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超訳 河口慧海「チベット旅行記」  作者: Penda
第三章 チベット脱出
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五重の関門を通過す


 第五の関門長からもらった書類をテンバに渡し、第四、第三の関所へ引き返して旅券をもらってくるよう言いつけた。

 テンバは「あなたも一緒でなければ承知しないだろう」と言ったが、関門長が第四のトモの関門長あてに事情を書いてくれたのだ。

 第三のピンビタンでは関門長の奥さんが頼りになる。テンバは荷物を置いて身軽になって出かけていった。


 トモではすぐに書類が出て、ピンビタンでは時間外だったが関門長の奥さんの鶴の一声で書面を書いてもらえたそうだ。その書面をニャートンに持ち帰ってきたのが夕方4時過ぎだった。

 雨が降っており、夕刻なのでもう一晩泊まってもいいが、なるべくなら出発したほうがいい。ここを離れて半日行けば英領インドに入る。

 関門長は「ここから16キロほど行くと途中に一軒家がある。今夜そこまで行けば楽に進めるだろう」と勧めた。テンバに行けるかと聞くと、乗り気でない。そこで関門長が「主人が大切な用事を帯びているのに、行かぬということがあるか」と大声で叱りつけた。慧海たちはこうして第五の関門を出発した。


 ニャートン駅を出て少し下ると川があり、小橋を渡った先に中国兵がいる。そこに中国語の通行券を渡して通してもらった。

 そこから山を登ると雨が強くなり、坂がきつくなったが、この辺りは道がいい。「なにもこんな雨の時にわざわざ出なくてもいいでしょうに。荷物が重くて動けやしない」とぶつぶつ言っている。慧海が荷物を半分持つと言っても道に座り込んで動かない。

 午後8時ごろまで歩いたが、一軒家まではまだ8キロほどもある。そんな時、ラバを連れた小さなテントが見えた。これはトモの人で、カリンポンまで羊毛を運搬する人である。

 テントに泊めてもらえないかと頼んだが、中に5人もいるので入る場所がないという。座ったままでもいいのでどうか泊めてもらいたいと頼み込んでようやく中に入れてもらえた。


 眠ることもできず、慧海は万感に浸っていた。あれほど厳しい五重の関門をわずか3日で通り抜けられたのは不思議としか言いようがない。旅慣れたチベット商人でさえ最短で7日以上はかかるのだ。

 何より、予期していなかった出来事が良いように働いてくれたのが不思議だ。どの関門長もまるで狐につままれたように、慧海を全く疑うことなく送り出してくれたのは、釈尊の徳に他ならない。仏の加護のありがたさに慧海は涙を流し、その夜は一睡もせずにお経を読んで夜を明かした。


 けれども慧海がラサを出た後に大事件が起こり、これにより心を痛めることになろうとは何の因縁だろうか。それはまた別の話だ。


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