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第二十二話:マッシモ・プピーロ先生が行方不明

 十二月。

 美文館冬の所蔵作品展は引き続き開催中。

 ヤクザも来る気配は無し。


 さて、今月は忙しい。

 来年一月に会員総会が行われるのだが、そこで今年度の美文館賞受賞作品が決定される。

 受賞候補の推薦は十一月に締め切られた。

 絵画十作品、彫刻五作品、工芸五作品の計二十作品。

 そのため作者の資料作成をしなくてはならない。


 前回の新会員選出の時はミスだらけの書類を作成してしまったのであたしは気合を入れている。今回は絵画作品が多いのでドメニコ係長を助けることになった。いろいろと電話で問い合わせとかしたりするのだが、けっこう面倒。しかし、頑張るぞ、汚名返上!


 あと、審査のために受賞候補作品を借りてこなくてはいけないのだが、今回は美展で展示されている作品が多く係長が担当、それ以外の作品はベルトランド主任とジュシファーさんが借りに行った。

 ほっとした。

 作品を借りに行くときの点検作業、バカなあたしにはつらいです。


 そんなわけで、係長、主任、ジュシファーさんが作品を同時に借りに行った日、あたしが事務室で一人で仕事をしていると、後ろからなにか気配がする。


 振り向くと例の黒猫ちゃんが事務室の入口にいた。

 うーん、今は忙しい。

 と思いつつ、守衛室からエサを持ってきてあげる。

 かわいいいなあと、エサを美味しそうに食べる黒猫ちゃんの背中を撫でていると、廊下をズカズカと歩いてくる音がした。

 え、ヤクザが来たのとあたしがまた震えていると、事務室に入ってきたのはルチオ教授。

 ああ、よかった。


「なんだ、今日はローラさんだけか。おや、猫と遊んでいるのかね」

「あの、遊んでないけど、あの、遊んでました。すみません。ルチオ教授、このことはどうか内密にしてください」

「別に猫と遊んでてもいいんじゃないの。ローラさん、大した仕事してないだろ」


 何じゃ、その失礼な言い方は。

 ひどい。

 こうなったら『深淵への誘い』を美文館の入口に展示してやろうかしら。


 黒猫ちゃんはエサを食べ終わると、あたしの足元をウロウロしている。

 ルチオ教授があたしの席の隣の主任が使っている椅子に座った。


「今日は何のご用ですか」

「ちょっと情報省へ報告へ行ったんだが、一応、こっちにも言っておくかと思ってな。自殺したマルセル・パニョーニ会員の日記を無理言ってご遺族の方から見せてもらったんだよ。本当は隠しておきたかったようなんだがな。そしたら、去年の十月からメチャクチャな状態なんだ。例のクトゥルフ語で埋め尽くされていた」

「あれ、去年の十月って、『深淵への誘い』の作者、ミケーレ先生もその頃からおかしくなったんですよね」

「そうだな。そして、マルセル氏もそれ以降、作品が変なものばかりになったようだ。結局、あの人の期待に答えられないと言って、自殺したらしい」

「あの人って、ミケーレ先生も確かそんなこと言ってましたよね」

「そうだな、どうやらクトゥルフがミケーレ氏、そして、マルセル氏に同時に接触したらしい。多分、同一のクトゥルフだろうな」


 うーん、あの人ってどんな人なんだろう。

 検討もつかない。


「それで、マルセル先生の所蔵作品を見せろって来たんですか」

「いや、見る必要はないな。所蔵作品目録を見ると、かなり昔に美文館に寄贈した作品しかない。去年の十月以降、マルセル氏は寄贈なんてしてないんだろ」

「そうですね」

「それでな、やはりマルセル氏の弟子のマッシモ・プピーロが怪しいと思って、美術名鑑に載っていた連絡先を見て、電話したり直接会いに行ったんだが、本人がいないんだ。行方不明なんだよ。家の周りには変な連中もたむろしてるし。美文館ではマッシモ氏の連絡先を把握していないのかね」


 変な連中がたむろしているって、それはギャレット商会だなとあたしは思った。


「こちらでも把握してません。多分、ヤクザから逃げ回っているんじゃないでしょうか」 

「そうか、困ったなあ」


 ルチオ教授が腕組みをして悩んでいると、黒猫ちゃんが飛び上がって教授の膝の上に乗る。


「おお、猫君。なんかいい考えないかなあ」


 猫に聞いてもしょうがないでしょうに。


 そんな会話をしているとベルトランド主任が戻ってきた。

「とりあえず作品搬入終わりました。って、ルチオ教授かよ」

 すごい嫌な顔をする主任。


 ルチオ教授が猫を抱えてあわてて主任の席から立ち上がる。

「お仕事ご苦労さん。じゃあ、わしはこれで。ローラさん、もし、マッシモ氏の現在の連絡先とかわかったら教えてくれないか」


 なぜか猫と一緒に事務室から出ていくルチオ教授。


 主任が不愉快そうな顔であたしに声をかける。

 顔が怖い。

「ローラさん」

「何でしょうか」

「ルチオ教授と遊んでてもいいけど、選考資料を間違えたら許さんからね」

「はい、わかりました」


 主任怖い。

 いつもはヘラヘラしているからなおさら怖い。

 どうやら、本当にルチオ教授が嫌いみたい。

 この前、間違えだらけの書類出した時と反応が全然違う。

 あたしにもとばっちりが来そうだ。

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