9.エピローグ
その後のことは、お察しの通りである。
求婚するならするで、まず王家から内々に申し入れるのが順序だと、アルフォンスはしこたま怒られた。
ほかにも色々色々色々あったが、無事二人は正式に婚約し、学院を卒業した翌年、盛大な結婚式を挙げた。
ついでに言うと──
サン・フォンとレティシアは予定通り、学院を出てすぐに結婚。
ノアルスイユは貴族学院を首席で卒業して、王立大学の法科に進み、宮廷庁に入った。
もう少ししたら、アルフォンス付きの秘書官となる予定だ。
ノアルスイユの思いに全然まったくさっぱり気が付かなかったジュリエットは、年上の男性とさっくり結婚してしまったが。
ジュスティーヌの将来の婿だと言われていたドニは、家族に虐待を受けていたのを見かねて養子にしたのだと、後からアルフォンスはこっそり教えてもらった。
とはいえ、しばらくの間、アルフォンスはドニに会う度に「義姉上を不幸にしたら許さない」などと絡まれていたが、それもだいぶ落ち着いて、今では良き義弟となっている。
来春、ほんわか系の令嬢と結婚し、公爵家を支えていく予定だ。
娘を王太子妃にしそびれたサン・ラザール公爵は、相変わらずカタリナの縁談に苦労している。
カタリナは家族に詰められて、しぶしぶ次期侯爵と婚約したが、相手がどうしようもないクズ野郎だったことが発覚。
みずから婚約破棄を華麗にキメてしまったのだ。
23歳になった今も、カタリナは「破天荒令嬢」として王都の社交界に君臨している。
そして──
「じーじ!」
うららかな春の日の午後、王宮の芝生の上を、アルフォンスとジュスティーヌ、乳母や侍女達に見守られて、小さなシャルロットが駆けてゆく。
金髪に紫眼の愛くるしいシャルロットは、アルフォンス達の長女。
来月で4歳になる。
「おお、姫様!
また大きくなられましたな!」
どーん!と口で言いながら全力でぶつかってくるシャルロットを、両手を広げて迎え、デレデレにデレた笑顔で抱き上げるのは、母方の祖父であるシャラントン公爵である。
今日は参内のついでに、休養中の娘を訪ねてきたのだ。
それにしても、デビュタント・ボールの時の、つよつよこわこわ公爵と別の生き物すぎる。
「じーじ! たかーいたかーいして!」
最近、「高い高い」にハマっているシャルロットが公爵にねだって、生暖かく見守っていたアルフォンスは慌てた。
「じーじの高い高いは一味違いますぞ。
ほら、たかーい!」
案の定、繰り出されたのは例の超高速「高い!低い!」だ。
だが、シャルロットはきゃっきゃとはしゃいでいる。
見ているだけのアルフォンスの方がくらくらしてしまうが、シャルロットは全然平気なようだ。
「懐かしいわ、お父様の『高い高い』」
テラスの籐椅子にゆったり座ったジュスティーヌは、大きなおなかをさすりながら微笑んだ。
三番目の子を妊娠中なのだ。
シャルロットの弟、まだ赤ん坊のギュスターヴは傍の乳母車ですやすやと眠っている。
「ジュスティーヌ。もしかして君もあの『高い高い』をされていたのか?」
「ええ。小さい頃、お父様によくしていただいていたわ。
最初は普通の『高い高い』をしてもらっていたのだけれど、もっと速くもっと高くとねだるうちに、ああなって」
よく見ると、公爵は力任せに「高い!低い!」をしているわけではない。
脚を前後に開き、膝のばねを中心に身体全体を巧く使っている。
この尋常ではない「高い高い」は、愛娘の期待に応えるために、磨き上げた技だったのか。
「そ、そうだったんだ……」
アルフォンスは、二児の母となっても、変わらずたおやかなジュスティーヌを二度見した。
「何年経っても、君には驚かされるな」
アルフォンスはジュスティーヌの手を取り、くすぐったげに笑う美しい紫の瞳を見つめながら接吻した。
アホな作品を最後までご覧いただきありがとうございました!
この作品は「王太子アルフォンスが雑な扱いを受ける短編とか中編」シリーズの16作目です。
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ちなみに、カタリナが退かずに王太子妃争いをガチった結果、殺人事件が起きてしまう作品「公爵令嬢カタリナの推理」というのもあります。そちらは異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズからぜひ…!