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侯爵様に愛をささやかれるだけの、とっても簡単なお仕事です。  作者: 朝姫 夢
月の侯爵様の想い人 ー フェルナン視点 ー

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30.生まれて初めて

 まさかブランシェ伯爵本人にソフィアと応接間で二人きりにされるとは思ってもみなかったが、おそらく伯爵家にはまだ十分な使用人を雇うほどの資金がないのだろう。となれば当主自らが接客のための準備をすることも、ここでは日常なのかもしれない。伯爵が当然のように出て行ってしまったのも、そういう事情があってのことだろう。


(あとは、気を遣ってくださったのだろうな)


 二人でゆっくり話せるようにという、気遣い。応接間の扉が完全に閉じられてるわけではないことからもそれは十分に理解できるので、おそらく私の予想が大きく外れているということはないはずだ。

 そんなブランシェ伯爵に対して、私は侯爵位を授けられている手前、対外的には他の伯爵位を授けられている人物と接する際と同じ態度を崩すわけにはいかなかったのだが。できることならばソフィアのお父上なのだからもう少し丁寧な言葉と態度で接したかった、というのが偽らざる本音である。ただその願いが叶うとすれば、ソフィアと正式に婚約を結んだあとになるだろう。今はまだ彼とは、ただの侯爵と伯爵の関係でしかないのだから。

 それよりも、今はこの状況下で。


「さて。まずは、どこから話すべきかな……」


 重ね掛けされていたユゲットの魔法が完全に解けた状態の私としては、今すぐにソフィアを腕の中に閉じ込めたいという衝動を抑えながらだったため、普段よりも冷静さを欠いている自覚はある。だが、どこからどう話せばいいのか、ソフィアがなにを疑問に思っているのか、そもそも謝罪から入るべきなのか。いくら冷静さを欠いているとはいえ、珍しく話す内容が全くまとまらない現実に、内心では若干の焦りや困惑を感じ始めていた。

 そんな中、むしろソフィアのほうから質問してくれたことによって驚くほど素直に言葉が出てくるようになった私は、久々すぎて緊張していたのかもしれないと考えつつ。ソフィアに理解してもらいやすいように、最初から順序よく説明していくことにしたのだった。

 ちなみに、父上が謝罪したいと言っていた件についての詳細は私の想像でしかないが、おそらく大きく間違っているということはないだろう。なにせ長年私が側で見続けてきた現アマドゥール公爵とは、そういう人物なのだから。


(自国の令嬢一人交渉の場に連れ出すことができないなど、外交以前の問題だからね)


 そんな人物に、誰も重要な役割を任せられないだろう。少なくとも私が陛下や殿下の立場であれば、そう考える。そしてそれは裏を返せば、父上も同じ結論に至っているであろうということなのだ。

 とはいえ今回の件に関しては若干別の問題も絡んできているので、父上の名誉のためにもこの場で私の口から全てを打ち明けることだけはやめておく。特にまじないについてなどはこれから対処しなければならない手前、現在はまだ極秘事項にしておくべき事実だろう。

 それよりも、ウラリーのことを本気で心配していたらしいソフィアの優しさに、思わず笑顔と共に今後の予定として考えていたことまで口にしてしまったのだが、ブランシェ伯爵から許しが出ていることを考えればあながち嘘でもないはずだ。むしろこれから現実になるだけだろう。

 だがまさか一世一代の告白を、私の本気と覚悟を伝えたというのに、こんなところでユゲットに邪魔されることになるとは思ってもみなくて。


「…………は……?」


 ソフィアの前に使用人に同じことをさせていただとか、私の知らない内容が飛び出してきたせいで思わず口から疑問を乗せたひと言が出てしまうのと同時に、意味が分からなすぎて不覚にもしばし固まってしまっていた。

 せっかくもう少しでソフィアから色よい返事が引き出せそうだったというのに、あの自由な魔女のせいで先ほどまでの雰囲気が台無しだ。

 少々どころではない怒りを覚えるが、ソフィアにそれを向けるわけにはいかないのでなんとか己の内にそれを押しとどめていたつもりだったのだが、若干本音が漏れ出ていたらしい。なぜか怯えながら詳細を教えてくれたソフィアだったけれど、実際に私が怒りを向けているのはユゲットにであって彼女に対してではないので、そのことを伝えながらさりげなく頭をなでつつ、さらにはそれがユゲットの作り話であるという事実も付け加えておく。


(王都に戻ったら、すぐにでもユゲットから真意を聞き出しておくべきかな)


 私自身もなぜ彼女がそんな作り話をソフィアに聞かせたのかが理解できないので、こればかりは本人に確認してみるしか知る方法がないのだ。なので今はそのことは頭の片隅にでも追いやっておくとして、私は扉の外に待たせていた従者を軽く手を叩くことで呼び寄せ、事前に用意していたピンク一色の花束をソフィアに差し出す。

 そう、これこそがブランシェ伯爵領へと向かうために必要不可欠であろうと、前々から準備していたもの。当然いつでもすぐに出発できるようユゲットに頼んで、花束にブランシェ伯爵領へと到着するまで時を止める魔法を施してもらっている状態で、ずっと保管していたのだ。

 ようやく役目を果たすときがきたというのに、これで受け取ってもらえなかったらどうしようかと若干の不安を抱えつつ、それでもこれを渡さないという選択肢は己の中に存在していなかった。むしろ今日この日のために、今までずっと努力してきたのだから。ソフィアに私を男として意識し受け入れてもらう、そのための努力を。

 だからこそ、受け取ってもらえた瞬間は本当に夢のようで、信じられなくて。けれど真っ直ぐに想いを伝えてくれたソフィアを思わず抱きしめれば、そこには確かなぬくもりがあった。ずっと手に入れることさえ諦めていた、愛しいぬくもりが。


 この時私は、生まれて初めて神に感謝した。生きていてこんな奇跡が己の身に起こるなど、一度も考えたことすらなかったのだから。


 ようやく長年の想いが叶った瞬間ではあったが、だからといってそのまま本当にソフィアを公爵家へと連れ帰るわけにはいかない。ブランシェ伯爵領にとって彼女は、ある種の英雄にも近い存在になっているはずなのだから。伯爵からは連れて行ってもいいと言われたが、それは丁重に断ったうえで日程の調整を提案しておいた。次は確実に再開できるのだから、焦る必要はないのだ。

 また今回の件に関して信頼の証として、領地外には他言無用という前提で手違いがあったのだという説明をしておいたので、ブランシェ伯爵領の領民にも真実を話しやすくなったのではないだろうか。特にソフィアが私に嫁ぐための手続きなどは基本的に父上が整える手はずになっているので、通常よりも圧倒的に早い準備期間のみで発表の日を迎えることになってしまうであろうことは、もはや必然と言っても過言ではない。それならば二人の口から直接領民に伝えられたほうがいいだろうと考えてのことだったのだが、これにはブランシェ伯爵にことのほか感謝されてしまい宿泊まですすめられてしまうほどだった。

 とはいえさすがに私も急いで戻らなければならないので、もう一つの用意していた婚約に関する書類に二人のサインだけをもらい、そのまま王都へと帰ることにしたのだが。


「またすぐに迎えに来るからね」

「はい、フェルナン様。お待ちしております」


 私の言葉に少しだけ恥ずかしそうに頬を染めながらも、花束を抱えたまま見上げてくるソフィアの潤んだエメラルドグリーンの瞳が、それはそれは美しくて。彼女の全てを私が独占できる日がいずれ訪れるのだと考えただけで、天にも昇る気持ちだった。


 そうして屋敷を出る直前の父上の言葉通り、私とソフィアの婚約に関する手続きは全てアマドゥール公爵の名のもと迅速に行われ、ブランシェ伯爵やソフィア自身との日程のすり合わせの結果、私たちの婚約の発表と同時に嫁入りの準備のためという名目で、アマドゥール公爵邸へとソフィアを迎え入れることになったのだが。


「……これはつまり、もう誰にも遠慮をする必要がないということなのでは?」


 ふと、そんな結論に唐突にたどり着いてしまった私は、これ以降ソフィアへと特別な感情を向けているのだという事実を隠すことはなくなり。結果、これまでとはまた違った関係性を彼女と築いていくことになるのだが。それはまた別の機会があれば、詳しく話そうと思う。



 これにてフェルナン編、完結です!

 ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!(>▽<*)


 とはいえ、まだまだ終わりません!

 明日からは別のおまけ話もご用意しておりますので、もう少しだけお付き合いいただければ嬉しいです♪


 ちなみに現時点で、ブクマ登録者数が135名、評価してくださった方が40名、さらにはリアクションも789件!

 いつも本当にありがとうございます!m(>_<*m))

 誇張でもなんでもなく、読んでくださる方がいるということが執筆の一番のモチベーションになっております!

 このまま最後まで走り切る予定ですので、どうか最後までよろしくお願いします!(*・`ω・)ゞ



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