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魔王系少女はやはり勇者が救った世界でも自由人を貫く  作者: あさはごはん
カールトン地方
7/10

脱出準備と別れ

これで自分的には一区切り。

もっと明るい話が書きたい七話目です。


朝早い時間ながらも麓の町はとても賑わっていた。田舎でここまで活気がある町は少ない。そういえば、アルフレッドがギルドに属していると言っていたのでギルドがあるのかもしれない。ならこの賑わい用にも納得できる。来る時はあまり気にしていなかった周りの風景を見上げながら歩いていると、後ろから聞き慣れた声がかけられた。ここに来てから声を聞き慣れたのは主人とあと一人。


「アルフレッド、おはようございます」

「魔術師さん、紹介するよ。俺のパーティーメンバー」


アルフレッドの後ろには個性の強い数人の男女がいた。先日アルフレッドにしたものと同じ自己紹介をすると彼らも一人一人自己紹介していくがあいにく今はそんな時間がないので聞くふりをして頭では脱出の手順を考える。やっと自己紹介が終わったかと思ったら今度はアルフレッドがこちらへ近づきそっと耳打ちする。


「あんた、嬢ちゃんはどうしたんだよ」

「彼女ですか。さあ、どうなるのでしょうか。まあ、どうでもいいですよ」


主人を見捨てるような嘘をつかなければいけないのは辛いが生憎、悪い人間で無くとも裏切る可能性があることを自分は知っていた。よってこの脱出作戦にアルフレッドは参加させない。3日あれば信頼できる召使を正都から連れて来れるだろうし。


「エスタロースだっけ、どーして生徒の魔術師様がこんなところにいるのさ?」


回復役の僧侶ポジションだと名乗った褐色肌の女が尋ねた。この女、回復役だというくせに手にメリケンサックをはめているのだ。少々物騒ではないかと思うが、パーティーリーダーのアルフレッド曰くこれがパーティーのモットーらしい。


「山に暮らす少女に少し用があったのです」

「え!?

あの悪魔にあったの?エクソシストでもやってるの、魔術師さん」


不快だ。自分の眉にシワが寄っているのが自分でも分かる。しかし、他人であるからか私が不機嫌になっていることに気づかない褐色肌の僧侶はまた、魔王を侮辱する。

ついに耐えきれなくなったので魔力を込めて小さく詠唱する。


「魔の鎖、この者共の口を閉じよ」


途端に言葉は聴こえなくなり代わりにこもった叫び声が聞こえる。魔力の鎖で喋る人間の口を閉じただけなので痛みも実害もないはずだ。既にこの騒ぎを聞きつけて集まって来た野次馬をかき分けてアルフレッド達から離れる。後ろから呼び止める声が聞こえるが聴こえないふりをして離れていく。早く使い魔を正都へ送り込まなければならない。やることは山積みなのだ。



______


13歳の誕生日がやって来た。本来なら今日死ななければならない。その覚悟も数年前からできていた。

くだらない呪術師___詐欺師の言葉でも多者が信じれば真実になる。だから少女はここに幽閉され、魔力も力も何もかも封印され続けた。


『私のために生きてください』


あんなこっぱずかしいセリフをよく主人に言えたものだ。そう思うと少し笑えて来る。

誕生日だから、というわけでないが今日はいつもより早く起きた。従僕が花園と言ってくれた花壇に行って、たくさん花を摘んで部屋に飾った。そのおかげで今日でお別れするはずの家はカラフルに彩られていて、しかも花のいい香りが漂っている。

ごはんには冷蔵室の食料を全て使い切って一人では食べきれない量を作った。

普段着用の白いワンピースでは無く少し背伸びをして、確か去年の生誕祭にアルフレッドにもらった一張羅を引き出してみたが、しっくりこずに結局白のワンピースを着た。 数年前、嫌がらせでここまで持って来させたソファに寝転がってこの先を案じる。


逃げても構わない、と行ってくれる人間がいることを忘れていた。この体に転生してからはずっと邪魔者扱いされて生きてきた。いや、転生する前から、勇者が誕生した時点で私は世界の汚点になってしまっていたのだ。だから魔法使いにも除け者にされたのだし。

そんな私にあんな言葉をかけてくれるなんて。

はっきり言うが、嬉しい。

それに、従僕が主人を見捨てないというのならそれに答えなければならないだろう。


「生きてていいことなんてあるのですかね…」


その一言に込められるのは、魔王としての経験。人として生きることも英雄として生きることも魔王として生きることもできなかった生物の嘆き。そして、ただの少女に転生したにも関わらず続いた不幸への文句。


『私のために、』


「しょうがないから、求める人がいるなら私は生きます。

そうやって生きてきたじゃないですか」


求める者があるから、魔王にも悪魔にもなった。なら、求める者があるなら生きなければなるまい。

脳裏をよぎった言葉にそう言い訳した。


久しぶりに靴を履いて家から出るともう日は落ちていた。森の中の自分の行動できる範囲限界、つまりは護符でできた結界の近くを目指して走り続け、息をひそめる。

二時間ほど経った頃だろうか、遠くの方にある小さな家に数人が近づき、やがて家が燃え始めたのが見えた。そこには随分と会っていなかった母の姿も見える。そんな母の横で祈祷していたのは少女を悪魔に仕立て上げた張本人、呪術師。結界さえなければすぐにでもエスタロースの元へ行けるのに。そう思って息を潜め続ける。靴擦れだいたいかかとを刺さると血が出ていた。獣が来なければいいのだけれどと軽く考える。

ふと、家の方を見ると、呪術師が何かを叫び、男たちが散り散りに何か探し始めている。家の中に自分がいないと気づかれたのだと直感で理解した少女は身をさらに小さくして隠れる。これしかできないことが歯がゆい。

捜索範囲は限られているので長くて数十分で自分は見つかってしまうだろう。


カサリ、何かが動く音がしてヒュッと息を飲んだ。押さえなければ口から心臓が出てきそうな程脈打つ体。見つかれば、結界の中では無力な少女でしかない自分は死ぬのだ。

前世も含めて、はじめて恐怖を感じた。


「ご主人様、どこにおられますか…!」


囁くほど小さなこの声を待っていた。今まで恐怖を感じていたことなど感じさせぬよう少女を探す声の主、エスタロースの前に出る。


「あなたのために生きることを決めました。よろしくお願いします」


ご主人様…!

歓喜の声を上げそうな程嬉しそうに涙ぐむエスタロースは気を取り直して靴擦れで走れない少女をおんぶしながら山道を降りる。結界はすでに破っていた。術式自体はそこまで複雑なものではなかったらしい。しかし、内側にある対象の力は確実に無効化する非常に強力なもの。どうしてここまで強い魔術がここに存在するのかは疑問だったが今はそんなことを気にしてはいられない。

少女がエスタロースに連れられたのは麓の村から少し外れてはいるがまだ道がちゃんと作られている唯一の場所。そこには荷馬車が止められており、そこに乗るとエスタロースはすぐに御者に選んだ信頼できる使用人に言って馬車を走らせた。


「このような陳腐な乗り物で申し訳ありません。しかし、豪奢な馬車では目立ってしまいますのでしばらく耐えてください」

「もちろんです。ありがとう、エス。この先はどう行動するのですか?」

「汽車での移動になるのですが麓の村から離れたところに線路がありますので、発見されることを避けて駅からではなくそちらから三時間後、数分だけ停車するよう話をつけた汽車に乗り込みます。汽車は一等車の席を取っておりますので、安心して移動できます。

そして、」

「正都に向かうのですね」

「はい。それと、その…」


頭にはてなマークを浮かべる少女はエスタロースを見つめる。


「名を、私が貴方に捧げたいのです」


少女の呆然とした顔をエスタロースは久しぶりに見た。その後から、自分がとんでもない提案をしてしまったことに改めて気づいて、慌てふためいて訂正しようとした。しかしそんなエスタロースの手を取って優しく微笑んだ少女。


「第二の人生はあなたが繋いでくださいました。一度くらいの不敬は許します」

「ありがとうございます…!ああ、なんと慈悲深い。


愛の女神、アイリザュリスからとりました__」


愛の女神、アイザュリスは、神代に語られる神の一柱。部下でもあり、友人でもあった知恵の神を助けるために地面の奥深くに住む怪物と戦い勝利した。故に勝利の神とも言われる。


名はアイリズ、姓はユーリウス。


ひねりも何もないが、これが一番だと思った。しばらく俯いた少女の目から涙が流れ、木の荷台の色を変える。

これ以上の祝福はない。少女、アイリズはこの日、やっと名を得てそう思った。魔王としてでもなく、悪魔としてでもない人間としての名前を。


荷馬車が走る道の遥か彼方ではもう日は落ちているのに山肌がオレンジ色に燃えていた。




次の話からはもっと魔王系少女ことアイリズをはっちゃけさせたいです。

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