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死霊術師のスローライフ  作者: おぼろくらげ
――二人の選ぶ道――
27/28

25:まあ、そういうことになりまして。

更新に間が空いてしまいましたが、今回より新章です。


    * * *


「それでさ、同性愛っていうのは大地の神殿的にはどうなの?」

「大地の神は仰られております――産めよ育てよ地に満ちよ、と!」

「それ答えになってないよね!?」


 翌朝、大地の神殿からの依頼のために家を離れる朝。

 秘密にする気も無いし、そもそもユーミがそういうこと隠せるとも思ってなかったので、親代わりと言えそうなガルさんに報告というか相談してみたところ、そんな返答が返ってきた。

 いや、彼女の両親はもう亡くなっているから本人の気持ち次第で良いんじゃないの、と思いもするけれど、やっぱり周囲には祝福か、理解はしてもらいたいよねということで。


「あ、いや私としては幾つか縁談のあても考えてはおったのですが」

「やっぱり考えてたか……気持ちはわかるけど」

「そういったものが無駄になって悔しいといいますか許さぬぞという感情もまあ否定は致しませぬが」


 あ、やばい殺気が。

 ガルさん笑ってるけど目が本気(マジ)だ。その視線が、ユーミの左手の薬指に填まった、銀の指輪に突き刺さっている。

 同じ指輪は私の指にも填まっていて、これはうん、まあ――そういうこと。


 これは私は冒険者時代に手に入れた一対の指輪で、填めた者同士の間に魔術的な経路(パス)を作り、支援をしやすくするという品なんだよね。

 それだけじゃなくて感情だとかも伝わる代物で、これまでは使い道がなくて倉庫に死蔵していたんだけど……そういうことになったので引っ張り出してきた次第。


 まさか使うことになるとは思わなかったけど、貰ったユーミが泣き出したり転がったり手を見て笑っていたりと、なかなか可愛くてすごかった。

 具体的にどう可愛かったのかは私一人で独占したいので、誰にも教えてはやらないけど。


 一応落ち着いたから報告しに来たんだけど、今もガルさんの鋭い殺気をものともせずに、幸せいっぱいの空気を振りまいていて、ほとんど無敵だった。

 それはガルさんも理解したんだろう、溜息をついて頷く。


「……ともかく本人がそう決断したのなら、それは尊重すべきだろうと」

「ありがとうございます!」

「……なんかごめん」

「謝られるようなものではありませんが、泣かせようものならこの老骨が砕けてでも制裁しに行きますからな、お覚悟を」

「うん」


 ユーミはまだ年若いけど、それでも馬鹿ではないから、考えて決断したならそこは尊重して受け入れる、と言ってくれたのはありがたい。

 三十年ちょっと生きてきて、まさか自分が年下の女の子に押し倒されて、結婚宣言されるとか思ってもいなかったけど……私で良いなら、というか自分でも幸せにしてあげたいと思うわけだし。

 いや人生何があるかわからないもんだね、ほんと。


 隣でにこにこしているユーミだけど、初対面の印象は何というかまっすぐで、素直で真面目な子、という印象だったんだけどなぁ。

 ……まっすぐ真面目だから、自分の気持ちにまっすぐ真面目に従った結果か。


「話を戻しますがね、産めよ増やせよというのはいわゆる大地の上で生きる、全てのものに共通することであり、大地の神の教えの根幹をなす考えではあるのですが」

「……それなら同性愛ってよろしくないんじゃないの?」


 同性で子供を作れるわけじゃないんだし。

 真剣に研究してみても良いのかもしれないけど、それはそれとして一般論としてね。

 しかも私はともかくユーミは聖騎士なわけだし。

 神殿としては他の信者さんの手前、示しがつかないんじゃないかと思うんだけど……という考えを話してみると、ガルさんはふむ、と顎に手を当てて暫し考え込んで。


「こういうことを魔法使い……いや、学者の方に言うのは少々気後れもしますがな、まず生き物の自然な性質として、異性同士で番いを作り子をなし、種族の繁栄を目指す。これは確かなことでしょう」

「あんまり詳しくはないけれど、大地の神殿というか、概ねどこの神殿でも同じことを言うよね。生命の摂理という意味でなら魔術の学院もそうだけど」


 ガルさんも私の言葉に頷いて、話を続けていく。

 しかし、と。


「しかし、それだけが正しい形でしょうかな。例を挙げるなら、接ぎ木、挿し木というものがありますな。あれは種を継ぐことなく増やす手法。人の手が関わるものではありますが、それでも増えていくのもまた確かなこと」

「何かが継がれ、繋がるなら良い、ってことですか?」

「然り。ユーミ嬢もそこは心得ておきなさい。愛する人を愛するのも大事なことですが、叶うならばそこで終わらぬように」

「……はい!」


 要はお互いの気持ちが一番大事だけども、好き好き大好きで終わらないように、ということ。

 そう言ってくれるのなら、ってちょっと肩の荷が下りた。

 私個人がどう思われても知ったことではないけど、ユーミが悪く言われるのは我慢ならないからね。


「初めてガルさんから司教らしいことを聞いた気がするよ」

「ははは、私とてただユーミ嬢を甘やかして育てたいなどと思うばかりではないのですよ」

「自覚はしてるんだ?」

「恥ずかしながら、現神殿の主流派とは揉めたこともありますからな」


 苦笑というには苦みが強い表情で、ガルさんが私に向き直る。

 そして深々と頭を下げて。


「――ユーミ嬢を、よろしくお願いいたします。私では守ることが出来ませんでしたからな……」


 その言葉に、どれくらいの感情が込められていたのか。

 それは間違いなく、一個の父親の姿だった。



    * * *



 そんなこんなで街を出て数日。

 依頼にあった魔物は王国の北の方――北の辺境伯の領地の、そのまた辺境に出たとのことで、旅の経路としてはとにかく北上というか、南の辺境伯の街から王都を通り、そして北へ、というルートを選択した。

 この辺り、別に奇をてらって変な道を行っても時間が掛かるだけだし、船などの近道もなかなか難しいので、最終的に多少時間が掛かっても定番の道を行くのが安定しているからなんだよね。


「早馬とか使えばもうちょっと時間を短縮出来るんだけどね」

「とは言え、今のところそこまでするほど切迫しているわけではありませんからね」


 私の言葉に答えたのは、今回見極め役というか、お手伝いとして指名を受けたクリスティンさん。

 普段はガルさんの秘書的な立場の人で、将来は聖騎士にもと将来を嘱望されているらしい。


「それは良いんですけれども……本当に聖騎士ユーミの拳をしのぐんですね」

「いくつか小細工をしているだけなんだけどね……正直ひやひやものだよ、ほんと」


 道中、休憩中に軽い組み手をやっている私とユーミを見ながら、感心した顔で頷いているクリスティンさん。


「うう―……宿題って言われてますけれど、悔しい……」

「基本的にどうやって防いでいるかはわかっているよね?」

「それは、はい。魔法で作った壁で、ボクの攻撃を受け止めているんですよね?」


 それはそう。

 幻影でごまかしているわけでもないし。とは言え普通に受け止めるには厳しいから、魔法を使わせてもらっている。


「大事なのはその使い方、ってところかな」

「使い方……ですか」


 うーん、と考えこんでしまうユーミ。

 この辺りの機微は無手で戦う彼女には、逆に解りにくいのかもしれないな。

 見ると、見学していたクリスティンさんの方が何となく得心したような顔をしているし。

 彼女の装備を見ると、円盾(シールド)鎚鉾(メイス)だから感覚的に解りやすいのかな。


 魔物の類というのは、膂力を考える限り人間より強い。

 そんな魔物の一撃にいかに耐えるか。そういうことは盾を使っている方が解りやすいだろう。

 ユーミは基本的に、高速で問答無用で突っ込み一撃、あるいは避けて反撃、というやり方だしね。


 それに実のところ、私としてはユーミにこの防御法を教えようとは思っていない。

 必要ではあるかも知れないけども、それよりもそこから先に理解できることの方が重要だから。


 とはいえ急いで身に付けるものでもないし、今はゆっくり積み上げていけば良いだろう。


 そうして道すがら組み手や、家から持ってきた本を使ってあれこれと授業めいたものをしながら、道なりに北上を続けると、南の辺境伯の街を経て、やがてそれよりも大きな街が見えてくる。

 この国の中枢、王都だ。


「王都に来るのも久しぶりだなぁ……」

「ボクはアーミリアさんの所に行くまでは王都中心に任務してましたから、久しぶりって感覚は無いですけど……」

「冒険者を引退して以来だしね。それまでは魔術の学院とかにもいたし、王都での生活も長かったんだけどね。まあ今回は寄り道は無しかな、任務果たす方が先だろうし」

「目的地はここからもっと北ですしね」

「一応王都にきて、挨拶も無しってわけにはいかないだろうから、ユーミとクリスティンさんは行ってきてくれて構わないから。こっちは宿にいるから」


 そういうことでユーミも頷いて、馬車は王都へと進んでいく。

 ここで大まかな依頼の話を聞いてもらったり、北の辺境伯の領地の現状なんかの情報を集めて、それで改めて、とは思っていたんだけど……。



 ――まさか、あんなことになるとは……ね。



    * * *




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