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死霊術師のスローライフ  作者: おぼろくらげ
――あたらしい住人と、流れる日常。――
25/28

23:職業選択の自由って……?

    * * *



 ――ふん、だ。

 司教様のバカ。

 ボクだっていつまでも子供じゃないし。


 それはその、まだ背も低いし体も細いし、子供だって言われても仕方ないけど。

 まだまだ未熟だし色々知らないことの方がすごく多いしアーミリアさんには教わることばっかりだし。

 おっぱいもおしりもちっちゃいしこの先大きくなってくれるのかなぁとか思っちゃうし……。


 なにより。なにより……


 ……男の子のリリウムちゃ、じゃなくてリリウムくんの方が美人っていうのはちょっとっていうか凄くショックでした神様――!


 ……そうじゃなくて。

 リリウムくんはアルラウネだから仕方ないんだもん。

 近くで見るとなんていうか、触ったら壊れちゃいそうな、っていうのはああいうことを言うんだろうなぁ。

 目も鼻も唇も耳も髪もとってもきれいで、思わずぎゅっと抱きしめて、守ってあげたくなってしまう。


 ……ボクみたいなちんちくりんより、アーミリアさんが選ぶなら、ああいう子なのかも。

 何より……女の子じゃなくて、男の子だし。


 それでも、ボクは、アーミリアさんのことが好きです。


 ……好き、なんです。


 一目惚れ、っていうのは……ああいうことなのかな。

 まだよくわからないけど、初めて出会ったとき、目が離せなかった。

 倒すべき死霊術師って聞いていたのに、そんな気にはなれなかった。


 ボクの教わってきたものがおかしいって怒られて、あの人の知っていることを教えてくれる、って言われて、それがとっても嬉しかった。


 エルフの森の時も、あの人の役に立てればって無理をして。

 長老様に癒されたあとで助けに入れた時も、ほっとしたしうれしかった。


 あの時が、ボクがこの気持ちを抱きしめた瞬間だった。

 ボクは、あの人が好き。

 あの人の傍にいたいし、あの人のものになりたい。


 あの人が死霊術師っていうんだったら、ボクの魂を、あの人にあげても良い。

 そのくらい、大好きなんだ。


 けれど。

 けれど――



    * * *



「聖騎士ユーミ、先ほどは済まなかった。少し……話せないだろうか」


 自分を落ち着かせようって思って、日課にもなっている格闘術の鍛錬をしていたボクに、アーミリアさんとの話を終えたらしい、ガル様が歩み寄ってくる。

 さっきはガル様があんなことを言うなんて、すごく驚いてしまって、つい心にもない……う、嘘は駄目だよね、思い切り感情をぶつけてしまった。

 だからボクだって悪い。


 ボクは……そういうことをしちゃ、いけないんだから。


「……大丈夫ですよ。ボクの方こそ、申し訳ありませんでした」

「儂の方こそつい感情的になり、大人げないことを言ってしまったな」


 ガル様は先代の聖騎士長で、今は高位司教として大地の神殿の取りまとめをやって下さっている。

 その方があんな、こう……うん。


「儂は今でもね、君には儂の元で働いてほしいと思っておるよ」

「ありがとうございます。でも、それは……」

「解っとるよ、アーミリア殿も、本人が納得するまいと言っておった」

「……その、あの人は、なんて……?」


 名前を聞いただけで、胸が高鳴った。

 ああ……やっぱりボクは、あの人のことが、好きなんだ。


「本音で言うなら、大地の神殿は抜けさせて、自分の元で育てたい、とね。だが、本人が聖騎士として働くことに、大地の神殿の教えを大事にしている。だからそれは叶わないだろう……とね」

「う……」


 口籠ってしまったボクに、ガル様は目を細めて話を続ける。


「そこで迷う程度には、かのお人にも魅力を感じておる、というところかね」

「や、そうじゃなくて、これはそのっ……そういう意味じゃっ……」

「ははは、隠さんでも良いよ。本音を言えば儂も、()()聖騎士にということであれば、そうさせたくはなかった」


 けれど、ボク自身がそれを望んでいたから、()()()()()()()()()()()()()()()()から、それ以上のことは出来ずに、可能な範囲で生き延びる術を教えることしか出来なかったのは、自分の、ガル様の落ち度だと。

 ガル様が、先代の聖騎士長様が、悔しそうにそう言ったのを、ボクは黙って聞いているしかなかった。


「ともあれ、その彼女からの提案だ。聖騎士ユーミ、君を正式にこの死の荒れ地の開拓に、協力者として求めたいと。儂は、本人の希望次第だとお答えしてある」


 その上で個人として言うならば、と付け加えて。


「儂としては忸怩たるものもある。君も知っているだろう、彼女は君のことを、君の未来を、我々の神殿には任せられぬと、そう言っていた。――それを認めるのは……やはり、悔しい」

「司教さま……」

「だが否定は出来なかった。儂もそう思っているからだ」


 まっすぐにボクを見つめている司教さまの視線から、目を逸らすことが出来なかった。


「――君は、何になりたいのだね?」



 その言葉に……頭の芯のところを、殴られたような気がした。

 ボクはそれを、当たり前のものだと思っていたから。

 ……ボクは、聖騎士にならなくても……いいのだろうか?



    * * *



「それで俺のところに来られてもだな」

「ごめんなさい……他の人には相談出来そうもなくって」

「まあそれもそうか。神官連中は大概、なりたくてなる奴ばかりだろうからな」


 特に、加護を得るような連中はそうだろうな、と作業の手を止めて答えてくれたのは、ナハトさん。

 ガル様に問われて、改めて考えてみて気づいたのだけど、ボクは……聖騎士になるしかなかったから。

 何になりたいかなんて、考えたことがなくて。


 だから、他の人に聞いてみようって思ったんだけど――


「アーミリアから聞いたかも知れんが、俺は乱破……こっちでは斥候とか、密偵っていうのか、そういうことを生業にしていた里の生まれでな」


 そういう意味では、自分の将来を考えたことはあまり無い、というナハトさん。

 物心ついた時にはそうなるものだと思っていたし、実際そうなっているから特に迷うことも無かったとかで。


「だがまあ、里が焼かれて一族が離散した時にだな、やはり考えることはあったよ」

「さらっと流されましたけど重くないですか?」

「重いかな? うちの里は個人主義だったからな……他にも俺の里のようなところはあって、そっちは結束のために宗教的なものになっていたところもあるにはあったんだが……」

「あったんだが?」

「恭順を求めた領主に一族結束して逆らって根切りにされたな」

「根っっ……」


 やっぱり重くないかな……?

 重いよね?


「とは言え密偵だのはやはり、国の急所を調べたりすることも多いからな。そういったことを知るものは少ない方がいいし、罷り間違って暗殺対象にでもなったら恐ろしいからな。そうなるよりは消してしまおう、という考えもわからんではない」

「は、はぁ……」

「話がずれたな。そうして一人になったときに、やはり考えはしたな。自分に何が出来るのか、何になれるのか、とは」


 今も大工のまねごとをしているように、城を調べるために図面を引くことを身に付けたり、陣地を作るために覚えた色んなことを使えば、職人になれもするだろうし、里ではなくてナハトさん個人として密偵の仕事をすることも出来ただろう。

 だから一人になったとき、自分に何が出来るか、何がしたいのかとは考えた。

 そしてその結論は――


「結局他に能も無いしな。こうして密偵……というか何でも屋になっているよ。それにちゃんとやれれば飯も食える、寝床にも困らん」


 その時々で、やれそうな仕事をこなすだけの技能は身についていたし、その気になったら盗賊とか山賊が出来るくらいには剣の腕もあったから、その日の仕事に困ったことはあまりないそうで。


「強いて考えて選んだことがあるとすれば、生まれた東の辺境ではなくて、もっと別の所に行ってみようか、と思い立ったくらいだな」


 そうして流れてきて今に至るよ、という話だった。

 ナハトさん的な結論としては……


「何になりたいにしても、身に付けたものはそうそう裏切らんな。まあ俺はあまり頭が良くないから、学者だの商人だの呪い師だのという知恵者にはなれる気はしないし、なる気もないが……」


 もうほとんど完成している新しい家を見ながら、考えながらも答えてくれる。


「俺の場合は、身に付けたものが自然に今を決めてくれた、というところかな」


 お前にもそういうものはあると思うぞ。

 そう言ってナハトさんは話を締めくくってくれた。



    * * *



「……なかなかに難しい問いだな」

「そ、そんなに深刻に考えなくても良いと思うんですけど……」

「いや、我々エルフは森の中の役割を自然に分担するものだが、それに異を唱える者がいないか、というとそういうわけでもないのだ」


 たまたま、最後の届け物だということでエシルゥアさんが来てくれていたので、ナハトさんに続いて聞いてみたのだけれど。


「森の中に暮らす分には、さしたる問題はない。長く続いた習慣と経験で、身に付けるべきものは身に付けるし、特に学ばずとも困ることはなかったな」

「勉強しなくても大丈夫、って……?」

「エルフは自らが住まう森の維持を自らに任ずる。それは良いね?」

「はい、そこは……はい」

「その維持の仕方というのは、育つうちに当たり前の習慣として先達から教わり、身についていくものなのだ。だからよほどの変わり者でない限りは、そこに……自らがエルフであることに疑問など持たぬし、困ることも無い」


 種族と生き方は分けられないもので、それはエルフにとって当たり前のことなのだ、とエシルゥアさんは言う。

 精霊と語り、歌舞音曲に親しみ、森を維持する中で弓や剣の扱い方を身に付けて。

 エルフは長く生きるから、たとえ最初は下手でも練習しているうちに上手くなるものだとか……それは何十年も練習してれば上手くなるよね、なるほど……。

 そして、森の中で生きる限りにおいては、それで十分だし、不足が出るものではなくて。


 けれど、たまに……交易なんかで他の種族の考え方に触れたり、好奇心が大きくて森の外に出る人もいるのも確かで。


「そういう人のことは、どう思っているんです?」

「変わり者だな、とは思うが、それも彼らの選んだことだろうからな。森は豊かで、生きる上で必要なもの、清らかなものは全て、森の中にある。――けれど、それだけでは生きられない者もいる。それもまた、確かなことなのだ」


 エシルゥアさんは、ちょっと苦くて、どこか羨ましそうな顔でそう言った。


「何かを、もっと多くを知らねばならないという、自分の中の衝動に突き動かされたエルフを知っている。森は豊かで、そこに必要なものは全てあるけれど……本当に森が全てなら、世界は森だけで良いはず、けれど現実に森の外はある。だから識りにいくのだと」


 そう言って森を出たエルフがいて、その人はまだ帰ってこない。

 けれど、とてもまっすぐな目をしていたという。


「必要か不必要か、そうあるべきかそうあるべきでないか。それだけでは測れぬものは確かにあって、あれはそれを知りに行ったのだろう」


 そう語るエシルゥアさんはとても遠くを、世界のどこかを歩いているその人を見ているような目で。


「……道を違えた時は裏切られたとも思ったし、失望もあったが、今の立場となり、お前たちのような森の外の者たちと接するようになって、そう考えるようにもなった」


 私は森から出る気は無いがね、という言葉は内向きでも、頑なでもなくて。


「だって、私が森に居らねば、あれが帰ってきたとき寂しがるだろう?」

「……もしかして惚気ています?」

「そ、そんなことは無いとも。私とあれは確かに許婚ではあったが、それとこれは話は別だ。身を固めろとも言われるがそれは今の立場が忙しいだけであって、断じて関係は――」


 そのエルフさん、女の人だったんだね。

 精一杯真面目な顔をしながらああだこうだと言うエシルゥアさんを見て、思わず笑ってしまった。

 エシルゥアさんも、困ったような顔で笑ってくれた。


「そうだな、私から言えることは――出来るか出来ないか、何かをすべきかそうでないかだけで考えるものでもないのだろうと、そう思うということだな」


 変わらないことを選んで、でもちょっと変わったエルフさんは、そう言った。

 出来ることでも、すべきことでもないこと、かぁ……。



    * * *




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