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第二十話:ギャレット商会が乱入

 文化芸術庁の係長さんから電話が来て、延々とベルトランド主任が怒られている。

 主任はただ、「申し訳ありません」と何度も言うだけ。

 小一時間ほどでやっと電話が終わった。


「あの、何の電話だったんですか」

「うーん、例の新会員の報道資料が間違いだらけだったみたいだな」

 

 調べたら、間違いがあったのは彫刻部門の新会員の履歴の箇所。

 しかも、全てあたしが担当した部分。

 うひゃー、あたしって、こういう細かい作業が苦手なのよねえ。

 しかし、これはさすがに主任に謝罪するしかない。


「主任、誠に申し訳ありません。間違えた箇所って全部あたしが担当したとこですよね。あの、あたしからも向こうの係長さんに謝罪した方がよろしいのでは」


 しかし、主任は怒らない。ヘラヘラしている。

「謝る必要はないよ。別にどうってことない。誰も気にしないさ。文化芸術庁の係長はストレスたまってたんじゃないの。憂さ晴らしで俺に怒っただけだよ。まあ、次の受賞者の資料作成の時は頑張ってくれ」


 いつもヘラヘラしているけど、実はいい人なのだろうか。

 それとも怒ることさえ面倒なのだろうか。

 よくわからない人だなあ、この主任さん。


 しかし、あんまり間違いが多いので、訂正した履歴を再度文化芸術庁に持って行くことにしたようだ。

 ドメニコ係長に主任、そしてジュシファーさんが持ち込むようだ。


「あの、あたしも行ったほうがよろしいでしょうか」

「いや、いいよ。ローラさんは留守番していてくれ」


 ドメニコ係長も怒らない。

 なんか優しい人ばかりだなあ。


 ちょっと反省するあたし。

 そして、お留守番をしているとロベルト調査官が来て、美文館所蔵作品展の準備。

 あたしもちょっと見学。

 実は事務長たちに頼んで展示作品にあの紅葉が綺麗な山を描いた作品を入れてもらった。


 展示室に行くと、その作品がすでに業者によって飾られている。

 ロベルト調査官がいた。


「おや、ローラさんか。今日はまた狼女に戻ってしまったなあ」

「何なんですか、その狼女って」

「いやあ、いつも髪の毛がボサボサだからさ」


 嫌味な人だなあ。


「まあ、今日は汚い羽の鳥ですからねー」

「なんだ、ローラさん、意味知ってたのか」

「ジュシファーさんに教えてもらったんですよ。あの時、お礼を言って損した気分ですよ」

「まあ、そう怒るなよ。ローラさんが美人なのは認めるよ」


 あれ、珍しく褒めてくれたのか。


「さて、展示室の方は終わったから、次は講堂の方へ行ってくる」とロベルト調査官は展示室から出て行った。

 あたしは、展示室に飾られた作品を鑑賞。

 例の紅葉が綺麗な山を描いた絵も素敵だが、他の作品も素晴らしい。

 やっぱり、あたしはこういう単純に風景を描いた作品の方が好きだな。

 緑一色とか漫画みたいな作品よりずっといいと思う。


 作品を眺めていたら、ズカズカと歩く音がした。

 またルチオ教授かと振り返ると、なんだか派手な格好をした四人組の男たちが展示室に入ってきた。


「あの、どちら様ですか」

「マッシモ・プピーロを出せよ」

「え、もしかしてギャレット商会の人たちですか」

「そうだよ、借りた金を返してもらいにきたんだ」

 

 こいつらヤクザだ。

 気の強いあたしでも怖い。


「あの、マッシモ先生は美文館の会員じゃないんですが」

「作品はあるんだろ。それを出せよ。それを売って金に換えるのさ」


 確かにこの前寄贈してくれた所蔵作品はあるけど。


「そんなこと、無理ですよ」

「ふーん、じゃあ、しょうがないなあ。ところで、あんた、美人だねえ。それじゃあ、あんたの体で払ってもらうとするかなあ」


 ニヤニヤと笑うヤクザたち。

 四人であたしの周りを囲む。

 ど、どういう意味なの。

 え、あたし、どっか変な場所につれてかれんの。

 そこで、変なことして働かされんの。

 もう怖くて、あたしは震えるだけ。

 言葉も出ない。


 そこにロベルト調査官が展示室に入ってきた。

「何だよ、お前らは」

「ギャレット商会だ。マッシモ・プピーロに借りた金を返しにもらいにきたんだよ」

「何言ってんだよ、さっさと出てけ、このゴミクズどもが」

「なんだと、この野郎」

「人間のクズどもが入れる場所じゃねーんだよ、ここは。どっかへ行け」

「ふざけんな! 痛い目にあいたいのかよ」


 ヤクザの一人がロベルト調査官に殴りかかる。

 あっさりとよけるとそいつの後頭部を叩きのめすロベルト調査官。

 他の奴も殴りかかってくるが、顔面に正拳突き、続いて、もう一人には腹部に膝蹴り。

 三人が床にうずくまる。

 もう一人が、「覚えてろよ!」と捨て台詞を吐いて他の三人をつれて逃げて行った。


 ああ、怖かった。

 あと、ロベルト調査官って、この前拳法が趣味って言ってたけど本当だったんだ。

 はっきり言って、カッコよかった。


「あの、ロベルト調査官。助けてくれてありがとうございます」

「お礼はいらんよ。それに君のことはどうでも良くて、作品の方が心配だったんだ」


 何よー、その言い方は。

 もう、せっかくカッコいいと思ったのに。


 事務長が騒ぎに気付いたのか展示室にやって来て、あたしに聞いた。


「なんだい、今の人たちは」

「ギャレット商会ってヤクザです。マッシモ・プピーロ先生の作品を出せって脅しに来たんです」 

「どっから入ってきたんだ」

「多分、裏口じゃないでしょうか。正門は閉まっているし。事務室には誰もいなかったので、この展示室まで入ってきたと思います」


 ロベルト調査官が言った。

「裏口も鍵をちゃんと閉めた方がいいんじゃないですか」

「そうだな、これからはそうするか」


 しかし、またあのヤクザたちが来たらどうしよう。


「ロベルト調査官、作品展にまたあの人たちが来たらどうしましょう」

「覚えてろって言って、また来ることはほとんどないな」

「けど、もしやってきて展示作品にキズをつけたらどうしましょうか」

「そんなことしても、全く金にならないだろ。逮捕されて賠償金を払わされるだけ。あういう連中は無駄なことはしないよ」

「さっき、あたし、体で払えって言われましたけど」

「体を使って、ヤクザ事務所のトイレ掃除でもしろって意味じゃないかな。あはは」


 なによ、それ。

 あたしは本当に怖かったのに。

 全くもう、カッコいいって思って本当に損した。


 展示の準備が終わってロベルト調査官は帰って行った。

 入れ替わりにドメニコ係長たちが戻ってきた。


「展示の準備は終了しました」

「おお、そうか。お疲れさん」

「ただ、ちょっと問題が起こりまして」


 ヤクザが展示室に乱入してきたことをみんなに話した。


「あんまりこの美文館とは縁の無い話だねえ。しかし、展示作品が心配だなあ」

「ロベルト調査官は心配するなって言ってましたけど」


「いや、万が一ってこともあるし、看守の人が絡まれる恐れもある。ベルトランド主任、臨時で警備の人を雇う予算はあるかね」

「うーん、まあ、無理すれば捻出できそうですねえ」

「とりあえずその線で進めてほしいんだけど。あと、裏口も基本は鍵をかけることにしよう」


 そして、あたしはジュシファーさんに愚痴を言った。

「あたしをヤクザから助けてくれたんだ、カッコいいと思ったら、『君のことはどうでも良くて、作品の方が心配だったんだ』とか言うのよ、ロベルト調査官。お礼を言って損した気分だわ」


 それを聞いてニコニコ顔のジュシファーさん。

「そうですねー、ロベルト調査官はローラさんの事が好きなんでしょうねえ。ローラさんを気にしてたからすぐに危機に気づいたんでしょうね」

「えー、まさかあ」

「好きだから、わざとそんな事を言ってしまう男性っていますねー、美人のローラさんがうらやましいですねー」


 ベルトランド主任もヘラヘラしながら言った。

「ロベルト調査官って、三十代前半だったと思うけど、確かまだ独身なんだ。ローラさん、チャンスじゃないの。あの人、高給取りだよ。大学院卒だし。ちょっと年が離れてるけど」

「そんな冷やかさないでくださいよ」


 とは言え、なんかドキドキしてきたな。

 ロベルト調査官か。

 確かにイケメンではあるなあ。

 けど、中卒のあたしとは学歴のつり合いがとれない。

 ちょっと偏屈者って感じがするし。

 それに猫を蹴り飛ばした件が許せん、いくらルチオ教授に怒鳴られまくってイライラしてたとしてもなあ。

 まあ、あたしとロベルト調査官が恋仲になるなんてありえない話でしょ。


 おっと、裏口の呼び鈴が鳴った。

 あたしが行って、例の裏口と建物の間の敷地に出て扉を開けた。

 守衛のおじさんだ。


「裏口が閉まってたんだけど」

「すみません。今日から鍵を閉めることにしたんです。合鍵を渡しますのでそれを使って下さい」


 そこで、なんか気配を感じて振り返ると、お、例の黒猫ちゃんが少し離れたとこにいるぞ。

 またエサをもらいにきたのかと思ったんだけど。

 しかし、こちらには近づかずさっさと離れていった。

 お腹すいてなかったのかしら。

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