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超訳 河口慧海「チベット旅行記」  作者: Penda
第二章 知識編
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ネパールの外交


 ネパールはチベットを攻めようとしているように見える。

 ネパールでは一夫多妻が奨励され、人口がどんどん増えている。人が多くなれば自国で食料をまかなえないため外国へ行かなくてはならない。インドで兵士や商業家になる者、シッキムの方へ行って田畑を開墾する者もいる。移民問題はネパール政府の課題だ。

 とはいえネパールが英領インド政府と戦争して新たな土地を獲得するのは無理な話だ。そこでチベットに目が行くのである。

 ネパールでは教育や福祉の法整備は進んでいないが、兵卒は英兵に次ぐほどに訓練されている。山で戦うなら英国兵はとても及ばないだろう。

 さらにインドほど暑くないので勤勉である。インド人より日本人のほうに似ていて、小さな体や容貌、性質、死をいとわぬ義侠心などは同じ種族かと思う程だ。

 兵士は国民の移植の際に必要となる。向かうは北である。だからチベット政府がロシアと条約を結び、法王が大僧正の位を受け、武器をもらったという事実は、ネパール政府に警戒心を抱かせたに違いない。そしてもしロシアがチベットに侵入した時、まず災難を受けるのはネパールだろう。

 ごく最近、ネパール政府は「もしチベットがロシアと親密になるのならば、ネパールは自国の安全を守るためチベットと戦争をしなくてはならない」と意向を伝えたらしい。


 ネパールとチベットの戦争を待ち望んでいる者がいる。それは英領インド政府だ。英国は直接、チベットと戦争したくない。だからネパールを援助してでも戦争に持っていくだろう。すると利益があるのは英国のほうだ。それをネパール政府が分っているかどうか。

 チベットと戦争は起こさず、なるべく多くの人間をチベット社会に送って実権を握るのが最も得策だろう。この後、ロシアが入ってきても、ネパール人が事実上の勢力を作っていれば、ロシアと戦うことになっても勝算はある。

 慧海(えかい)は今のネパール国王に会ったことがある。思慮深い人で、みだりに実益のない戦いはしないはずだ。

 チベット人はネパール人にそれほど悪感情を抱いていないし、恐れてもいない。政府は、なるべくネパール政府に気に入られようとしている。

 あるときネパール国王が一切経を求めたので、県知事はひそかにチベットへ買いに行った。版元が、ネパールへ経典を売ってもよいかと法王政府に伺ったところ、政府からネパール国王に無償で献上されることになった。

 ネパール政府もチベット国民に気に入られようとしており、ネパール国内の仏教徒や寺、霊場を手厚く保護している。もしネパールがロシアのように金を使えば、チベットの民衆や官吏の心を簡単につかめるだろう。

 けれどもネパールは総理大臣が暗殺されるなど内乱が多く、チベットに手を伸ばす余裕がない。慧海に言わせれば、兵力増強はできているが、外交戦略には欠けている国である。


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