余話:ある高位司教の呟き。
本日更新二回目。
読んでいてキツいかも知れません。
合わない方もおられると思いますがご容赦ください。
私はそれに出会うまで、自分の役目を知らなかった。
誰よりも深く深く神学を学んだのに、人を、世界を見ていないとして北方の神殿へと左遷されて、こんなはずではないと世界に対して鬱屈した感情を抱えていた。
自分はこんな場所で終わるはずなどないんだと。
だから孤児院の運営を任された時も、私の能力に見合わない、大したことのない仕事だと思っていた。
でも、それは間違いだった。
そこにこそ神の意志はあり、私の運命もそこにあったのだから。
――その子を見出した時、これこそが神の意志だと思った。
生みの親を亡くし、私のいた孤児院に引き取られてきた少女。
褐色の肌と紫水晶の瞳を持つその娘は、魔族の血を引くとされ、周囲から忌避された末に、私の所へと流れついた。
同じ人間であるというのに、人が人を忌避し差別するというのは、神の教えには反している。
しかし、魔族は人間の敵。
その血を引くのなら、拒絶するのは当然。
汚らわしい存在なのだから、より深く身を慎み、より厳しく罰を受けるのは当然のこと。
……そう。
それは、定められていること。
だから私も、彼女には厳しく接した。
厳しく躾を行い、神の御心に沿うようにと育てた。
鞭をもってその身に教えを刻み込むのは、彼女自身の為なのだから。
その身に流れているのが穢れた血だと、痛みをで教えることも。
その穢れを薄めるためには、神の教えに従うしかないことも。
これが間違っているとは思わない。
だって……
ああ、ああ!
あの子は、あんなに輝かしい、信仰の光を手に入れたのだもの!
物覚えが悪いと折檻をした後で、反省室に閉じ込めた時に、その傷を癒すために、彼女が発した光。
誰より深く神と繋がった、あの光。
息を吸って吐くのと同じように、加護の力を引き出す、あの……!
あれを初めて見た時の、魂の芯から震えるほどの感動は、今なお薄れていない。
――だって、だって!
私が、間違ってはいないということだもの!
泥の中に人を落とし、そこから這い上がるものにこそ神は恩寵を与える。
私という試練を与えるものと、彼女という穢れたものが出会ったということは、それを満天下に示すための運命。
そして私こそが、神の教えを正しく理解しているということ!
私はすぐさま、彼女とともに王都の神殿に上がった。
いかにして神の加護を引き出せば良いのか、それを最も正しく知るのは、私なのだから。
彼女を見出し、導くことは、神殿の誰もが認める正しい行いだった。
とは言え彼女ほどの素材は王都にすらいなかったけれど、王都にも彼女のような子供たちはいた。
だからその子たちを彼女の様に教育し、鍛え、力を持たせた。
その時の大地の神殿は、あの忌まわしい邪竜と戦った結果、戦力が摩耗していた。
それこそ神殿という組織の維持も難しいほどに。
そんな折に、私の提唱した道は強い戦力を得られると、教団内部で高い支持を得るに至った。
あの頑迷な前聖騎士長のように反対した者もいるにはいたけれど、彼女が出した実績の前には口を閉ざし、私に道を譲るしかなかったのは、内心で喝采すら叫んだほどのことだった。
まだ最年少ということもあり、彼女はまだ正式に聖騎士の位を授かってはいないし、そこまでは私の力でも出来はしなかった。
これもあの非主流派の抵抗かと思うと悔しくもあるが、それも彼女が私の作品として完成するまでの事。
彼女は――私の最高傑作は、聖騎士などというところで終わるようなものではない。
あらゆる魔物を、それこそあの邪竜すら打ち倒せるだけの力が、あの子にはある。
それだけの力を神が……いや、私が与えたのだから。
命を削って戦うことこそが、あの子の存在意義。
その力をもってすれば、聖騎士以上のものになれる。
そう……正しきもの、神の使い、魔を祓うもの。
……勇者に。
それも命を懸けてすら邪竜を倒せなかった太陽神の勇者のような、出来損ないの勇者ではない。
そのニセモノの栄光を盾に栄華を誇る太陽の神殿や、それに追随しているだけの海洋の神殿など、過去の遺物に出来る……本物の勇者。
その時、私は勇者を産み育てたものとして、最高の地位に登る事が出来る。
本来私があるべき場所。
大地の神殿の……いや、この国全ての信仰の頂点に立つ教皇。
……あるいは、聖母にだって。
あの子は神の子だもの。
それくらいのことは当然に出来る。そうなるように私が育てたのだから。
ああ、ああ。
その日が待ち遠しい。
ユーミ。
ユーミ・アルティール。
私の愛しい仔。
早くこの世界を、光で照らすのです――。




