カナクニ視点
カナクニ先生視点です。
エレンの物語とは違うものになっています。
私は神邦 真次。怪しい見た目で勘違いされますが、こう見えても高校教師です。
無人島……まさかこんなところに来てしまうとは思っていなかった。しかも不思議な空間だ。正直、自信がないのですが……。
「じゃあ、誰が探索行くー?」
元警察官だというケイさんがその場にいた人達に尋ねました。何も分からない状況で率先して探索など、大の大人でも難しいけれど、
「あの、私が行きましょうか?」
女子高生であるスズエさんが手を挙げた。どうやら彼女はサバイバル知識をある程度持っているようで食べられる野草とか罠の設置の仕方とか分かるらしい。
「でも、女の子一人では危険ですよ」
エレンさんが心配そうな瞳をしていた。まるで妹を見ているような、そんな瞳だった。
「大丈夫ですよ、エレンさん。護身術なら身に着けていますし」
スズエさんはそう言った。無表情ながら、ほかの人達を心配しているのが分かる。
「オレもついていくぜ、スズ」
「いいのか?シルヤ。危険だと思うが……」
そんな彼女にそう提案したのはシルヤ君。同じ高校の制服で、親友だと二人から聞いている。
ですが、なんか似ているんですよね……。
雰囲気というのだろうか、二人はとても似ていた。それこそ、親友というには近すぎる。でも、恋人というわけでもなさそうだ。
「……まぁ、いいか。探索するなら人数が多い方がいいし」
どうやらスズエさんはシルヤ君の言うことなら聞くようだ。そこはやはり、信頼関係ゆえだろう。
「ボクも一緒に行くよ。子供だけじゃ危険だし」
「え?ですが、何があるか分からないし……」
「いいじゃないですか。大人も一緒の方が安心できますよ」
ユウヤさんの申し出を断ろうとしたスズエさんに、私はそうフォローした。スズエさんは少し考えていたが、
「……そうですね、そこまで言うなら……」
渋々だが、頷いてくれた。
こうして、スズエさんとシルヤ君とユウヤさんは探索に、私と元教え子であるハナさん、エレンさんとマミさんは家事を、フウ君とキナさんは休憩させ、あとの大人達は訓練をすることになった。
夜、探索組が返ってくると、
「どうでしょう?一応、野草や薬草は取れました。熊はユウヤさんが狩ってくれましたね」
思ったより多く食料を持って帰って来てくれた。
夕食にしようとエレンさんが料理を作ってくれる。そして、各々食べ始めた。
「おいしいですね!先生!」
「そうですねぇ、さすがシェフです」
ハナさんが話しかけてきたので、私も笑って返した。
遠くでは、スズエさんとフウ君が座っていた。
「フウ、これあげるよ」
スズエさんが自分の食事をフウ君に分けていた。
「いいのかニャ?」
「あぁ、私はあまり食べないし、子供は食べた方がいいからな。気にするな」
フウ君の頭を撫でるその姿はまるでお姉さんのようだった。
でも、あれではスズエさんの方が足りないのでは……?
そう思った私は食事後にエレンさんにその報告をした。
「あぁ、そうだったんですね。ありがとうございます」
「すみませんねぇ、気になったもので」
「いえ、大丈夫ですよ。むしろ教えていただいた方がよかったです」
そう言って、彼は笑った。後ろから「エレンさん、少しお話いいですか?」とユウヤさんに呼ばれていた。
「今行きますよ、ユウヤ」
エレンさんはユウヤさんのところに向かう。今、呼び捨てにしたのは気のせいではないでしょう。
「……あの二人、知り合いなんですかね」
そう呟いた声は誰にも聞こえていなかった。
それから数日後、
「先生、これってなんですか?」
ハナさんが魚を持って私のところに来た。
「これは食べられる魚ですね。蒸すとおいしいですよ」
「そうなんですね……」
魚釣りぐらいなら出来ると、ハナさんとマミさんは率先してやっているのだ。そのたびに私のところに持ってきてくれている。
フウ君とキナさんはエレンさんの手伝いをしていた。スズエさん、シルヤ君、ユウヤさんは探索をしてくれていて、ケイさん、ゴウさん、ミヒロさんはやはり訓練をしていた。
「スズエさん、疲れているみたいですけど大丈夫でしょうか……」
ハナさんが心配そうにつぶやいた。確かに、少し疲れている気がする。
「一応、私の方から言っておきますよ」
私の言葉を聞くだろうかと思うが、話してみるだけ話してみましょう……。
帰ってきたスズエさんを呼び、
「その、スズエさん。少し休まれた方がいいのではないですか?」
そう提案すると、
「いえ、みんな働いているのに、私だけ休むなんて……」
最初は遠慮していたが、
「スーズ、カナクニ先生はお前を気遣ってくれてんだぜ?こういうのは甘えたらいいんだって」
後ろからヒョコッとシルヤ君が顔を出し、スズエさんは「……まぁ、そうだけど……」と考えた。そして、
「……それなら、少し休むか……」
素直にうなずいた。やはり、シルヤ君の言葉なら聞いてくれるようだ。
シルヤ君は私の方を見て、「ありがとうっす」と目配せをくれた。
手を焼いているんですねぇ……。
その様子を見て、私は小さくため息をついた。
「先生、スズエさんってすごいんですよ」
次の日、ハナさんが興奮気味に話しかけてきた。どうやら、スズエさんは絵画に詳しいらしく、話があったのだそうだ。
「本当ですか?」
「はい!先生以外と話の出来る人がいてよかったです」
ここまでニコニコしているハナさんも久しぶりだ。大学に入学してから、少し浮かない顔をすることが多かったから。
「それにしても、スズエさんとシルヤ君……」
「どうしました?」
「いえ、あの二人、なんか似ているんですよね……。それに、エレンさんもずっと二人を見ていて不思議な人……」
どうやら、ハナさんも少し違和感を覚えているようだ。しかし、隠そうとしているのだから無理に聞く必要もないでしょう。
それから、私は森の方を見る。
「そういえば、入ったことがなかったですね……」
いつも三人に任せっきりにしてしまっている。ユウヤさんもなんだかんだ言って二十歳と若い、ここは我々大人も行くべきでしょう。
そう思い、私は森に足を踏み入れた。少し歩いていると、騒がしい声が聞こえてくることに気付いた。
「おい!分かんねぇって!」
「あの、これ高校生で習う範囲なんですけど……」
「多分無駄っすよ、レイさん……」
「あぁ⁉なんか言ったか、ラン!」
「ねーえー、これ分かんなーい」
「そこはこうやって解くんだよー」
「えっと……マイカさん……」
「……それはこうやって解くんですよ」
「え?間違ってた?アハハ、ごめんねー」
「……多分、あたしたち終わったわね……」
……どうしてでしょう?関わっちゃいけない気がします。関わったら大変なことになりそうなんですが……。
しかし、そんな私の気持ちなどよそに白と黒の髪色の男性が私に気付いてしまった。
「あれ?あなたもここに連れてこられた人ですか?」
「あ、その……そうです」
あ、これなんか巻き込まれそう……。
「そうなんすね。オレ達だけかと思ってたっす」
「私達の方も、まさかほかに人がいるとは思っていませんでしたよ」
まぁ、いいでしょう。人の命の方が大事です。
「それで、あなた達はここで一体何を……?」
「見て分かる通りだよ、勉強会さ」
茶髪の、少し気の弱そうな男性が答える。まぁ、それしかないですよね……。
「一定の期間内に全員が高点数を取らないと殺されるって……」
……うん?
その……ピンクの髪の女の子と学生服を着ている男の子はまぁ分かるけれど、あとの人達は大学生以上ですよね?なぜ解けない人が多いんでしょうか?
「……あの、私、こう見えても高校教師でして。よければ時間のある時にお教えいたしましょうか?」
そう申し出ると、白と黒の髪の男性が「本当ですか⁉」と目を輝かせた。
「よかった、俺一人じゃ絶対無理だと思っていたんです!」
「どれだけ酷いんですか……」
……この様子だと、私一人が増えても意味ないかもしれませんね……。
レイさんと名乗った彼はどうやら大学生で、かなりの優等生らしい。だから教えていたそうだが、一対六では追い付かなかったようだ。
「……あと何人か連れてきていいですか?」
それを聞いてしまってはさすがに自信がなくなってしまう。そう尋ねると、
「もちろんです!教師役は何人でも欲しいぐらいです!」
……相当苦労したんでしょう、かなり疲れているのが分かります。
さて、では誰を連れてこようかと考えたところ……。
「……え?私に勉強を教えてほしい?」
作業をしていたスズエさんに声をかける。ハナさんにも頼むと、「もちろんいいですよ!」と快諾してくれた。そしてもう一人、となると彼女の方がいいのではと思ったのだ。
「……まぁ、私でいいのでしたら構わないですけど……」
スズエさんは戸惑いながらも頷いてくれた。
二人を海の家に連れて行くと、
「へぇ……ここに海の家なんてあったんですね……気づきませんでした」
「スズエさんも知らなかったんですか?」
どうやら、スズエさんは本当に気付いていなかったみたいですね。
「キャー!かわいい子が来たー!」
「こら、マイカさん。初対面の子に抱き着いたらダメだよ」
マイカさんがスズエさんに抱き着こうとしたところを、レントさんが止める。
「えっと……それで、私達は何を教えたら……」
スズエさんが私を見て、尋ねた。それに答えたのはラン君。
「これを教えてほしいんだ」
そう言って渡されたプリントを見て、「……これ、大学で習うものだろ。なんで小学生や高校生に解かせようとしているんだ?」と首を傾げた。この問題が大学で習うものだと気付いたことにも驚いたし、何より本当にスズエさんが教えることが出来るかと不安が横切った。
「その、すみません。私もちゃんと見ていなくて……」
「あぁ、いえ。大丈夫ですよ、これなら簡単に解けますから」
そうして、スズエさんはラン君に「これは……」と教え始めた。
「ここはこうして……」
「ふむふむ……」
「こうすると、これが出てくるから、これをさらに……」
「なるほど……」
「だから、答えはこうなる」
「そうだったんだな」
「………………………………」
それを見ていたレイさんはため息をつき、
「これ、この子に任せていたらいいんじゃないかな……?」
そんな、ろくでもないことを呟いた。
まぁ、そう言うわけにもいかず四人がかりで教え始める。
「……スズエ」
「……どうしました?レイさん」
「大丈夫?そこの問題児、物覚え悪いでしょ?」
「……まぁ、大丈夫です……いざとなればあなた達がテストするという直前に頭に無理やり詰め込ませるので」
スズエさんが頭を抱えながら、タカシさんの答案を見ていた。あの様子を見る限り、かなり悪いようだ。
「無理しなくていいんですよ、スズエさん」
「いえ、乗りかかった船ですから……」
はぁ……とスズエさんが珍しくため息をつく。これは相当骨が折れそうですね……。
とはいえ、私は別の人を見なければいけない。私の相手はマイカさんとレントさんだけど……。
「これってどうするのー?」
「マイカさん、そこは高校生で習うよ……」
こちらもタカシさんほどではないですが大変そうです……。
ハナさんはナコさんを、レイさんはラン君とユミさんを見ている。
「ラン、ここはこう解いたらいいんだよ」
「なるほどっす」
……どこか、この二人もエレンさんとスズエさんのような関係に見えた。
「あの、エレンさん」
ある日、私は思い切ってエレンさんに聞いてみた。エレンさんは「どうしました?」と首を傾げた。
「その……スズエさんと何か関係があるのですか?」
その言葉に、エレンさんは一瞬動きを止めた。そして、
「……そうだとしたら、どうします?」
振り返り、怪しげに笑った。しばらくそうしていたけれど、
「……私は、あの子とシルヤ君には手を出せませんよ。たとえ何があっても」
それだけ答えて、エレンさんは調理を再開した。その時、スズエさんとシルヤ君が野菜と卵を持って帰ってきた。そういえば、菜園と養鶏場を作ったと言っていた気がしますね。
「エレンさん、野菜が採れましたよ!」
「卵も収穫したっす!」
「ありがとうございます。おいしいものを作りますね」
それを受け取り、エレンさんは優しく微笑んだ。その姿はまるで、そう……。
――兄のようだった。
「カナクニ先生、これってなんですか?」
キナさんが持ってきたのは木の実。私はそれを見て、
「これは食べられるものですよ。薬にもなります」
そう答えた。
「カナクニ先生は本当に物知りなんですね」
「いえ、教師として当然です」
まぁ、私の分野は美術ですが……。
「キナちゃん、一緒に魚を釣りませんか?」
「はい!やりたいです!」
ハナさんに呼ばれ、キナさんはそちらに行ってしまった。フウ君は休憩ついでに椅子を作っていたスズエさんの隣で座っていた。
「姉ちゃん、本当に器用だニャ」
「ありがとう。こういうのは、シルヤの方が得意なんだ」
頭を撫でられると、フウ君は幸せそうに笑った。
それから、前と同じメンバーで海の家に向かう。そして勉強を教えていると、おなかの虫が鳴る音が聞こえてきた。
「……おなかすいたんですね?」
スズエさんがタカシさんに尋ねると、彼は顔を赤くして「……わりぃ……」と謝った。
「ちょっと休憩にしましょうか。何か作りますよ」
スズエさんが立ち上がると、外に出た。どこに行くのだろうと思っているとしばらくして野菜や魚、卵を持ってきた。
「これは?」
「ちょうど近くに菜園を作っていたんですよ。川もそばにあるので魚も捕れるんですよね」
そうだったんですね……。本当にスズエさんは高校生にしてはかなり器用で頭がいいですね。
「ねぇ、スズエってもしかしてさ……ギフテッドか何か?」
レイさんに聞かれ、スズエさんは「よくわかりましたね」と目を丸くする。
「高校生にしては頭が良すぎるからね、もしかしてって思ったんだ」
「あー、まぁ、普通に漢検英検一級を持ってますし。高校生でとれる資格はほとんど取っているハズです」
まさかの秀才だった。だから頭がよかったんですね……。
スズエさんが軽食を作っている間、私達は勉強を教えていた。
「出来ましたよ」
出されたのは、本当においしそうな魚料理とパンだった。
……パンはどうやって作ったんでしょう?
気になるが、聞かないことにした。
「そういえば、その制服って木野山高校だよね?」
「そうですね。レイさんのそのネクタイ、もしかして……」
「うん、木野山高校のものだよ。ネクタイを付けるのが癖になっちゃって」
つまり、この二人は先輩後輩の関係になるんですね……。
「木野山高校は進学校ですよね。何か目標があるんですか?」
私が聞くと、
「いえ……特にそんなのはないですね……シルヤがここに進学したいって言っていたので、なんとなくこの高校にしただけで……」
そう答えた。
どこか空虚な雰囲気だ。何かあったのかもしれない……。
「本当にシルヤ君のことを信頼しているんですね」
ハナさんの言葉にスズエさんは小さく笑って、
「あの子は昔からの親友ですからね」
そう、言った。
あの子?
スズエさんは普段、シルヤ君のことを「あいつ」ということが多い。だから、少し違和感を覚えた。
「珍しいですね、スズエさんがシルヤ君のことを「あの子」というなんて」
指摘すると、スズエさんは目を丸くした後、「……油断した」と本当に小さな声で呟いた。
「おや?これは何か隠しているということですかね?」
聞くなら今しかないと私が問い詰めると、「……カナクニ先生って、時々意地悪ですよね」とため息をつかれた。そして、
「まぁ、誰にも言わないって条件なら話してもいいですけど」
「当然ですよ」
秘密を守るのは教師としても当たり前だ。スズエさんは一つ息を吐き、
「……実はシルヤと私は、双子なんですよ」
「……へ?」
衝撃的なカミングアウトに、私は目を見開いた。確かに、顔立ちや雰囲気は似ていたし、男女の親友にしては仲が良すぎると思っていたけれど……。
「だから言いたくなかったんですよ……」
驚いている私にスズエさんは苦笑いを浮かべた。
「え、本当なんですか⁉」
ハナさんも驚いている。スズエさんは「本当ですよ」と頷いた。
「でも、苗字とか違いますよね?」
「生まれて間もない時にシルヤの方が引き取られましたからね」
「ち、ちなみに、どちらが年上に……?」
「私が年上ですよ。こう見えてお姉ちゃんです」
……なんででしょう、イメージ通りでした。
シルヤ君がスズエさんのお兄さん……イメージできません。シルヤ君がスズエさんに甘えているイメージは沸きますが。
「その、エレンさんとはどういう関係なんですか?」
不意に気になり、問いかける。しかしこちらには、
「エレンさん、ですか?いえ、特に何かあるというわけではないですけど……」
目を丸くした。こちらは特に隠しているわけではなさそうだ。では、エレンさんのあの発言は一体何だったのでしょう?
「でも、少し懐かしい感じもします。料理もどこかで食べたことがあるような気もしますし……」
「そう、ですか……」
……エレンさんにも、もう少し話を聞いてみる必要がありそうだ。
「スズエ、これどうやって作ったんだ?」
「あぁ、これは……」
ラン君がスズエさんに声をかけ、そちらに行ってしまった。……まぁ、お二人は同い年みたいですし、仲良くなるのが早いのかもしれませんね。
後日、再びエレンさんに声をかけた。
「おや。どうしました?」
「いえ、やはりどうしても気になったのですよ。スズエさんとの関係を」
「何でもないですよ。私はただのシェフです」
そう言うが、やはりはぐらかさせてしまう。……では、確信をつきましょうか。
「スズエさんとシルヤ君って、実は双子みたいですね」
それを告げると、途端に目を見開いた。
「それは、どこで……」
「スズエさんご本人から聞きました。ですが、エレンさんのご様子を見る限り、あなたはもともと知っているようですね」
その言葉に、エレンさんは一つため息をつく。
「……嵌めましたね」
「多少いじわるした方がお話してくださると思ったので」
こういうところは、スズエさんに似ている。
「……あの子達とは、きょうだいなんですよ。あの子達は覚えていないでしょうけどね」
聞こえてきた言葉に、私はさらに驚いた。
「では、スズエさん達のお兄さん、なんですか?」
「えぇ、ですがあの子達には言わないでください。……出来たら、自分から言いたいので」
その瞳は、年下のきょうだいをいつくしむものだった。
「スズエさんって、部活何をされているんですか?」
海の家の人達に勉強を教えに行くのが日課になったある日、ハナさんが尋ねていた。
「高校では美術部ですけど、中学では剣道をしていましたね」
スズエさんはお茶を飲みながら、そう答える。
「結構な方向転換ですねー」
「まぁ、剣道部が高校になかったからなんですけどね……」
苦笑いを浮かべるスズエさんに、ハナさんは「でも、いいと思いますよ」と笑いかけた。
「仲良くなりましたね」
私が声をかけると、「はい!スズエさんもいろいろ話してくれるようになりましたし!」とハナさんが笑顔を浮かべた。
「特に、シルヤ君との話は面白いです」
「あの子の話をすると面白いネタは尽きないですからね」
女の子同士だと、やはり話しやすいのでしょう。
「ねぇ、お菓子、食べる……?」とナコさんが二人にクッキーを持ってきた。
「ありがとう。ナコも一緒に話すか?」
「え、いいの……?」
「もちろんですよ!女子会です!」
「あ、それじゃ私もいいかなー!」
「私も混ぜて」
ワイワイと、本当に女子会が始まってしまう。まぁ、楽しそうなのでいいでしょう。
「おっさん。ここ教えてくれ」
タカシさんが私を呼んだ。そちらに向かい、「どこですか?」と覗き込む。
……まぁ、最初に比べたら出来るようになった方でしょう。
スズエさんの教えのたまものでしょうか、少々難しいところを教えてほしいと聞いてきていた。
「ここは……」
教え始めると、レイさんが「タカシさん、そこようやく分かるようになったんですね」と覗き込んだ。
「んだと、レイ。俺だって何度か教えてもらえば分かるっての」
「俺が教えた時は何回やっても覚えなかった気がしますけど」
……実はレイさんって、かなりの毒舌でしょうか?
しかも無意識でやっていそうなのが怖い……。
「お前、時々毒舌になるよな……」
「え?そうですか?」
「自覚なしかよ……」
本当になかった……。
まぁ、これはそっとしてていいでしょう。多分。
「せんせー!一緒にお話しましょー!」
ハナさんが私を呼ぶ。私が近づいて「いいですけど、女子会なのでは?」と尋ねた。
「いいんですよ!」
「それなら、みんなを集めてお茶会にしますか。お菓子でも作ってきますよ」
スズエさんが立ち上がり、キッチンに立つ。甘い香りにつられて、海の家の人達が集まった。
「お、スズエ、菓子を作ってんのか」
「あぁ、ランも一緒に作るか?」
「いいのか?」
「手伝ってくれるならありがたいしな」
それにしても本当に仲よくなっていますね。エレンさんが暴走しないか心配です……。
野菜ケーキを作った二人はみんなの前にお茶とともに置く。
「本当に仲良くなったね、ランとスズエ」
「そうっすか?」
「スズエのこと、好きなのかー?」
「そ、そんなんじゃ……!」
タカシさんにからかわれ、ラン君は顔を赤くしている。スズエさんの方は特に気にするでもなくお茶を飲んでいた。
「それにしても、スズエさんってなんでもできますよね。お母さんに教えてもらったんですか?」
ハナさんの何気ない言葉に、スズエさんは目を丸くする。
「え、いえ。独学ですよ。両親は帰ってこないので」
その言葉に、ハナさんも目を丸くした。しかしスズエさんは何かおかしなことでも言った?とでも言いたげな反応をしていた。
「すみません、少々お尋ねしても?」
私はスズエさんを呼び、聞くとスズエさんはキョトンとしながら頷いた。
「その……ご両親は帰ってこないと言っていましたが、いつからですか?」
「生まれた時からですけど……」
「生まれた時?そんなことはないでしょう?」
「あー……父方の祖父母が代わりに育ててくれたんですよ。でも、その祖父母も二歳の時に亡くなって……それからはほとんど一人で過ごしてましたね。憶知家のおばさんや知り合いの先生が時々来てくださっていましたが……」
それは育児放棄では……?と思ったけれど、スズエさんはよく分かっていないようだ。
……まぁ、そんな環境で育った子供は自覚出来ないと聞きますが。
この様子を見る限り、それは本当なのかもしれない。
「……あのですね、それは虐待になりえます」
私がそう言うと、スズエさんは寂しい表情を浮かべる。
「それは、ユキナさんにも言われました。でも、私からしたら当然のことだったからよくわからないんですよ」
……思ったより、彼女は孤独に育ったのかもしれない……。
戻ると、シルヤ君が「スーズ!」と声をかけた。
「どうした?シルヤ」
「これ、作ったんだぜ!」
シルヤ君がスズエさんに見せてきたのは椅子だった。
「おー、すごいな」
「へへ……」
姉に褒められて、シルヤ君は嬉しそうだ。
「ご姉弟って分かっていると、微笑ましい図ですよね」
「分からない人には恋人に映りますけどね……」
ハナさんとそう言って笑う。
数日後、海の家の人達のテストなるものが実施された。その前にスズエさんが最後の詰めをしていた。
テストをさせに来たのはルイスマ。
「では、やってもらう」
その言葉と同時に、海の家の人達は始めた。これだけ見るとただのテスト風景なのですが、命がかかっているというだけで見え方が変わってきますね……。
私とハナさん、スズエさんは見守る係です。あとはもう、彼ら次第ですから。
テストが終わり、ルイスマが「結果次第では……分かっているな」と不気味に笑いながら採点していく。
「だー!終わったー!」
「タカシさん、大丈夫でしょうね?」
レイさんがジトっと見ると、「大丈夫だって!」と自信満々に笑った。
「分かんねぇとこ、スズエに教えてもらったこと思い出して書いたし!」
「……大丈夫かなぁ……」
一気に不安になってしまった。
しかし、そんな不安も一瞬だった。
「ちっ……。全員合格だ」
悔しそうにルイスマは呟いた。
「あー!ホンットによかったー!」
レイさんが珍しくガッツポーズをする。ハナさんは「やりましたね、ナコちゃん!」とナコさんの頭を撫でていた。
「とりあえず、おめでとうございます」
「とりあえずってなんだよ。でもまぁ、ありがとな、スズエ!」
スズエさんもタカシさんに拍手を送った。
「ちゃんと覚えてくださいね」
「うっ……善処するぜ……」
「それ、善処する人の言葉じゃないですから」
頭をかくタカシさんにスズエさんはため息をついた。
「まぁ、いいや。これで私の役目は終わりましたし」
確かに、私達の役目は勉強を教えること。それが終わればここに来る必要はない。
「え?もう来ないの?」
マイカさんが悲しげな瞳をしていた。
「スズエさん、遊びに来ましょうよ。せっかく仲良くなったんですから」
「……まぁ、たまになら」
……スズエさんって、実はツンデレってやつなのでしょうか?
なんだかんだ言って、スズエさんは嬉しそうだ。素直じゃないですね……。
そうして、約束の日が来た。私達は海の家の人達も呼ぶ。
「みんなで帰れますね」
レイさんが小さく笑った。
皆で日本に戻ると、
「あー……懐かしいなぁ」
シルヤ君が大きく伸びる。スズエさんが「たまにはご飯作るぞ。何食べたい?」とシルヤ君に聞いた。
「オムライス!」
「はいはい。それじゃ材料を買ってこようか」
「あたし、スズエの手料理を食ってみたいな」
マミさんがヒョコッと顔を出す。
「まぁ、あそこから帰ってきた記念としてみんなで食べますか」
スズエさんが自分の家に招いてくれる。かなり大きな家で、お嬢様だということが分かる。
スズエさんがオムライスを作っていると、
「手伝いますよ」
エレンさんが隣に立つ。一緒に話している二人が微笑ましかった。
数年後、ハナさんは教師になった。
「先生!」
ハナさんが笑顔で私に駆け寄る。
今日はスズエさんのところに行く約束をしていたのだ。スズエさんはあの後、祖父母の研究を受け継いで研究所を立ち上げた。
二人で向かうと、スズエさんは「いらっしゃい」と笑って招いてくれた。
彼女はきょうだいとユウヤさんと一緒に過ごしているようだ。エレンさんが兄であることと、ユウヤさんがその兄の知り合いだということはちゃんと聞いたらしい。ほかの人達も近くに住んでいると聞いている。
これからも、この幸せが続いていくのでしょう。
私は、それをずっと見守っていきたいものです。




