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超訳 河口慧海「チベット旅行記」  作者: Penda
第三章 チベット脱出
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ネパール国王に謁す


 外国人がネパールに入国する場合は、国王から直接、通行券を受けなくてはならない。そこで慧海(えかい)はカルカッタで、ネパールの学校長をしていた人に「ぜひネパールの霊跡を参拝したいので、国王に通行券を頂けるよう紹介してほしい」と頼んだところ、快く応じてもらえた。その紹介状を持って1月10日にカルカッタを出発し、11日にラクソール駅に着いた。

 そこから荷物持ちを雇ってネパール国境のシマン川を渡り、しばらく登ると巡査の派出所があった。慧海は通行を止められた。

 聞けば大王がデリーから戻るので、外国人の取り締まりが厳重になっているらしい。慧海がカルカッタでもらった国王宛の紹介状を見せると、派出所の長は、ビールガンジの関所に処置を請うたほうがいいと、書類を関所へ送った。

 ビールガンジには司令長官がおり、国王の代理をしている。司令長官からそろそろ返事があるかと思ったが、待っても待っても命令がこない。とうとう夜11時を回り、あまりに寒いので茶を沸かして飲んでいたところに、国王付の巡査がやってきて、ビールガンジにすぐ来いという。その間に狂歌が浮かんだ。「酒飲まで旅のなやみに酔えひにける ビールガンジの冬の夕暮」


 派出所とビールガンジの距離は1・5キロほどだ。病院の向こうにある小さな家を貸してくれたのでそこに泊まった。翌日、司令長官宅に行き、朝から待って、ようやく午後5時頃に会うことができた。

 ネパールには王が2人いる。それは大王の権力を持つ総理大臣と、全く権力のない本当の国王だ。国民でこれを知るのは官吏くらいである。

 司令長官によると、14日に総理大臣のほうの大王が帰ってくるので、会って旅券をもらいなさいとのことだった。


 14日の夕暮れ、総理大臣は盛んな歓迎のもと帰ってきた。象もたくさんいて、姫君や王子が乗っていた。

 総理大臣は翌日の午後5時頃に内廷を散歩するので、そこで会えるように司令長官が取り計らってくれた。直接、御殿に大臣を訪ねることはできないらしい。

 当日は予定通り、内廷で総理大臣の大王と遭遇できたので、用意してあった日本の美術品を献上した。すると大臣はこの品の価値を言ってもらいたい。その分を差し上げましょうと言ったが、慧海は遠慮した。


 総理大臣はまるで旧知の間柄であるかのように親切に慧海を殿上へと連れて行ってくれた。大臣のそばにもう一人、腰掛けた人がいた。他の大臣かと思ったが、この方が真の国王その人だった。見た目も何もかも、総理大臣こそ王にふさわしくみえる。

 総理大臣は「あなたは何をしにチベットに行ったのですか」と聞くので、慧海は「仏教修行のため」と答えた。

 「チベット政府で最も権力のある者は誰か」と問うので「最上権力者は法王で、臣下の中で最も権力ある者はシャーターです」と答えてやった。

 中国官吏の勢力が衰えていること、ロシアのツァンニー・ケンボを信用しているのがシャーターであることなども話した。真の国王が、総理大臣に「あの日本の僧侶の言うことと我々の調べと相違はないか」と聞くと、「符節を合わしたごとくだ」と答えた。

 「チベットがロシア政府と結んだ条約は有効か」と大臣が聞けば、「内容を公表して実際に交際をすることになれば、法王は毒殺されるか人民が内乱を起こします」と慧海。「それはなぜか」「条約は2、3人の希望であって、政府や人民の希望ではないからです」などと話して終わった。


 総理大臣は慧海がどうやってチベットに入ったかを聞きたかったようだが、これを喋ってしまえばネパール国民に迷惑がかかりかねない。慧海は「これは複雑で英語では説明できないので、チベット語が話せる臣下がいらっしゃれば、その方に説明する」と話した。

 この日は遅くなり通行券が出せないので、明日また2時に訪ねることになった。


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