいはい今から食料採ってくるので離れてくださいねー」
こげ茶色の髪の女性がスズエにくっつき、スズエはため息をつく。しかし、彼女は離れるつもりがさらさらないようだ。ほかの人達は苦笑いを浮かべている。
「シルヤー……助けてー……」
「がんばれ、スズ。オレにはどうすることも出来ねぇ」
ジタバタしながらシルヤに助けを求めるが、シルヤは「代わりに食料調達しに行くから構ってろ」とユウヤと一緒に行ってしまった。
「……逃げやがったな……」
まぁいいけど、とスズエは苦笑いを浮かべた。
そうして、海の家の人達も一緒に生活することになった。
事件が起こったのは、それから数日経った時だった。
再び怪物が襲ってくる。みんなで戦うのだが、
「――危ない!」
スズエがシルヤを庇ったのだ。そのせいでスズエは深手を負ってしまった。
「グッ……!」
「スズ!?」
シルヤが駆け寄る。スズエはシルヤの頬に手を伸ばして、
「よかった……お前が無事で……」
「何言ってんだよ!?スズ!」
「死ぬの……怖いけど……」
シルヤは涙を流していた。その涙をぬぐって、
「シルヤ……お前だけでも、脱出しろよ……」
「待って……!スズ姉!逝かないでくれよ!」
シルヤの願いもむなしく、スズエはこと切れた。スズエの身体が消えていく。
「……あれ?」
俺、何をしていたんだ?今、誰か死んだ気がしたんだが……。
「大事な奴を失った気がすんだが……物忘れか?あいつに困った顔されるな」
シルヤがそう言って、不意に考え込んだ。
「……あいつって、誰だっけ?」
その様子を、ユウヤだけが寂しげに見ていた。
誰かを失ったような喪失感を胸に残したまま、日数だけが過ぎて行った。
「なぁ、これ、誰かが作った後みたいだよな……」
マミが畑や養鶏場を見て、そう呟く。俺は頷き、
「……もらってもいいんじゃないか?また育てられると思うからな」
「そうだな……あたしらも生きるためだ」
そう言って、それをもらっていった。一瞬だけ、茶髪の女子高生が見えた気がした。
エレンに持っていくと、彼はそれで料理を作り始める。
シルヤがそれを食べて、
「エレンさんの作る料理って、あいつの好みの味に似てるっす」
「そうですか。シルヤ君は好きですか?」
「はいっす!いくらでも食べられるっす!」
そう言って笑顔を見せた。あいつ……というのが誰なのか分からない。俺達も知っているハズなのに……。
それから、ユウヤがあの畑と養鶏場の世話をすることになった。時々ランやレイ、シルヤも手伝っているらしい。
「ねぇ、スズエって誰?」
ある日、レイが不安そうに尋ねてきた。
「どうしたんだ?いきなり」
「ユウヤがスズエって名前を言っているのを聞いたんだ。だから誰だろうって思って……」
「ユウヤの恋人とかじゃないか?」
俺が答えてやると、レイは「そうなのかなぁ……?」と首を傾げた。
しかし、そうは言ったもののさすがに気になって、ユウヤに話を聞いてみることにした。
ユウヤは、あの畑のところにいた。休憩中なのか、切り株に座っていた。
「ユウヤ」
「どうしました?ミヒロさん」
声をかけると、ユウヤは不思議そうな目を向けてきた。しかし、その頬に涙の跡があった。
「……なぁ、スズエって誰だ?」
俺が聞くと、ユウヤは「気にしなくていいですよ」と寂しげに笑った。
「ボクの、大事な人ですから」
「……恋人、か?」
「それだったらよかったんですけどね」
よく見ると、腕には赤い花が抱えられていた。その花は一体……。
「その、スズエが好きだった花ですよ。育てようと思って」
嘘だとすぐに分かる。だって、それは摘まれた後だったから。
「……そうか」
しかし、俺はそれ以上何も言えなかった。
結局、スズエとは誰か分からなかった。そんな中、ルイスマがやってくる。
「皆さん、生きてますかー」
そう言って俺達を見て、奴は「ウフフッ!」と笑いだした。
「なるほど、そう来ましたか」
「何がおかしい?」
「いえ、何でもありませんよ」
そのまま何も言わず、ルイスマは去っていった。どういう意味だ?
「…………」
ユウヤはルイスマの後ろ姿をにらんでいた。しかし、「……食料、持ってくるよ」と森の中に入っていった。
その横顔はどこか寂しげだった。
何かを忘れた日から、ユウヤの様子がおかしい。でも、誰もそれに踏み込むことが出来なかった。特に変な行動をとるということもないため、みんなそっとしているのだ。
「ユウヤさん」
シルヤがユウヤに声をかける。「どうしたの?」とユウヤは首を傾げていた。
「オレ……なんか、大事なこと忘れてる気がするっす……。なんていうか……大切な人を、失った気がして……」
シルヤが悲しげに言うと、ユウヤは「そっか……」と弟にするように頭を撫でた。
「今は、忘れていていいと思うよ。君がつらくなるだけだから……」
きっと、あの子も君が苦しむのは望んでいないから。
そう言って寂しく、優しく微笑んだ。まるで何かを知っている口ぶりだ。
――何か、隠してるな……。
でも、それは知らない方がいいことなのだろう。
「兄さん、死んだらどうなんのかな……?」
ある日、マミがそんなことを聞いてきた。あまりに現実離れしていて、俺は一瞬戸惑ったが、
「……さぁな。俺も、分かんねぇ」
俺は妹に、そう言うしか出来なかった。こういう時、彼女ならどう声をかけただろうか?そこまで考えて、ふと疑問を感じる。
――彼女って、誰だ?
思い出せない。そいつに支えてもらっていたハズなのに、そいつの特徴すら覚えていない。なんでだ?
「兄さん、どうした?」
マミの声に、引き戻される。妹だけは、絶対に守り切りたい。
「ユウヤー、その鍵のネックレス、誰かからもらったのー?」
ケイはユウヤがジッと見ている鍵のネックレスを見て、からかうように聞いてきた。ユウヤは特に気にせず、「……まぁ、そうですね」と頷いた。
「へぇ、気になるなー」
「ケイさんには関係ないことです」
からかっているケイとため息をつくユウヤが、まるで弟に絡んでいる兄の図にしか見えない。俺の目はおかしくなっているのかもしれないな……。
「ケイさんが思っているようなものではないです」
「えー?そうかなー?その割には大切そうに見ている気がするんだけどなー」
「……ノーコメントで」
……そろそろユウヤがキレそうだ。
そうして、約束の日がやってきた。ルイスマが「どうします?」と相変わらず不気味な笑みで聞いてくる。
「……ボクは残る」
皆が帰ろうとする中、ユウヤだけがそんなことを言ってきた。
「いいのか?帰れるのに……」
「あの子を、ここに残していきたくないから」
あの子……?と俺達が首を傾げていると、「ユウヤさん」と女の子の声が聞こえてきた。ユウヤの後ろに、シルヤに似た茶髪の女子高校生が立っていたのだ。
「……っ、スズエさん……」
「大丈夫、私は寂しくないよ。あなた達が生きていてくれるから」
ユウヤが目を見開く。その少女は優しく笑っていた。
そして、思い出した。
スズエは、シルヤを庇って死んだのだと。
「ありがとう、私を忘れないでいてくれて」
そして、ユウヤの鍵のネックレスに触れる。
「私はいつまでも、あなたと共に……」
そう言って、スズエは消えていった。ユウヤは涙を流していた。
なんで、今までそのことを忘れていたのだろうか?なんで、ユウヤだけが覚えていたのか。分からないことだらけだが、これでみんな、脱出できるだろう。
数年後、ユウヤはやはり鍵のネックレスを見ていた。
「相変わらず、見ているんだな」
「ん……そうですね」
ユウヤとエレン、シルヤはもう一人の知り合いと四人で事業を立ち上げたようだ。
エレンとシルヤは、スズエの兄弟だと二人から聞いた。思い出した時、すごく泣いていたなぁ。あれは大変だった……。
俺はそのあと、ユウヤのおかげで冤罪であることを証明出来て釈放された。そのおかげでここにいることが出来るわけだが。
「もう、ユウヤさん。ちゃんと働いてくださいよ。はい、コーヒー」
スズエの声が聞こえてくる。いつの間にか、ユウヤの隣に立っていた。どういうわけか、スズエは幽霊ながらこうして出てくることが出来るらしい。
「分かってるよ、スズエさん」
「まったく……いつでもこうやって出てこれるんだから……」
「悪かったって」
ユウヤが苦笑いを浮かべている。ユウヤは本当にスズエが好きだなぁ……。
「失礼します」
その時、マミも部屋に入ってきた。そしてスズエを見て、
「おう、久しぶり、スズエ」
「お久しぶりです」
そう言って、笑い合った。
少々変わった生活だが、これはこれでいいのかもしれない。俺は幸せをかみしめた。




