第1話:鑑定の会計(チェックアウト)
ゴミスキルと思われていたスキルを持った、引きこもりニートが低いステータスでも圧倒的なスキルの無法さによって最強の暗殺者になる物語です!
楽しんでもらえたら幸いです!
鳥の声がする……。
じわじわと光がまぶたを通り越して入ってくる。
俺は重いまぶたを少し開いた。もう朝か……。
いつも通り顔を洗い、目を覚まし、デスクに座り、今日発売の新作ゲームを開く。
すると、画面からパッと眩い光が輝いた。
「……ここはどこだ?」
さっきまで家にいたはずだ。
見渡してみても、ここは俺の知っている世界とは違う。まるで10世紀前の時代の中世のような景色だ。
俺は異世界に転移してしまったのか……?
現実感が湧かないまま町をしばらく歩くと、商店の前に年寄りの商人が座っているのが見えた。
「ここはリスタッタ最高の店だよ」
店の中から商人が声をかけてくる。
リスタッタ…?街の名前か?
俺は現代日本と違う、まるでRPGゲームのような外観の店に興奮した。
短剣、大剣、弓矢、そして杖。
パッと目に入った綺麗な短剣を見ていると店員が出てきて、俺に話しかけてきた。
「お客さん、いい物に目をつけたね。それは切れ味抜群、耐久性抜群、しかも振ると炎が出るって代物でな、東の帝国の腕利きのドワーフが打ったものだ。少し高価でな、金貨60枚するんだが戦闘で活躍待ったなしだ。……しかし、あんた冒険者には見えないな。そんな装備初めて見たわい。ペラペラの布切れで冒険に行くのかい? 装備も見てみなさい」
と言われ、俺は初めてここが
「冒険者のための店」だと分かった。
「俺、冒険者じゃないんで。すみません……。」
俺は店をさっさと飛び出した。
早くこんな夢、冷めて欲しい。そう思いながら頬を強く抓った。
「痛い」
夢じゃない? 俺は激しく戸惑った。ゲームの続きが出来ないし、読み終えてないマンガだってあるし、それに浪人している自分を心配する家族がいるからだ。
俺はある程度頭のいいとされている高校を卒業したが、浪人が続き、俄然やる気が湧かなくなり、それを親に隠してゲーム三昧の日々を送ってきた20歳の引きこもり効率厨ゲーマーだ。名前は、レン(蓮水 蓮)。
人混みは苦手で、インドア派。やることがゲームしかなかった。
俺は帰る方法を探し、街を散策していた。
しばらく街を散策して日が傾く頃、腹の虫が、まるで機嫌を損ねた猫のようにゴロゴロと喉を鳴らし始める。
「腹が減った。」
自然に足が市場に向かう。
財布には日本通貨しかない。一か八か俺は500円玉を出した。
するとパン屋のおじさんは凄く驚いた顔で言った。
「おいおい、兄ちゃん、冗談はよしてくれよ。うちは普通の街のパン屋だぞ? 小銅貨90枚のあんパンに金貨1枚……って、 釣りが払えるわけねえだろ、貴族だからっておちょくってんのか!?」
「えぇっ?そうなのか!?すまない、おちょくったつもりはないんです、分かりました。小銅貨ですね、これで良いですか?」
おそらくこの世界では金貨改めて500円玉はすごい価値らしい。
俺は小銅貨90枚と聞いてこれで足りるかなと思いながら10円玉を出した。
「銅貨1枚か、次からは他の店でそんなことすんなよ…。ほら、あんパンとお釣りの小銅貨10枚だよ。」
おじさんの手のひらから10円玉の2分の1サイズの小銅貨10枚が出現しそれを渡される。
レンは、我が目を疑った。
おじさんの無骨な手のひらの、何もない空間から、突如としてコインが『湧き出した』のだ。
手品のように袖から滑り出たのではない。
空間が微かに歪んだかと思うと、一瞬の光の粒と共に、チリン、チリンと金属音を立てながら、小さな小さな茶色のコインが次々と現れ、おじさんの手のひらの上に積み重なっていく。
「え……っ?」
「な、何、今の……? 魔法……?」
ただのパンの売買で、当たり前のように目の前で起きた超常現象。レンはそれを呆然と見つめることしかできなかった。
「魔法じゃないよ坊ちゃん、これは俺の固有スキル『手元会計』だよ。ただ手のひらに俺の金を出すだけのスキルさ」
異世界の洗礼は、あまりにも唐突だった。
空いた口を塞ぐことすら忘れて呆然とする主人公をよそに、他の買い物客が来た。
パン屋のおじさんは「ほらよ、どいたどいた」と、何でもないことのように手を振る。
俺は途方にくれながらさっき貰った小銅貨を見る。
(色合いや形は現代の10円玉に似ているな、だけど大きさは半分くらいで竜のような模様が入っている。竜のようなモンスターとかいたりするのかな)
そんなことよりさっきの行動でだいぶ注目されたらしい。早く人混みを抜け出したい。
そう思いながら、狭い路地裏に入っていく。
だが、奥に柄の悪そうな人が何人か居座っているのが見えた。あそこは絶対通りたくない。
俺は左のもっと狭い路地へ入る。しばらく歩いたところで、怪しげな店を見つけた。まるで悪質な霊感商法をしている占いの店のようだ。俺は帰るあてが見つからないか、聞いてみることにした。
手持ちの金は小銅貨10枚、それと日本通貨は2540円。パジャマに着替えることなく、昨日の晩そのまま私服で寝て、ポケットに入っていたのは財布だけだ。
まあ、財布に残ってある10円玉くらいは銅貨になるだろうと思い、中に入ると、早速怪しいおばさんがやってきた。
「鑑定士のマルタだ。」
何も言っていないのに、マルタはいきなり俺を睨みつけた。
「この水晶に手をかざして見なさい」
少し戸惑いながらも、俺は水晶に手をかざしてみた。
すると、さっきの朝より眩い光が輝き、思わず目を閉じてしまったが、それでも光が入ってくる。まぶたを通り越して入ってくる。目を潰す気なのかこのばあさんは! と思いながら、光が収まったようなので目を開けてみると、マルタが固まっていた。
どうやら、鑑定結果に驚いて固まっているようだ。
「こんな結果はみたことがないよ……」というマルタに、
「どれどれ、いったいどんなチート数値になったんだ?」
と思い、聞いてみる。するとマルタは言った。
・職業:なし
・レベル:15
・体力:120
・防御:16
・攻撃:22
・知力465
・魔力:なし
・スキル:なし
・固有スキル:『空間会計』
「ステータスはそこらの子供と同じくらいだし魔法適正はなしだよ。固有スキルは見たこともない文字だけど……ああ、これは商人が持つ『手元会計』かね?
財布から手のひらに小銭を出し入れするだけの、戦えないゴミスキルだよ。あんた、この辺をうろつくにはちょっとやめたが良いんじゃないかい? 死にたいのかい?」
マルタは鼻で笑うと、手のひらを差し出してきた。
「はい、鑑定料」
「はい?」
「ここに来るってことは鑑定しにきたんだろ? 私は鑑定士だ、金を取る権利だってある。お前のそのステータスだったら、用心棒も出さずにわしでも勝てるがな、笑笑」
完全に脅しだった。俺はしかたなく財布から10円玉を取り出す。
「おやおや、こんな端金でワシの鑑定料を賄う気かい?」
マルタは俺の財布の中を覗き込み、
「そこの変な形をした金貨を一枚寄越せ」と言った。
指差されたのは、ピカピカの五百円玉だ。
(これが金貨に見えるのか?)
と内心笑いつつも、問題を起こさぬよう手渡し、銀貨数枚をお釣りとしてもらい、金貨じゃないとバレる前に、元いたガヤガヤした町のほうへ急足で向かった。
ここまで人がいたら、あのおばさんも追っては来られないだろう。
だが、夕方になり、俺はなんとか手に入れたこの世界の銀貨一枚(偽金貨のお釣りとしてマルタが投げつけてきたものだ)を使って、町外れの宿の一室を借りることにした。
「ここまで人がいたらバレないだろう」
しばらくして、夜が来た。
俺は宿屋の硬いベッドの上に座り、どっと押し寄せてきた疲れにため息をついた。
壁に貼られた手書きの「宿泊の心得」のような貼り紙に目を向ける。
(……そういえば、この世界の文字と言葉、日本と同じで本当によかったな)
武器屋の店員とも、あのババアとも、何の問題もなく日本語で会話ができた。貼り紙に書かれた文字も、見慣れたひらがなや漢字のままだ。もしこれが意味不明な異世界語だったら、意思疎通すらできずに今頃のたれ死んでいただろう。
言葉の壁がないことだけは、神様に感謝しなきゃならない。
気を取り直して、俺は財布から10円玉を出し、ようやく落ち着いて自分のスキルを検証してみることにした。
(……『手元会計』、発動)
マルタの言葉を思い出しながら念じるても何も起きない。
「なんでだ、何も起きないじゃないか。」
(そういえばおばさんは最初に手元会計ではなく空間会計って言っていたな。)
(『空間会計』、発動)
手のひらの上に、財布の中にあった10円玉がパッと出現した。もう一度念じると、瞬時に消えて財布に戻る。
俺はゲーマーだ。その仕様をそのまま信じるほど、お人好しじゃない。
もし、出す場所を『手のひら』以外に指定したらどうなる?
俺はベッドの2メートルほど先にある、木製の古びた机の上に目を向けた。あの机の「表面」に10円玉を出現させるイメージを浮かべる。
「……出ろ」
何も起きない。机の上には何も現れなかった。
「なんだ、やっぱり失敗か。手のひら以外は出せないんだな。そんな都合よくチートなんて起きないか……」
まあ、とりあえず腹が減った喉も渇いている。都合よく、ベッドの脇には、この宿屋のサービスとして小ぶりの赤リンゴが一つ置かれている。
俺はそれを手に取り、喉の渇きを潤そうと、勢いよくガブリとかじりついた。
その瞬間――。
(――ガリッ!!!)
「いったあああつっ!? 何だこれ!?」
奥歯に強烈な、金属を噛んだ衝撃が走った。
俺は痛みに悶えながら、口の中のものをベッドの上の皿に吐き出した。
赤リンゴの果肉の奥深く、ちょうど俺が噛んだ位置に、何か茶色い金属がめり込んでいる。
俺は指でそれをほじくり返し、水洗いしてじっくりと見た。
それは、見間違えるはずもない――さっき財布の中で眠っていたはずの、俺の「10円玉」だった。
「……嘘だろ」
背筋に、冷たい戦慄が走った。
俺は机の「表面」に出現させようとした。だが、空間の指定がほんの少しズレて、机の手前に置いてあった「リンゴの内部」に直接、10円玉が具現化してしまっていたのだ。
財布を確認する。10円玉が、確かに1枚減っていた。
俺は窓を開け、外の闇に向かって実験を繰り返した。 効果範囲はおよそ5メートル。これだけ離れていても、俺は狙った空間に正確に金を「決済」できる。
手のひらだけじゃない。視界内なら、物質の内部にだって直接硬貨を出現させられる。
もしこれを、人間相手に使ったら……?
普通の商人が持つ『手元会計』のバグ版。その本質は、商人どころか――障害物を一切無視して、敵の急所の内側を直接破壊できる、最悪の「暗殺向きスキル」だった。
「手持ちは10円玉が4枚(1枚は回収した)と、千円札が2枚……残弾は少ないが、これなら……」
そう呟いた、その時だった。
宿屋の薄暗い部屋のドアが、バァン!!と凄まじい音を立てて蹴破られた。
「――見つけたぞ、イカサマ野郎」
低い、地を走るような声。
暗闇から現れたのは、大柄で強面の男――用心棒のガルドだった。その後ろから、松明を持ったあの鑑定士のババア、マルタが顔を般若のように歪めて叫んだ。
「そのガキだよ! ガルド!捕まえて奴隷市場に売り飛ばしちまいな!」
俺がベッドから立ち上がると、マルタは怒りで声を震わせながら、昼間渡した500円玉を床に投げつけた。
「よくもわしを騙したね! あの後、天秤にかけて調べてみたら……それは金なんかじゃない! 鉄か何かの、ただの硬い金属のクズだ! 色を精巧に似せただけの、価値のない偽金貨だ!」
ガルドがニヤニヤしながら、腰の太いナイフを引きぬいた。
「おいガキ。ババアから聞いたぞ? テメェのスキルは『手元会計』らしいな。手のひらに金を出すゴミスキルで、どうやって俺から逃げるつもりだ?」
男がじりじりと間合いを詰めてくる。狭い宿屋の部屋、逃げ場はない。
だが、俺の脳細胞は、すでに勝利へのルートを導き出していた。
リンゴの実験で、このスキルの『無法さ』はもう分かっている。
「ババアの鑑定は正しかったな。俺のスキルは『手元』じゃない。――『空間会計』発動。対象、奴の眼前5センチ!」
(バササッ!!!)
「なっ!? なん、だこれ……っ!? 目の前が……紙!?」
狭い部屋の中に、突如として舞い散った2枚の薄い紙。
ガルドの顔面に張り付き、視界を完全に奪ったのは、現代日本の技術が詰まった「千円札」だ。ガルドはパニックになり、目の前の千円札を払い除けようとナイフをめちゃくちゃに切り回す。千円札が鋭い刃で切り裂かれた。
だが、関係ない。
「『回収』。そして、再決済」
切り裂かれた千円札は瞬時に修復されて俺の財布に戻り、再びガルドの目の前に現れて視界を塞ぐ。
払っても、切っても、無限に目の前に現れる謎の紙の煙幕。
「うわあああッ! 呪符か! 何の魔術だ、前が見えねぇ!!」
完全に隙だらけになった大男の姿を見つめながら、俺は右手をそっと突き出した。
狙うのは、男の喉元。リンゴの時と同じ要領だ。
「視界没収。……次は、会計の時間だ。対象、奴の気管の内部」
手持ちの10円玉。これを、ガルドの喉の奥――指の届かない位置に直接『空間会計』する。
(カハッ……!?)
ガルドの動きが、ピタリと止まった。
男はナイフを落とし、自分の喉を両手で掻きむしりながら、その場に崩れ落ちた。肺に空気が送れない。異物を吐き出そうにも、喉の奥の肉の中に「金属の塊」が固定されているのだから、どうしようもない。
ガルドは白目を剥き、数秒ともたずに意識を失って床に倒れ伏した。
「ひっ……!? ひいいいいいっ!!」
それを見ていたマルタが、腰を抜かして悲鳴を上げた。
俺はガルドの喉から10円玉を『回収』し、ついでに床に落ちていた500円玉も回収した。
「……ふぅ」
心臓のバクバクが止まらない。だが、それと同時に、奇妙な高揚感が脳を満たしていく。
この場所で、俺は手札のすべてを理解した。
手持ち2540円。
だけど、使い方次第で、俺はこの世界で最強にだってなれる。
ここから、俺の本当の異世界ライフが始まるんだ。
「さて……おばさん。色々と聞きたいことがあるんだ。まずは、その持ってる松明の火、消してくれる? 宿が火事になったら寝覚めが悪い」
暗闇の中、俺はニヤリと笑みを浮かべ、腰を抜かしたマルタへと歩みを進めた。
(第1話 完)
ご覧いただきありがとうございます!
異世界基準の「手のひら会計」という思い込みを覆し、スキルの「空間」会計通りに「5m以内の空間・物質内への強制具現化」を正確に実行してみせた主人公・レン。
10円玉が最凶の暗殺兵器になることに気づいた彼の、本当の異世界ライフがここから始まります。
2話目は腰を抜かした強欲鑑定士マルタから、レンはこの世界の「ある重要な情報」を巻き上げます。
2話目以降は
さらにこのスキルを凶悪しらしめるさらなくスキルを手に入れます
会計の時間は、まだ始まったばかり――。
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