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超訳 河口慧海「チベット旅行記」  作者: Penda
第二章 知識編
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チベットと英領インド


 英国人を快く思わないチベット人だが、本来は外国人を歓迎する性質だ。もし英国政府がチベット人の人情や政府の意向を分った上で、恩を施す外交方針を取っていれば、ロシアから英領インドを脅かされることもなかっただろう。

 サラット師がチベット入りし、高僧センチェン・ドルジェチャンが死刑になったことで悪感情は一層ひどくなった。英国のみならず北方ロシアや西方ペルシアに対しても鎖国し、さらにはヒンドゥー教徒もチベットに入れなくなった。この点ではロシアは優位にある。

 しかし英国政府もチベットの国民感情の回復に努めている。ダージリンやシッキムのチベット人には十分に保護が与えられ、例えばチベットの子女は公立学校なら月謝がいらない。選抜された学生はさらに官費で教育が受けられ、土地の測量や郵便、教育に従事している者が何人もいる。

 稼ぎの良いダージリンの山かごの担ぎ手は皆、チベット人だ。警察もチベット人に甘い。だからダージリンのチベット人は英国政府に不平を言わないし、政府のために働きたいとすら思っている。


 チベットではちょっと盗みをすると手を切るとか目玉をえぐるとか残酷な刑が処せられるが、英国では死刑になることはまずない。道路も立派でラサのようだ。病気になっても薬を無料でもらえる。飢えれば保障をしてもらえる。一度ダージリンに足を踏み入れると誰もが去りがたくなる。

 チベットで財産がある者はダージリンに永住することもないが、道路、病院、学校を見て感服し、鉄道、電信、電話の機器に仰天して帰って行く。帰国するとそれを吹聴するので、チベット人は我も我もとインドへ行く。

 今では行商をしている人々は英国政府に悪感情を抱いていない。けれどもうわべは英国を憎んでいるように見せる。英国政府を褒めたとなれば恐ろしい刑罰が待っているからだ。


 チベットが英国に下れば、インド人のような便利な生活ができるのではないかと考えている者もいる。政府は違うが、英国から金を取ってうまい汁を吸いたいと思っている人間はいるに違いない。ロシアから賄賂を取るのも、英国から取るのも、彼らにとっては同じだからだ。

 チベットの学者や博士たちは、慧海によくインドのことを尋ねた。あまり詳しく説明すると怪しまれるので適当に相手をすると、学者は「英人の病院や鉄道は仏教の意に適っているが、植民地にしようともする。悪魔と神の両方の化身だ」と言う。

 チベット人民は英国のヴィクトリア女王を、ラサの釈迦堂を守護する女神、パンデン・ラハモの化身であり、世界を征服する力があると信じている。

 女王はチベットによい感情を持っているが、女王陛下には悪魔の大臣が付いていて、チベットに悪魔の教えであるキリスト教を広めようとしているそうだ。

 女王が亡くなった時、チベット国民は大いにそれを悼み、そして吉祥天がチベットに帰って来られたと大いに喜んだ。


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