『同じ桜、同じ団子』
春になった。
休日の朝、高瀬明雄は駅へ向かっていた。
今日は電車で出かける。
行き先は、桜で有名な公園だった。
電車に乗り、窓際の席に座る。
流れていく景色を眺めていると、車窓の向こうに桜が見えた。
目的の駅で降りる。
駅から少し歩く。
やがて、公園が見えてきた。
入口には、満開の桜が並んでいた。
明雄は足を止めた。
鞄から黒いオリンパスペンEFを取り出す。
桜を見上げる。
シャッターを切る。
公園の中へ入っていく。
少し歩いたところで、川沿いの桜が目に入った。
水面に花が映っている。
明雄はまたシャッターを切った。
その頃。
神谷愛子も、別の電車に乗っていた。
愛子も、今日はひとりだった。
SRV250は、家に置いてきた。
窓際の席に座り、流れていく景色を眺める。
車窓の向こうに桜が見える。
目的の駅で降りる。
駅から少し歩く。
やがて、公園が見えてきた。
入口には、満開の桜が並んでいる。
愛子は足を止めた。
スマートフォンを取り出す。
桜を撮る。
公園の中へ入っていく。
少し歩いたところで、川沿いの桜が目に入った。
水面に花が映っている。
愛子はスマートフォンを向けた。
一枚撮る。
明雄は公園の奥にあるベンチに座っていた。
目の前には、いくつもの屋台が並んでいる。
焼きそば。
たこ焼き。
串焼き。
団子。
明雄は焼きそばを買った。
それから、たこ焼きと串焼きも買った。
ベンチに座る。
桜を眺めながら、焼きそばを食べた。
酒を取り出す。
今日は電車だった。
明雄は一口飲んだ。
風が吹く。
花びらが舞う。
明雄はペンEFを手に取った。
屋台。
焼きそば。
桜。
舞っている花びら。
シャッターを切る。
また一枚。
その頃、愛子は公園の反対側にある屋台を見ていた。
焼きそば。
たこ焼き。
串焼き。
団子。
愛子は焼きそばを買った。
それから、たこ焼きと串焼きも買った。
少し離れたベンチに座る。
桜を眺めながら、焼きそばを食べる。
酒を取り出す。
今日は電車だった。
愛子は一口飲んだ。
風が吹く。
花びらが舞う。
愛子はスマートフォンを手に取った。
屋台。
焼きそば。
桜。
舞っている花びら。
一枚撮る。
撮った写真を確認する。
愛子は小さく笑った。
明雄は酒をもう一口飲んだ。
桜を見上げる。
ペンEFを取り出す。
遠くに続く桜並木を撮る。
それから、手元の酒と桜を一緒に入れて、もう一枚。
愛子も、同じように酒を飲んだ。
スマートフォンをテーブル代わりのベンチに置く。
桜を眺める。
しばらくして、愛子は立ち上がった。
屋台を見て回る。
串焼き。
団子。
そして、もう一本酒を買った。
「これ、帰ってから食べよう」
袋を手に、公園を出る。
その少し前。
明雄も立ち上がっていた。
屋台を見て回る。
串焼き。
団子。
そして、もう一本酒を買った。
袋を手に、公園を出る。
二人は同じ道を歩いていた。
ただ、時間が少し違っていた。
駅に着く。
明雄は電車に乗った。
窓際の席に座る。
夕方の景色が流れていく。
桜が見えた。
明雄はそれを眺めた。
少し遅れて、愛子も駅に着いた。
電車に乗る。
窓際の席に座る。
夕方の景色が流れていく。
桜が見えた。
愛子はそれを眺めた。
やがて、それぞれの駅に着いた。
明雄は家に帰った。
部屋に入り、窓を開ける。
そこから見える桜が、夕暮れの空の下に浮かんでいる。
明雄は買ってきた屋台飯をテーブルに並べた。
串焼き。
団子。
そして酒。
グラスに酒を注ぐ。
窓の外を見る。
昼間に見た桜とは違う。
静かな桜だった。
明雄は酒を飲み、串焼きを食べた。
今日撮った写真は、まだ見ることができない。
ペンEFのフィルムの中に、今日の桜が残っている。
その頃。
愛子も家に帰っていた。
部屋の窓を開ける。
そこから見える桜が、夕暮れの空の下に浮かんでいる。
愛子は買ってきた屋台飯をテーブルに並べた。
串焼き。
団子。
そして酒。
グラスに酒を注ぐ。
スマートフォンに残った今日の写真を見る。
昼間の桜。
屋台。
焼きそば。
舞っていた花びら。
愛子はスマートフォンをテーブルに置いた。
窓の外を見る。
夜の桜が静かに揺れている。
明雄も、同じ頃に窓の外を見ていた。
二人は今日、同じ公園にいた。
同じ桜を見た。
同じように屋台で食べ、酒を飲んだ。
同じように花びらを眺めた。
けれど、一度も会わなかった。
それぞれの部屋で、それぞれの桜を見る。
春の夜は静かに更けていった。




