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超訳 河口慧海「チベット旅行記」  作者: Penda
第三章 チベット脱出
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大団円 故国に帰る

ついに最終回です


 3月12日に大臣から呼び出されて、慧海(えかい)はサンスクリット仏典を賜った。そのときに日本から送ってもらった紅白のちりめんを差し上げた。大臣はこんなにたびたび贈り物は頂けないと辞退されたが、これは日本のめでたい礼式だからと無理に受け取ってもらった。

 大臣は「なんとか書物を41帙だけ集めることが出来た。これはあなたからの贈り物の返礼として受け取られよ」と言う。慧海は厚くお礼を申し上げて帰途に就いた。

 荷物持ちを2人雇って、ようやくブッダ・バッザラ師のところまで運び、慧海は荷物をまとめた。

 荷物はチスパニーで検査を受けて税金を払わなくてはならないが、特別にこの場で調べてもらうことになった。そして3月16日、3人の荷物持ちと共にカトマンズを出発した。

 21日夜にラクソールの停車場に着き、荷物を汽車に積み込み、22日にカルカッタの大宮孝潤宅に着いた。その時にはもう金がほとんどなくなっていた。

 大宮君は「君のように金を有るだけ使ってしまっては困るじゃないか」と心配した。慧海が「しかし、つい買ってしまって金がなくなった」と言うと叱られた。


 慧海はネパールでこしらえた銀の仏像を渡しに行き、開眼供養した。その日、依頼者たちは「私達はこんな立派な物をこしらえていただくつもりはなく、旅費にでもしてもらえばよかったのに。実にありがたいことだ」と、さらに150ルピーほどを喜捨してくれた。

 またカルカッタに住む日本の紳士も喜捨金をくれた。慧海はその金でまた参考書を買い、また大宮君に叱られた。そしてチベット語と英語の字引だけはぜひ買いたいと思ってまた50ルピー借りた。


 慧海がボンベイに着いたのは4月上旬だった。

 三井物産の間島さんに、慧海にチベットの話をしてほしいと招かれ、現地の日本人の紳士紳商の方々にチベット談義をした。そして第一回アジア学会会員の招きで演説もした。

 間島さんは慧海のために寄付金を集めてくれ、それが453ルピーになった。その金で慧海は大宮君に借りた150ルピーを返し、残りは帰国の船賃にあてた。

 ボンベイで買い物を済ませ、いよいよ4月24日にボンベイ発のボンベイ丸で帰国することになった。日本を出るときは慧海の故郷である和泉の和泉丸に乗って来たことが思い出された。


 日本郵船会社の支店長から慧海を優遇するように言ってくれたので、特別のはからいを受けられた。坊主が一人船に乗れば海が荒れると気にする人もいたが、海は穏やかだった。航海中は例によって説教し、その間は読書するのが慧海の楽しみだった。

 日本に近づくと慧海は感慨に打たれ、どうも帰るのが恥ずかしくなってきた。

 出発したときに立てた、仏教修行をして少なくとも代菩薩になるという目標も果たせず、凡夫のままで帰るのだから。誓いを立てた故郷の山々に顔向けできないと、ホンコンを離れてから非常に心を痛め、歌でなぐさめた。


 日本に帰っても、ヒマラヤで修行しているつもりでいればよいではないか。日本社会の中にはヒマラヤの悪神よりもおそろしい悪魔がいるかもしれない。そういう修羅の場へ修行に行くと思えばいいのだ。

 「日の本に匂ふ旭日はヒマラヤの 峰を照てらせる光なりけり」

 仏の光はくまなく宇宙に満たされている。世界中で、修行のできない道場はない。

 船は5月19日に門司港を経て20日に神戸に着いた。

 汽船の上から桟橋を眺めると、出発の時に涙を流して送ってくれた親友、信者が喜びの涙で慧海を迎えてくれた。あまりのうれしさに、しばらくは互いに物を言うことができなかった。


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