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侯爵様に愛をささやかれるだけの、とっても簡単なお仕事です。  作者: 朝姫 夢
月の侯爵様の想い人 ー フェルナン視点 ー

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13.魔法の詳細

「最高だよユゲット! 君は天才だ!」


 そんな中、突然はしゃいだ様子で無邪気に声を上げたオーギュスタン殿下が、まるで子供のようにあははと笑う。

 この状況下でなぜそんな反応が出てくるのかと信じられない気持ちで私は視線を向けるのだが、対して殿下はそれはそれはいい笑顔でユゲットにこう告げたのだ。


「いくら私でも次期外務大臣の婚約者候補として一切予定になかった人物を指名することはもちろん、推薦することだって簡単にできることではないからね。残る方法は妾くらいしかないと思っていたけれど、ユゲットが魔法を解除する方法を忘れてしまった(・・・・・・・)のならば、私たちにはどうすることもできないよ。ねぇ?」


 酔っているはずの人物から出てくるとはおおよそ思えないようなその言葉の数々は、明らかにユゲットを誘導するためのもので。それに気付いた私は急いで止めようとするが、小さな抵抗など無意味とばかりにユゲットは楽しそうに笑った。


「なっ――!」

「あぁ、確かにそうだねぇ。忘れてしまったものは仕方がないよ」


 さらにはその言葉を言い終わるのとほぼ同時に魔法を発動させたユゲットは、先ほどの私と同じように一瞬光の粒に包まれて。そしてこれまた同じように、その体の中へと光は消えていく。

 そう、つまり――。


「さて。これで本当に魔法を解除するために設定したキーワードを忘れたから、あとはその令嬢に頑張って魔法を解いてもらうしかないねぇ」

「っ!!」


 ユゲットが望んだ展開に持っていくしかない状況が生まれてしまったことを悟ったこの瞬間、私は今までにないほど絶望した。四年間の苦労が水の泡になったことが確定してしまったのだから、当然といえば当然だろう。まさか本当にブランシェ伯爵令嬢に迷惑がかかることになってしまうとは、と今さらながらにどうして忘れられない女性がいるなどと本音を漏らしてしまったのだろうかと私は激しく後悔し、がっくりとうなだれる。

 しかし私のそんな様子が見えていないのか、それとも関係がないのか。勝手に盛り上がっている殿下とユゲットは、それはそれは楽しそうだった。


「それで? 魔法の具体的な内容はどんなものなのかな?」

「まず、本当に愛した者にしか愛を伝えられないっていうのは、もうそのまんまだよ。婚約者だとか夫婦だとか、そんなものは関係ない。本心であるかどうかすら無意味さ」

「つまり、フェルナンが魔法を無視してこれから婚約者候補の令嬢と仲を深めていこうとしても、それは完全に不可能になってしまったということだね?」

「あぁ、そういうことさ」


 困ったことに魔法の詳細を聞けば聞くほど、これ以上があるのかと思うほど絶望のさらにどん底へと叩き落されたような気分になってしまう私は、いっそこれが悪い夢であってくれと願ってしまう。そんな都合のいい展開など、あるはずがないと分かっていても。


「それで、もう一つのほうは? それに令嬢に魔法を解いてもらうというのは、いったいどういうことなんだい?」

「なぁに、こういう魔法の解き方といえば、昔から相場は決まってるだろう? 両想いになってからのくちづけだよ!」

「なっ!?」

「おぉ!!」


 ユゲットの衝撃発言に思わず顔と声を上げてしまう私だったが、同じく声を上げた殿下の表情は驚くほど輝いていた。

 その顔を目にした瞬間、もはや完全に酔っ払いの悪ふざけのような状況になってしまっているという事実に気付き、この段階で収拾をつけるのは無理難題でしかないことを嫌でも悟ってしまった私は軽くめまいを覚える。本来こういったことを止めるべき殿下まで悪ノリしてしまっている以上、一度酔いがさめて冷静になるまで待つ以外に今できることはないのかもしれない。


「そうか、なるほど! だからそこで二つ目の素直になる魔法が必要になってくるということだね!」

「そういうことだよ! フェルナンが本気になれば、たいていの娘は落ちるはずさ!」

「確かにその通りだよ! なんといっても彼は、令嬢たちから月の侯爵と呼ばれるような男だからね!」


 盛り上がっているところ大変申し訳ないが、私に対する月の形容は殿下の隣にいるからこそのものだ。

 他国からデュロワ王国へと嫁いでこられた王妃陛下の髪色を継ぐ殿下は、まるで宵闇を溶かしたような色合いの髪の持ち主だと言われることが多い。穏やかな口調や物腰も合わさり、民の眠りを守る優しい夜の化身のようだ、と。そしてだからこそ、隣に立つことが多い私のクリームイエローの髪色が殿下との比較で夜空に浮かぶ月を連想させた結果、そう例えられているにすぎないのだ。

 つまりその呼ばれ方は殿下ありきでの話なのだが、はじめからそれに気が付いておられないのか、はたまた酔いのせいで忘れてしまわれているのか。今の段階でどちらなのかの判断はつけられないが、いずれにせよ自信満々に言い放った殿下の言葉が若干ズレているという事実だけがこの場で唯一確かなことであるのは、まずもって間違っていないだろう。



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