第一関門を通過す
保証人は礼を受け取らず、手続きの費用1ルピー半が掛かるだけだと言い、関所に案内してくれた。
関所には役人がずいぶん居るようだが会議は開かれていなかった。賄賂が集まるまで、10日ほどでも手続きを放っておくのだろう。
長官は「明後日に会議をする予定なので返事をする。宿の主人を聞きによこせばよい」という。これは2日後にすんなりもらえる訳ではなく、それから金を余分に払ってさらに2日ほどかかるということだ。
慧海は特別に旅券を今日もらえないかと頼んだが、長官はうなずかない。宿の主人が官吏に「あの人は法王の侍従医だ」と告げたらしいが、それでも、明後日まで待っても旅券はもらえそうにない。そこで慧海は一計を案じた。
「それでは、明後日まで待ちますから、今日ここに私が到着し、3日待たせたという証明書を書いてもらいたい。ラサに重い病人がおり、密命で薬を買いに行かなければならないのだ」と慧海は厳然と言った。
長官は少し青ざめて「お医者さまであるなら、病人がいるので少し診ていただきたい。長く引き留めることはしない。私も協議をして旅券を与えるかを決めてくるので、その間だけでいい」と頼んできた。
慧海が病人の家で診察をしていると、午後4時頃になって旅券が出たという。この日は宿に泊まり、翌日早朝に出発することにした。
南西の山中へ進むと大きな雪山ばかりだ。10キロほど進んで平原の丘の上から振り返っても、パーリーの城はもう見えない。
下りは昨夜のあられで道が湿り、雪の照り返しが強い。この平原は分水嶺になっていて水がチベット高原とインドの方に分かれて落ちる。しばらく行くと太い渓流があり、その水の美しさといったら、水底の石が玉のように見える。
ひとすくい水を飲んだが、手が縮みあがるほど冷たい。この川を渡るのは難儀だと思っていると、テンバが慧海を背負って渡してくれたので、冷たい水に入らずに済んだ。チベット入りの時に渡った川と同じ冷たさなのに、安楽に慣れてしまえばつらく感じるようになるものである。




