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魔王系少女はやはり勇者が救った世界でも自由人を貫く  作者: あさはごはん
カールトン地方
9/10

アイリズと初めての災難(後半)

九話目です。

ここで語ることがそろそろなくなって来た気がします。


『正面突破』


これがアイリズたちのとった作戦だ。

わざわざ迂回したり屋根の上からの奇襲なんて馬鹿馬鹿しい。

簡単な肉体強化。

それでも拳、足先に魔力を集中させれば人を吹き飛ばすくらいの威力にはなるのだ。魔王が得意とするのは、剣術と肉弾戦だった。しかしそれは純然たる腕力、筋力のみで構成された肉弾ではない。莫大な魔力で底上げした、力。

それが空を、星を、月を砕く力となった。

少女になって魔力の質と量が格段に落ちようとその時培った経験は無くならない。体全体を少し強化するよりかは、力を一点集中させた方が効果はある。

後ろで若干顔を引きつらせながら自分を見る男装女子の目線なんて気にしない。

少々悲しくなりながら、久しぶりに使う魔術の細かい調節を測りつつアイリズは拳を振るった。


_____


エスタロースは自分の失念を悔いた。

朝、前日の夜に劇的な脱出劇を終えたこともあり疲れているのかベッドの上で毛布にくるまりながらすうすうと心地良さそうに眠る主人を起こすことができず、30分ほどその愛くるしい寝顔を前に悶えた後、朝ごはんを食べに先頭車両に行った。主人がどうしてあんなに可愛らしいのか考え過ぎてしまいついつい食事する手が止まってしまいがちになる。ついでに顔が壮絶なことになっていたのだが、そのことを知ることはなかった。

隣を場違いな格好をする少年が通った後、車内放送で下卑た男の声がしたかと思うとあれよあれよと押さえつけられ、魔力無効化の呪いがかかった手錠で拘束された。これでは魔術も使えない。


(くっ…!主人が可愛すぎるせいで身が入らなかった…!なんだあの可愛さは!反則だろう!)


思い出しただけでも腹が立つくらい可愛い寝顔だった。唇をかみしめてなんとか耐えるがそれを拘束されたことへの反抗だと思ったらしい盗賊団の頭目は自分に顔を近づけて侮辱の言葉を吐く。

盗賊団は金にやたら執着する代わりにそれ以外には無頓着。きっと部屋で寝る主人が起きなければ事は大きくならないだろう。

主人が起きたら事が大きくなる代わりにきっと盗賊団は壊滅するだろう。結局どちらでも大団円か。

そう思うと全部どうでもよくなってまた主人の寝顔が可愛すぎることについて考えてしまう。

あの主人はもしかしたらダメ人間製造機かもしれない。


『もし、そこの紫髪のお方。エスタロース様ではございませんか』

『む、そういう貴方はリティシア様のお付きの方ですね。一体どうしてこんなところに』

『それはこちらのセリフです…!二ヶ月もどこにいらしたのですか』


第三王女。兄弟の中でも末の妹の次にお転婆(というか反骨精神旺盛)だと言われている、今年14歳になったので魔術学校に入学したと聞いた。一応数ヶ月だけ魔術を彼女に教えていたので元生徒ということになる。そのお付きであるメイドのカレンが自分の横にいた。普段はまとめあげている赤色の髪をおろしているし、着ている服もメイド服ではなく美しい赤髪が映える普段着らしきピンク色のワンピース。


『探し物を見つけたのです。

というか貴方がここにいるということは王女もここに…?』

『はい。なんとかならないのですか、希代の天才宮廷魔術師エスタロース・セイシス殿』


「手前ら、さっきから何ごちゃごちゃ喋ってんだ?」


かちゃりと魔術式の銃を向けられ、喋るのを一瞬だけやめる。この盗賊団の目的が金なら王女がこの汽車に乗っている事が判明すれば確実に王女は人質に取られ、王家は金を搾り取られる。それは非常にまずい。というかタイミングが悪すぎる。しかしこの出来事をなんとかできるのは拘束されていないであろう主人のみ。


『私になんとかすることはできませんが、二分の一の確率で盗賊団は潰れます』

『なんと。して、私たちはどうすればいいでしょうか』

『何、簡単ですよ。

ただご主人様がお目覚めになることを願うまでです』


頭上にはてなマークを浮かべるカレンが先ほどの言葉がどういう意味か聞こうとした時、先頭車両の扉が人ととともに吹き飛んだ。いや、吹き飛んだ人の勢いに負けて壊れたのだ。そして先頭車両に入ってきたのは長い黒髪をツインテールにした美少女。カレンは主人であるリティシアも十分美人だが、この少女はその比ではないと思った。ただし、後ろに纏う『不機嫌です』と言いたげな暗い雰囲気のみカレンのみならず乗客全員を震え上がらせたのだが。


「誰に許可を得てトレインジャックなどしたのです。タスドロ盗賊団、でしたっけ?

長はすぐに投降しなさい」


ゴキリと拳を鳴らして告げる黒髪の少女に盗賊団の男たちはひるむ。そんな情景に唖然とすることに集中したせいでカレンは気づかなかった。そんな少女を見て、うっとりとした顔をする厳格過ぎて笑わないとまで呼ばれた同僚のことに。


「ほほう、嬢ちゃんは知らないのか。

この銃の威力、受けてみな!」


バン!

大きな破裂音がして、先ほど自分たちを脅した男の手にある銃から魔力でできた弾丸が射出された。ここ10年で発明され、確実に人を殺すために発明された魔弾式の銃だ。その威力、弾速は普通のもののより数十倍にもなる。

しかしそれを見切り姿勢を低くして躱した少女は低い体勢を利用してローキックし、体勢を崩した男の顔面にまた蹴りを入れる。蹴りを入れた時に数人の乗客及び盗賊団の男どもに下着を見られたのだが、それはあえて無視した。

悪人退治中にそんなこと気にしてられない。気絶した男の胸あたりを踏みつける。


「これで終わりですか!

盗賊なら汚らしく最後まであがき、戦いなさい!」


そう叫んだアイリズめがけて一瞬怯みはしたもの魔術を使ったり刀で切りかかったりする盗賊団員だったが十数人いた彼らは5分後には少女の華奢な肉体一つの前にのされていた。それに満足しないアイリズはエスタロースの元へと近づき、顔を近づける。


「どうして起こしてくれなかったのですか?そうしてくだされば話がややこしくなる前に解決できたのに」


罰です。と少し強化した指でデコピンすると少々威力が強かったのか仰け反り、床に倒れるエスタロース。


「申し訳ありません。ただ、寝顔がとても愛らしく、起こすことがもったいなく見えて…」


小さめの声で言ったので周りには聞こえなかったが唯一声が聞こえたカレンはドン引きし混乱した。

あのエスタロースが、王宮内でもそのルックスと才能から女性に詰め寄られるも軽く躱していたあのモテ男エスタロースが、なんか、キモい。

少女にデコピンされて顔を赤らめながらもじもじしているなんて見たくなかった。エスタロースに興味はなかったが、アイドルとも呼ばれることのあるイケメンが乙女のような動作をするのを見たくはなかった。

少女はエスタロースの拘束を解いたあと、他の人の拘束を解くように年上であるはずのエスタロースに命令して優しい手つきで自分の拘束を解いていく。

その時だ。

のされていた男のうち、一人がよろけながら立ち上がり、少女を斬りつけようと腕を上げた。


「あっ危ない!」


ふしゃあ!

少女をかばおうと身を乗り出すと、痛みの代わりに冷たさと水が自分に降りかかった。そして男は倒れて再び気を失う。


「ほら、ぜい、私も役に、立ったじゃない。はあ、ていうかあんた、歩くの早すぎ…」


片手を宙にかざしながら扉にもたれかかり、息を切らしているのはつなぎを着ているが、前に見た時にはかぶっていた帽子は外れており、秋にこうべを垂れて風に揺られる小麦のような金色の髪が見えている。


「王女様!」

「姫殿下?!」


上がカレンの、下がエスタロースの発言だ。乗客はどうして王家の人間がこんなところに、あんな格好をしているのかとざわつく。どうしようと事態収拾の案を求めてカレンに駆け寄るリティシア。


「まあ、あなたは姫殿下であらせられたのですね!」


鈴が鳴るような美しい声が車両に響いた。声の主は拳一つで男どもをのした華奢な少女、アイリズのもので次は何が始まるのかと乗客たちはハラハラしながらアイリズの動向を見つめる。


「汽車内にいた盗賊の男どもを水魔法で倒してくださり何もできない私に道を作ってくださった貴方はやはり高貴なお方だったのですね!

そしてセイシス先生!」


エスタロースを指差して近づき両手を取るアイリズ。先生呼びに体が固まるの無視して作り物の尊敬と羨望の目をエスタロースに向ける。


「セイシス先生が教えてくださった肉体強化の魔術、なんの役に立つまいと思いましたが、このためだったのですね、感服いたしました!

それに先生は宮廷魔術師殿なのでしょう。

ああ、先生に教示してもらえてよかった!」


つまりはアイリズは自分のした事を全て他人の力だと言いたいのだ。エスタロースは主人から先生呼びされたことでついに精神があちらの世界に行ってしまったし、リティシアはリティシアで展開についていけず反論できない。

そうこうしているうちにすごかったのは少女ではなく道を切り開いた王女と少女に教示した宮廷魔術師だと乗客の意識がすり替えられていく。

やっとリティシアが言葉を理解して反論しようとした時には乗客たちの気持ちはすっかり自分の元に向けられていた。



______


駅に着いて、盗賊団の面々が憲兵に引き渡され、アイリズとエスタロースは何事もなかったかのように3番ホームを目指して歩いていた。二人分の重い荷物を持って歩くエスタロースと一切自分の荷物を持たずに歩くアイリズの二人の上下関係は周りから見ても明らかだ。


「エス、貴方仕事をサボって私の元に来ていたらしいじゃないですか」

「そ、それは…」

「私だって怒りますよ?

せっかく宮廷魔術師になれて、しかも希代の天才とまで呼ばれているのに私のために全部捨てようなんて」

「ご主人様な事を考えると頭たってもいられなかったのです」

「私のせいにするのですか?」

「、それは」

「嘘ですよ。ただ、その歳で失業してしまうのはどうかと思っただけです。

あの場には貴方の同僚もいたのですし、王女を助けた手柄でどうとでもなるでしょう」


正都行きの汽車の一等車に乗り込んでから窓の外を見ると、つなぎに金髪の少女が何かを探してキョロキョロとしているではないか。


「お探し物ですかー?」

「あっ!いた!

あなたを探していたのよ!」


窓に頬杖をつく自分を見上げるリティシアの目は深い緑色で、目があった瞬間アイリズは少し顔を歪めた。昔のことを少し思い出したのだ。


「貴方にまだ自己紹介していなかったことを思い出したの。

私はリティシア・フロールレンジ。

ブリティア王国王家フロールレンジ家の三女よ」


自己紹介するためだけにここまで私を探しに来たのかと思うとその律儀さに感服する。

そして、気に入った。

あの少女、中々おもちゃ……じゃなくて人間として面白そうだ。


「また、ご縁があったら会いましょう、リティシア」







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