レポート88:『一方、その頃……1年体(男)』
ここは、球技大会当日に使われるであろうグラウンドの一角。
1年男子体育会系のたまり場となっているここでは、一つの議題が挙がっていた。
それは、チームリーダーを誰がやるか。
文化系には生徒会から派遣された運営スタッフが主軸となってチームに指示を出すが、体育会系にはそれがない。
文化系を勝たせるためのハンデの一つとして催された『ルール改定案』の一項のようなものではあるが、何はともあれ体育会系にもリーダーは必要なもの。
そのため、例年通りチーム内でリーダーを選出しなければならず、体育会系のチームで初めに上がる話題と言えばこれだった。
そして、チームリーダーを誰にするかを話し合いで決めた結果、誰かが名乗り出るということもなく、誰がいいか推薦していくという方式に移り変わり、誰についていきたいか声を上げて賛同していく流れとなっていた。
その際、一人の人物が名乗り出るでもなく持ち上げられていた。
「――やっぱここは豪ちゃんしかいないでしょう!」
「――そうだよ豪ちゃん!」
彼らの視線の先。
そこには達磨のように丸い体型をした大柄の少年がいる。
でっぷりと出たお腹は弛んでいるように見えて、実は力士のように体脂肪率は低く、全て筋肉である。
ただ膨らんだ頬袋は肉厚で、首も太く、眉毛は濃い。
腕は常人の脚並み、脚はその2倍の筋肉量を誇っている。
重そうな体にも拘らず、足の速さは平均を上回るほどの俊敏性。
デブはデブでも動けるデブであると野球部では評判のパワーヒッター。
その重たい一撃で、本来ヒットに収まるはずのボールも忽ちホームランにする。
1年にして強打者として1軍入りを果たした期待の新人。
リトル時代はMAX120キロの100キロ越え投手として地元で名を轟かせ。
中学では捕手としてチームをまとめ上げ、強肩キャッチャーとして名を馳せ。
高校では新たにサードとしてレギュラー入りを果たした。
それが彼ら1年体育会系男子が囃し立てる『豪太轟』という男だった。
「――お、おう? そうか?」
そうして持て囃される豪太は、満更でもなく。
お調子者な性格も相俟って、照れ臭くも嬉し恥ずかしそうに腕を組んで、胸を張っている。
「野球と言えば豪ちゃん! いずれエースで4番になる男!」
「よせやい! 照れるぜ……」
「豪ちゃんが一人いりゃ、点なんて取り放題よ! 優勝したも同然!」
「まあまあ! それほどでもあるけどよぉ!」
褒められるたび声は上擦り、どんどんと仰け反って天狗になる。
「もう指名選手は豪ちゃんで決まりでしょ!」
「豪ちゃん! チームを引っ張ってくれ!」
「任せた! リーダー!」
いつしか、1年男子体育会系は「リーダー! リーダー!」と手拍子で溢れ返る。
そこに豪太は胸をドンと叩いて、野太い声を上げる。
「おう、任せろ!」
だが、豪太は知らない。
それが、仕組まれた喝采であると。
リーダーをやりたくない者たちが、揃いも揃って豪太に押し付けたということを。
されど、彼が適任であるというのも事実。
そのためこの場には、何の文句もなかった。
ただ、持ち上げた彼らが思うことがあるとすれば、『チョロいな、こいつ』という一言だった。




