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超訳 河口慧海「チベット旅行記」  作者: Penda
第三章 チベット脱出
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荷物の延着、途中の滞留


 翌日、雨の中、カリンポンに着いた。ボェトン駅からここまで24キロほど、ここカリンポンはダージリンから谷を隔てて東にあり、土地が低く、商業が盛んだ。

 チベットやシッキム、ブータンの人はここで交易をしてしまう。欧州人も住んでおり、キリスト教会や学校、病院や仏教寺院もある。

 慧海(えかい)は荷物を受け取るためプチュンというチベット人を訪ねた。彼は僧侶をやめてシカチェから出てきた人で、ここで商いをして暮らしている。

 天和堂の紹介で中国の官吏に運んでもらった荷物は、トモ・リンチェンガンまで運ばれ、トモからまた中国人がプチュンの店まで運んできてくれることになっている。

 ところが慧海が訪ねた時、荷物はまだ着いていなかった。テンバがプチュンに「ジャパン・ラマとはどんな人なんだ」と聞くと、プチュンは「そういえば以前、ダージリンに居たと聞いている。彼はラサで医者をしていると聞いたが、彼はその人か」。「そうだ、その人だ」とテンバ。

 プチュンが慧海のところにやってきて「あなたは以前、ダージリンにいた日本の僧侶ですか。隠さないでおっしゃって頂きたい」という。慧海ももはや隠す必要もないので身分を打ち明けたが、困ったのはテンバだ。

 彼をどうにかしてやらなくてはならない。チベットに帰るのか、もう恐ろしくて帰りたくないなら女房を呼んで、ダージリンにでも残って商売するか。それだけの事はすると言うと、テンバはラサに帰って苦しむことになるかどうか、慧海に占いをしてほしいという。慧海が絶対にやらないと断ると、彼は別のラマを見つけてきて帰ることに決めた。

 慧海は35ルピーと着物、関門を抜けるまでの食料を持たせ、公道でなく、わき道を通って帰すことになった。これは後から分かったことだが、彼に政府から調査の手が回ることはなく、投獄を免れたらしい。


 慧海の荷物は1週間待っても届かなかった。8日目、トモから来たという商人に聞いてみると、雨のため中国人の一行の馬が滑り落ちて死んだと聞いた。荷物にはジャコウと銀貨がたくさん入っていたそうだ。

 心配していると12日目の晩、中国人が到着して荷物を受け取ることができた。馬の費用13ルピーを払って7月2日、すぐにカリンポンを出立した。

 チスター川に出た。流れが速いため吊り橋が架かっている。この川の辺りで、ヒマラヤで原始時代のようにして暮らすラブチェ族が生まれたと伝わる。

 ラブチェ族は二つに分かれ、一つはヒマラヤの土から化生したというチークム・セーロンを祖先とする。その母はチスター川の水から化生したという。

 もう一つは、ダージリンの西北原にある大石から生まれた子孫だ。ダラムタン山村には今もこの石がある。彼らは石から生まれただけあって頑固者だ。婦人は下顎に三本の縦筋を描く化粧をする。服は草の繊維で作った布を縫いもせず布のまま体に巻き付ける。

 食べ物は草の根やキノコなどで、薬草の知識は医者ほど知っている。動物性の食事もするが、多くは植物性で、竹に食物を入れ、そのまま火に掛けて鍋や釜の代わりにする。器もまた竹だ。竹で弓をこしらえ、竹の矢に草毒を付けて狩りもする。

 ラブチェ族の多くは一夫一妻で、とても臆病な性質だ。けれども種が絶える様子はなく子だくさんだ。容貌は美しく、日本の肺病患者ほどに色白で品格もある。活発だが勇気はなく、盗みくらいはやっても人殺しなど残酷なことはしない。

 ダージリンにいるのは、土から化生したチークム・セーロンを祖先とする子孫たちだ。美しいので婦人は兵士に春を売る者がたくさんいる。

 シッキムにはチベットやブータン出身の少数民族がいるが、チベット訛りの言葉だ。ラブチェ族とは見た目も習慣、風俗も違う。

 ラブチェ族はチベット仏教を信仰する。彼らの言葉はチベットやインドと似ていない。あるいは文法が似ている古いチベット民族かもしれない。研究すれば面白いだろう。


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