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救世戦葬 - 救いの少年少女の物語 -  作者: 珠日乃 らいす゛
第一章 :氷と信仰の幕引き

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第2話 :炎よ、何の為に燃えゆく

LALLのこれまでの10年の活動の中では、時に違う目的を持ち、離れていく人もいた。

とは言え、LALLを離れたとしても多くの場合はそれほど劣悪な関係になるものではない。なぜならLALLは基本的に平和のために活動しているからだ。

そう、その者が人々に危害を加えることさえなければ。






アイが剣と出会って数日、アイの身に特別なにかが起きることはなかった。

そういえば、剣にはシーパストという名前が付けられた。

〈過去を見る者〉という意味だ。

その名前はどちらかというとアイの能力だが、他に誰もこの剣を使えないのだからいいだろう、という結論になった。それでいいのだろうか。

アイはどちらかというと飲み込みが早くなんでもすぐに理解し出来るようになるタイプだ。

まぁ、サルヴァさんはそういうところは可愛くないと言っているが、この時代にそんな呑気な事を言っているのはサルヴァさんだけなのではないだろうか。

とにかく、アイはこの数日で最低限剣の使い方を理解し、戦えるようになっている。もちろんあくまで付け焼刃であり、戦うとしても基本的にはあの黒い光を出すための媒介としてだ。

レイヴンもサルヴァもアイが命のやり取りをすることなど望んでいないが、それでもこの世界で、この道を歩む以上、剣を構える日は来るし、手を下さなければならない時も来るだろう。

そしてこの剣との運命的な出会いこそ、アイの人生を変える出会いだと、3人とも心のどこかで感じていた。

「アイ、今いいか?緊急任務だ。」

朝のトレーニングに励んでいたアイは迷うことなく頷き、ランニングを中断して剣やタオルを回収した。

今すぐ会議をし、対処しなければならないことがある時、レイヴンは緊急会議と言う。緊急任務と言う時は、今すぐ出発して現地で対処しなければならない事態が起きたということだ。

アイが支度を整え飛空艇発着場に向かうと、そこにはレイヴンとサルヴァを含む6人の幹部が集まっていた。捜索隊もほとんどが集まっており、準備を整えている飛空艇も大型のものだ。

「…レイヴンさん、何があったんですか?」

「中で話そう。ブレイズスカーが現れた。」

「!!」




大型飛空艇ヴィマナ、中央会議室。

「幹部7名、捜索隊代表6名、揃っているな。」

集まっているのは高い戦闘力を持っている者が多く、全員が険しい表情でレイヴンの言葉を待っていた。

「旧エンペリオス帝国第37区画にブレイズスカーが現れた。これから向かう集落はまだ襲撃を受けてはいないが、彼らと交流のあった近くの集落が襲撃を受け、その集落に居た全員が死亡、もしくは行方不明とのことだ。ここに居るものでブレイズスカーについて知らないものは居るか。」

少しの沈黙の後、捜索隊代表の1人が手を挙げた。

「俺はよく知らないです。」

「君は、確かこの前捜索隊に入ったクシスだったな。ここにいるのは捜索隊の代表のはずだが、なぜ君が?」

「クシスは経験こそ浅いが、実力は十分だ。加えてこの前の救難者捜索では、新人ながら怪我をしたハーディの代わりに第4小隊の撤退指揮を行った。今の第4小隊にクシス以上の代理隊長は居ない。」

レイヴンが尋ねると、クシスの隣に立っていた捜索隊長が口をはさんだ。

「分かった。レスク捜索隊長がそういうのなら信じよう。では改めてブレイズスカーについて説明する。他の者も改めて心にとめておくように。」

皆が頷き、レイヴンは再び話し始めた。

「ブレイズスカーは元LALL幹部で、今はリベリオンデザイアのナンバー2にいる女だ。彼女は非発現者を強く恨んでおり、各地で非発現者への襲撃、殺害を繰り返している。今回も帝国第37区画にある集落からの救難信号で彼女がそこに居ることが判明した。身体的特徴は、なんといってもその長い真っ赤な髪だ。炎のオリジンを持っており、能力使用時に髪が強く燃え上がる。」

「一ついいですか。」

クシスは物怖じすることなく手をあげ、質問をする。

「あぁ。」

「そのブレイズスカーが危険な人物だということは理解しました。ですが、幹部7名、捜索隊36名は多すぎませんか?」

「その質問は理解できる。だがブレイズスカーの実力は低く見積もっても、俺では全く相手にならないほどだ。さらにもしリベリオンデザイアから来ているのがブレイズスカーだけでなかった場合、今回の戦力でも全滅する可能性は否定できない。」

「すみません、リベリオンデザイアについても説明をお願いできますか。」

「あぁ、知らなかったか。分かった。リベリオンデザイアは、5年ほど前、LALL初期メンバーでもあったラディアという少女がブレイズスカーとパレードと共にLALLを離れて結成した発現者が願いを叶えるための組織だ。特徴としては、メンバーのいかなる行動もラディアは黙認しており、お互いの願いを叶えるために命すらかけるほど強い結束力を持つということだ。つまり、もしブレイズスカーを拘束、あるいは処分することが出来そうになったとしても、他にリベリオンデザイアメンバーが居ればそう簡単にはいかない。」

「なるほど、分かりました。」

「だがブレイズスカーが仲間と共に行動するとは思えないが。」

眼鏡をかけた険しい表情の幹部が口をはさむと、レイヴンはゆっくりと首を横に振った。

「お前がLALLに来たのは、ブレイズスカーがLALLを離れる少し前だったな。当時のブレイズスカーは確かに単独行動が多く、人と関わることが少なかったが、元からそうだったわけではない。A(エース)、レイジ、そしてフレイムメモリー。彼女も仲間に背を預けて戦う戦士だった。」

サルヴァ、アイ、他数人の幹部が表情を少し曇らせた。

「すまない、話を戻そう。とにかくブレイズスカーも必ず単独行動をしているわけではない。実際、リベリオンデザイアに所属してからのブレイズスカーが他のメンバーと共に行動しているのも目撃されている。敵を侮るのは得策ではない。」

「分かりました。失礼しました。」

男は少し頭を下げながら一歩後ろに退いた。

「だが今回は今のところ彼女が誰かと行動しているという情報は入っていない。こちらの戦力も十分にあり、ブレイズスカーを拘束する絶好のチャンスだ。油断はせず、全力で臨んでくれ。他に質問はあるか?」

「……拘束ですか。」

先ほどの眼鏡の男が再び口を開く。

「どうしようもなければ処分する。だが、一度は共に戦った相手だ。出来れば手を下したくはない。」

「………分かりました。」

男は再び少し頭を下げた。

「他にはあるか?」

場は静まり、それ以上質問のある者はいないようだった。

「そろそろ帝国第37区画に入る。サルヴァはヴィマナに残り、俺とアイ、フレイで集落の代表者に話を聞いてくる。その間に各小隊は準備を整えておくように。細かい指示はそれからする。以上だ。」

全員が頷き、順に会議室を出て行った。




『ユフィラ、今日は元気ないね?』

「………。」

ブレイズスカーは炎に呑まれる集落の中心で呆然と立ち尽くしている。

『ユフィラはもっと楽しそうにしてる方が似合うよ。』

「………。」

ブレイズスカーは手で隣にいる幻を振り払う。しかし幻は消えることはない。

「あたしが本気で笑うことはもうないよ。」

『そうかな?僕はそうは思わないけど。』

「どういう意味?」

『さぁね。でも僕は、またユフィラの満開の笑顔が見れる日は来ると思ってるよ。』

「………。」

『もちろん僕も手伝うよ。ユフィラの為ならなんだって、ね?』

「………そうだね。………でも大丈夫だよ、お姉ちゃんはもういないから。」

ブレイズスカーのその言葉と同時に、幻の姿は消え、声も聞こえなくなった。

「…はぁ……もう6年か………。」

あれから、ブレイズスカーには姉の幻が見え続けている。その姿はあの日のまま、永遠に変わることはない。

ふと、遠くに飛空艇が飛んでいるのが見えた。

「LALL……もう来たのか…。」

剣を腰の鞘に納め、飛空艇の方に歩き出す。

「お前らの思い通りにはさせない。焼き尽くしてやる。」




集落の代表に話を聞いたレイヴンは、各小隊に付近の集落に向かわせた。

聞くところによると、この集落は元々このあたりでも大きな集落で、発現者は2割ほどだったという。しかし非発現者の大部分はその力の有無で格差を感じており、ある時ここを離れ移住したという。とはいえ遠くに移住する力などなく、それどころか普通に生活することすら簡単ではなかったため、その後も物資の交換など、交流はあった。

今回、物資を持って行った発現者がブレイズスカーに見逃され慌てて帰ってきて事態に気づいたそうだ。

ブレイズスカーはその後も近くの集落を襲撃して回っており、段々とこの集落に近づいている。

「レイヴンさん…ブレイズスカーさんは話を聞いてくれるでしょうか。」

「どうだろうな。いきなり襲い掛かってはこないと思いたいが。」

レイヴンがそう言った瞬間、近くで爆発が起きた。

「この方向は…やりやがったな、ブレイズスカー…!!」

爆発の音に混ざって悲鳴が聞こえてくる。

この集落の人の声ではない。どれも聞き覚えのある、捜索隊の仲間の声だ。

ブレイズスカーは、近くで待機していた捜索隊第4小隊を襲撃していた。

「あんたら捜索隊だろ?レベルが落ちたんじゃないか?」

「くっ……貴様がブレイズスカーだな…?」

クシスは一瞬で動かなくなった仲間たちを背に庇いながらブレイズスカーに銃を向けている。

「お前が小隊長か?ずいぶん若いな。…あぁいや、アイやラディアみたいな例外もいるか。」

「俺も驚いた、貴様も十分若く見える。」

「それはどうも。それにしても今回は随分な大所帯だな。確かこの飛空艇はヴィマナだったか。………あぁ、一般人を乗せて逃げるためか。」

そこまで言ったブレイズスカーは面白いものをみたとばかりに笑顔を見せた。

「何がおかしい…?」

「まさか、こんなでかい的で逃げ切れるとでも思ったのか?」

「何…?」

ヴィマナは大型だが、当然少なくとも生身で追いつけるほど遅いわけがない。

「まぁいい、人が増える前に減らすか。」

「!!」

クシスはブレイズスカーの攻撃に身構えたが、ブレイズスカーはクシスに迫ると、そのままその横を通り過ぎた。

「!?」

クシスが振り返りこちらを見たのを確認すると、ブレイズスカーは倒れる捜索隊員の頭部に、一切躊躇なく炎を叩き込んだ。

「なっ、やめろ!!」

クシスが慌ててブレイズスカーに一発銃を放つが、ブレイズスカーは簡単にその弾丸を剣で弾く。

「そんな古い銃で何が出来る?」

「くっ…!」

クシスは銃を捨て、腰の短剣を手に取る。

「お前、発現者だろ?力はどうした?」

クシスの短剣術はなかなかのものだったが、ブレイズスカーには全く及んでいなかった。

「悪くはないが、まだまだ経験不足だな。相手が格上で残虐な時どうなるか、教えてやるよ。」

ブレイズスカーはクシスの短剣を持つ右手を掴み、左手で拾い上げた捜索隊員の胸元に刺させた。

「っ!?」

クシスは明らかに動揺し、ブレイズスカーが手を離すと、ナイフは地面に落ちた。

「あぁ、なるほど、こいつらを巻き込むから能力が使えなかったのか。」

ブレイズスカーはクシスを蹴飛ばし、近くに残っていた捜索隊員を全員焼いた。

「やめ……。」

「ほら、これで全力が出せるだろ?」

そういいながらブレイズスカーは足元の短剣をクシスの近くに蹴飛ばす。

「あ……あぁ……。」

「憎いか?全力でかかってこいよ。」

「…世界には…こんな人もいるんだな………。」

クシスは短剣を拾いながら立ち上がる。

「許さない、絶対に…!」

クシスのオリジンは万物強化だ。短剣ならより鋭く、銃ならより強力になる。

それだけでなく、防具はより強固に、靴はより速さを引き出せるようになる。

明らかにさっきより動きが速いクシスの動きにブレイズスカーも少し驚くが、10秒が経つ頃にはその動きも見切っていた。

「あぁ、やっぱり悪くねぇ。出来れば今日殺したくはないな。」

「俺は貴様を許さない!」

「ははっ、やってみろよ!!」

ブレイズスカーはクシスの短剣を持つ手をはじくと距離を取り、炎の出力を上げた。

クシスは果敢に攻撃を続けるが、実力差はそう簡単に埋まるものではなく、致命傷は避けつつも段々と体力を奪われ、ついには膝をついてしまった。

「くそ……俺じゃ、傷一つつけられないのか…!」

「今逃げるなら殺さないでおいてやるけど、どうする?」

「………今のうちに、一人でも逃げられるなら………!!」

「そうか、それは残念だな。」

再び立ち上がるクシスに狙いを定めて、ブレイズスカーが巨大な火球を放つ。

その直前、斜め後ろから振り下ろされたレイヴンの剣を防ぎながら距離を取り、火球もレイヴンに放ったが、レイヴンは先ほどのクシス以上の速さで動き、当たることはなかった。

「久しぶりだな、レイヴン!」

「あぁ……随分派手にやってくれたようだな…。」

「そうか?お前ならあたしの悪行なんて見飽きてるだろ?」

「あぁ、もちろん。だから、今日こそ捕らえさせてもらうぞ。」

「相変わらず生ぬるいことを……。戦場では、殺すか殺されるかのみ。分かってるはずだろ?」

「それは君がそのつもりだからだ。」

「なら、お姉ちゃんもその気だったと?」

「……それは…。」

「無駄話は十分だ。さぁ、殺ろうぜ。」

ブレイズスカーはレイヴンの返事も待たずに火球を飛ばす。

やはりレイヴンには命中しないが、その火力は一発一発が民家を軽く吹き飛ばすものだ。

そして身体強化の能力でしかないレイヴンでは宙に浮くブレイズスカーに攻撃するのは難しかった。

地上から飛びついても、その直線的な動きではブレイズスカーにとって対処の難しいものではない。

「レイヴン、お前じゃあたしには勝てないぞ!」

そういいながら、ブレイズスカーはレイヴンをかなり警戒していた。

レイヴンは、どれほど不利でも決して諦めず、そして一撃を叩き込む隙を見つけ出す男だ。

警戒しているからこそ、そこにもう一人ブレイズスカーを狙っている人が居ることに気づくのが遅れた。

「お前ならここまで来てあたしに攻撃出来………っ!?」

ブレイズスカーが辛うじて黒い光を剣で防ぐと剣は何の抵抗もなく折れた。

「なんだ…!?…なにが……アイ?」

黒い光の出どころには、見覚えのない剣を持ったアイが立っていた。

「お前がやったのか…?」

アイは返事をしなかったが、肩で息をしているアイが何もしていないとは思えなかった。

「お前の能力は過去を覗き見るだけだったと思うが、一体いつそんな力を手に入れた?」

「………。」

「…話す気はないか。」

アイは再び剣に力を込める。黒い光は再びブレイズスカーに向かって伸びるが、簡単に避けられた。

「今です!レイヴンさん!!」

「!?」

「はああぁ!!」

「ぐっ…!?」

ブレイズスカーがアイの理解不能な攻撃に注意を向けている間にレイヴンは近づいており、ブレイズスカーは振り下ろされた一撃を折れた剣で防ぐが、その勢いは殺せず地面に叩きつけられた。

土煙にむかってアイは再び黒い光を起こす。今のアイは、多くてあと一回の黒い光が限界だ。これでブレイズスカーに有効打を与えられなければ、勝機は薄くなる。

黒い光は、間違いなく土煙越しにうつる人影の胴体に命中した。

アイも出来ればブレイズスカーを必要以上に傷つけたくなかったが、決して手加減出来る相手などではない。覚悟は出来ていた。

しかし、出来ていたのは各地で殺戮を繰り返すブレイズスカーを手にかける覚悟だけだった。

「あーあ、やっちゃったね。」

土煙が晴れて見えたのは、胸元から大量の血を流して絶命するクシスと、その首を掴んでいる五体満足のブレイズスカーだった。

「あ……あぁ………そん、な………。」

「ブレイズスカー!!」

レイヴンが駆け寄るが、ブレイズスカーがクシスの遺体を投げつけると、レイヴンは剣を手放し受け止めた。

「そろそろ他の小隊も帰ってくる頃か………アイ、面白い力を手に入れたな。その剣の力か?」

そういいながらブレイズスカーは再び上昇していく。

「待て、ブレイズスカー!」

「また会う日を楽しみにしてるぜ、二人とも。」

レイヴンはクシスの短剣を拾って投げつけるが、ブレイズスカーはひらりとかわし、目にもとまらぬ速さで飛んで行ってしまった。

レイヴンは悔し気に地面に拳を叩きつける。

任務はブレイズスカーが撤退したことで成功した。

しかし、代わりに失ったものは決して小さくない。

捜索隊第4小隊、怪我により不在だったハーディ小隊長を除く6名、死亡。

アイもまた、仲間を手にかけてしまったトラウマにより、しばらく剣を抜くことすら出来なくなってしまった。

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