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超訳 河口慧海「チベット旅行記」  作者: Penda
第三章 チベット脱出
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大疑獄事件


 慧海(えかい)はダージリンに3カ月ほど滞在した。というのもインドの熱気に、病み上がりの体が耐えられないからだ。

 10月ごろになってダージリンに、ようやくラサからの商人がやってくるようになった。それまでパーリーとダージリン間の交易は、ほぼ断絶していた。無理に来れば必ず慧海のように熱病にかかるからだ。北部なら大丈夫だが、南部の谷間ではマラリア熱がある。だから夏場はヒマラヤ旅行ができない。

 チベット商隊の話を聞くと、ラサでは慧海が逃げ出して一か月もたたないうちに大疑獄事件が起こったという。前大蔵大臣、老尼僧が投獄され、大蔵大臣は助かった。セラ大学は閉門、ツァ・ルンバ夫婦も投獄され、日々責め苦に遭っているという。

 ひどい話だが、チベット人は噂を大げさに言う癖がある。セライ・アムチーがダージリンに行ったという事実に想像を付け加えた作り話だと思って信用しないことにした。

 この話はダージリンの地方長官の耳にも入り、地方長官は慧海に「セラに僧侶はどれだけいるのか。閉門となる法律があるのか。噂は事実だと思うか」などと聞かれた。慧海は「事実とは思わないが断言もできない」と答えた。

 地方長官はチベットの内情を知るのに熱心で、どんな話でも記録している。ジョルバンガローにもチベット人に聞き取りをする官吏がいて、面白い話は長官の前で報告させる。

 役所にはチベット人の翻訳官が居て、試験に通れば一千ルピーの賞典を政府からもらえる。ダージリンやカリンポンの長官はよくチベット語を勉強しており、いかに政府がチベットを注視しているかが分かる。


 それから2週間後、またチベット人が来て似たような噂を話した。ただ前大蔵大臣は呼び出されはしたが投獄はされず、セラの教師と保証人、ツァ・ルンバ夫婦とタクボ・ツンバイ・チョェン・ジョェは投獄されて柳の棒で一日置きに三百ずつ打たれているそうだ。

 侵入したのが日本人なのだから、そこまでしなくてもいいと思ったが、政府は慧海を英国の秘密探偵だと思っているらしい。

 というのも、ニャートンの関門長が、慧海は英国の高等官と兄弟で、ダージリンへ手紙を送っていた。手紙をつないでいたのが、ツァ・ルンバやタクボである。そして、関門は厳重に塞いであるから通れるはずがないが、慧海は不思議な術を使うので空中を飛んでいったのだろう、などと法王に報告したらしい。


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