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第二十四話:冬の会員総会

 一月。

 今月は会員総会がある。

 しかし、総会自体は特に問題なく進みそうだ。単なる事務連絡程度。

 肝心なのは、その後の受賞作品の選出。これが重要な行事になる。


 候補作品は全部で二十作品。

 絵画十作品、彫刻五作品、工芸五作品。

 すでに展示作業も終わり、あたしも見に行った。

 広い展示室だが、かなりぎゅうぎゅう詰め。

 

 で、作品の方だけどいろんなのがある。

 あたしの好きな風景画から、なんだかよくわからない抽象画。

 彫刻も素敵な女性のブロンズ像から、なんだか子供が作ったような木製の作品。

 工芸品も、綺麗なお皿から金属がぐにゃりと曲がった意味不明な作品まで。


 しかし、今回は例の『深淵への誘い』のような変な感じの作品はなかった。

 こりゃ、クトゥルフもあきらめたのかな。


 あたしが事務室に戻るとラウル事務長に呼ばれた。


「ローラさんはルチオ教授の連絡先は知っているんでしょ」

「ええ、知ってます」

「じゃあ、教授を呼んで作品を見てもらってほしいんだが」

「え、もしかして、クトゥルフの件ですか」

「まあ、私も信じているわけではないが、一応、念のためってことでね」


 ラウル事務長はかなりの慎重派だなあとあたしは思った。


 早速、あたしが連絡を取ると、翌日の朝、例の蒸気自動車でルチオ教授がやって来た。

 蒸気自動車の音が聞こえただけで、ドメニコ係長とベルトランド主任が嫌な顔をする。


 あわてて、あたしはみんなに言い訳した。

「あの、ルチオ教授を呼んだのは事務長命令です。わたしが勝手に呼んだわけじゃないですよ」


 主任が不快な顔をしつつ言った。

「わかってるよ。全く、事務長もあの教授に丸め込まれちゃったのかねえ」


 呼び鈴が鳴ったのであたしが裏口を開けてやる。

「やあやあ、皆さんこんにちは」とルチオ教授が事務室に入って来るが、係長と主任は無視。

 ジュシファーさんだけニコニコしている。

 微妙な空気が事務室に流れる。

 あたしはさっさとルチオ教授を事務室から連れ出すことにした。


「ルチオ教授、早速、作品の確認をお願いします」

「うむ、わかった」


 あたしはルチオ教授と展示室まで回廊を歩く。

 展示室に入るとルチオ教授が、「ウッ!」と大声をあげた。

 しらけるあたし。


「ん、なんだ、ローラさん。びっくりしないのか」

「どうせ、腰痛でしょ。いや、腰痛でもないんじゃない」

「あはは、ばれたか。ローラさんが驚く顔が面白くてな。今のは演技だよ、すまん」


 ふざけてんのかなあ、この教授。


 それで、ルチオ教授が受賞候補作品を観察する。

「うーん」

「何か異常はありましたか」

「いや、全くないなあ」

「クトゥルフもあきらめたんですかね」

「いや、クトゥルフはそんな甘い連中じゃない。他の方法を狙っているんじゃないかな」

「他の方法ってなんですか」

「わからん。ただ、今回の授賞式には仕掛けてこないかもしれないなあ」


 クトゥルフってやっぱりこのルチオ教授の妄想じゃないかしら。

 ミケーレ先生の変死もマルセル先生の自殺もサルヴァトーレ事務長の突然死も偶然と言えば偶然なのよねえ。


 ただ、やはりあのクトゥルフ語が気になる。

 あれは確かに異常だった。

 それに、『あの人』の件。

 やっぱり、よくわからないなあ。



 さて、総会当日。

 例によって、まともな服装で行く。

 ちょっとスカートを短くひざ丈にした。白いフレアスカート。上は黒い地味なニットセーター。

 化粧もばっちり。

 髪形は美容院に行って、綺麗にカット。大人っぽく内巻きワンカールスタイル。

 よし、出勤。


 で、また、ジュシファーさんがやたら褒めてくれる。

「ローラさん、今日の髪形素敵ですねえー、美人はどんな髪形でも似合いますねー、うらやましいー。昼寝にも似合いますよ」

「あ、あの、ありがとうございます。けど、昼寝のこと言わないでよ」

 褒めてくれるけど、やはりからかわれる。


 さて、ちょっと窓から外を伺うが蒸気自動車は停まっていない。

 今日はルチオ教授は来ていないようだ。


 総会前に、ジュシファーさんと一緒に談話室でお茶を配布するのだが、今回は外部評価委員として非会員の芸術家が十名参加。

 この人たちの態度が悪い。

「おお、これが美文館かあ」とか言いながら館内をキョロキョロしながら歩いている。

 服装も普段のあたしよりボロボロな格好の人もいれば、長髪やら髭面やら、なんか下品な人たちが多い。膝に穴があいたズボンを履いてる人もいた。皆さん、有名な芸術家らしいけど。


 談話室でも、「おい、ねーちゃん、コーヒー」とか呼ばれたり。

 酒場ではさんざん言われたので、なんとも思わなかったが、美文館で「ねーちゃん」って言われたのは始めてだ。

 おまけに、足を机に乗せたり、タバコを吸って灰を床の絨毯に落としたり、談話室の外に出て庭の上を歩いてぐちゃぐちゃにしたりやりたい放題。

 あたしが選んで談話室に飾った絵を見て、「何だこの古臭い絵は、ダセー!」とか叫んだり。

 美文館の会員の先生方も不快な顔をしている。

 こんな人たちを美文館に招いたのは間違いではないかとあたしは思った。


 それで、総会前に展示室に行って作品を審査するのだが、この人たちがゲラゲラ笑っている。

 あたしが気に入った風景画を指差して、「ギャハハ、今時、こんな絵を描いてやがる」とか笑っている。

 なんだか、あたしも不快な気分になった。


 ただ、会員の先生方は展示室には行かないんだよなあ。

 ジュシファーさんにちょっと聞いてみた。


「ねえ、会員の先生方はどうしているのかしら」

「それがですねえ、去年も私が見る限り、会員の方は展示室に入ってこないんですよ。素通りして総会が開かれる講堂に入っちゃうか、談話室でくつろいでいるんです」

「あれ、作品の審査しないの」

「そうですねー、どうなってるんですかねー」


 なんか変だな。

 せっかくわざわざ借りにいって展示室に飾っても、審査しなきゃ意味ないじゃない。

 まあ、ほとんどの候補作品は美展に出品されてるからすでに見てるかもしれないけど。

 それとも、例の『大人の事情』で投票する作品は決まっているかもしれないなあ。

 それはそれで問題だなあ。

 

 さて、総会開始。

 あたしは事務室に待機。

 受賞作品選定については、外部評価委員から「少し格式ばった作品が多い」って意見が出たらしいが、結局、特に問題とならず投票開始になったみたい。


 例の穴開けパンチ作戦は今回も行うことにした。

 内線電話で連絡が来たので、穴開けパンチを回収。

 館長が穴を開けたらしい。

 今回は特に停電もなく至極順調だ。

 投票の結果、絵画五作品、彫刻三作品、工芸二作品の計十作品が受賞作品に決定。

 総会はあっさり終了。

 

 あたしはベルトランド主任に言った。

「外部評価委員の人たちですけど、あんな下品な人たちを委員にする必要はなかったんじゃないですか」

「まあ、結局、国王官房対策に過ぎないからね」

 主任はヘラヘラしている。

 今日は機嫌が良さそうだ。

 ルチオ教授が来てないからかな。

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