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描写の練習がてら書きます(旧題参照)

ですから、多少ラフな所もあるかもですが目を瞑って頂ければ幸いです。でも小説は読んでね?

約7800字(今後も表示していきます、読了時間の参考にどうぞ)

 まずは登場人物を決めよう。

 そうだな、主人公は平凡にブラウンの髪に茶色の目。

 どうでもいいけど、わたしの目ってタイガーアイなんだけど。かなり茶色な方だと思うんだよね……うん、どうでもいいかな。

 そもそも目が黒い人っているのかな? 焦げ茶とか、大体なにがしか色が付いてるよね? 黒髪黒目とか、もはやカラコンと疑うレベル。(実在論)

 さてさて。

 身長は140cmくらい。

 年齢は12歳。

 あ、それと今回は新しい書き方ですよー。

 名前はフィナとしよう。

 舞台は森の中、たぶんR15だから注意ね。


―――――――――――――


 はぁっ はぁっ

 満月の夜、森の中を駆けていた。

 自分の身の丈程もある重そうな銃を抱え、どさどさと地面を踏み鳴らしながら走るのは誰であろうか茶髪の少女であった。

「探せ! そう遠くへは行ってないはずだ!」

 茶髪の少女が走り抜けたあと、しばらくして甲冑を着込んだ六人の人影が今度はガシャガシャと金属の擦れる音を鳴らしながら走り抜ける。

 追手の隊長の男は闇の中を逃げる相手を捉えきれていないのだろう、時折仲間への鼓舞の怒声を上げながら自らの足に拍車をかけた。

 その視線は前方の深い森の中、不届き者の背中を幻視する。

 逃げる12歳程の少女と。

 それを追う完全武装の六人の男達。

 何故このようなことになったのか?


 理由は数カ月程前に遡る。


 “神聖帝国“かつての統一帝国の系譜を継ぐとされる西の大帝国。

 もっとも。統一帝国は伝説の中の国家でしかないし、その神聖帝国内では幾つもの諸侯が対立し、帝国を構成する領邦、国家らは至って健全に独自の道を突き進み、もはや帝国の形なし、その皇帝の名前のみが残り、かつて帝国全土に知らしめたと言われるその権威を見ることはなかったのだが……。

 その帝国の構成国、メジル王国で事件が――いや、事件と呼んでいいか分からないが、とにかく周辺諸国を揺るがす事件が起こったのだ。


 ――――メジル王国が勇者を召喚した。


 帝国の一王国で、それも専ら軍事利用を目的とした異世界人、勇者の召喚。

 太古より、勇者は暴力の化身、召喚直後はそれ程でもないが僅か数年の内に瞬く間に人智を超えた力を蓄え、その力によってどれ程の土地が荒らされたか、どれ程の国が滅ぼされたか。かつてを知らせる文献にはその力の強大さと人々の想像もつかない程の知力を備えていたことを伝える記述が数多く残されている。


 その様な非常識な存在を帝国の一王国が手に入れたのだ。

 各国の首脳は――それまでの対立がまるで子供同士の喧嘩であったかの様に――すぐさま手と手を取り合い謝罪と関係修復を始め。

 寄り集まって、彼らの主人である帝国の皇帝に上奏するメジル王国への抗議文の作成と、勇者の対策の為の会議を開催した。

 ……――もちろんメジル王国抜きで。


 抗議文に関しては初めから期待していなかった様に、やはりメジル王国からは返答が無かった。

 まさか皇帝に対してもこう、ぞんざいに扱うとはある意味誤算であったが、それはもはや「帝国の下に付き従うつもりは無い」という意志表示なのだろう。

 皇帝に対して無礼に振る舞うということは「メジル王国は宗主国たる帝国に反旗を翻した」そう、捉えられてもおかしくない行動なのだ。

 もっとも平時は帝国の権威など無いに等しいのだが、それはそれ、これはこれだ。

 大義名分を得た会議は、しかし勇者を確実に始末出来なかった場合を想像して緊張が高まっていった。


 勇者暗殺には慎重かつ大胆にいかねばならない。しかし、軍隊を差し向けるということは多国籍軍を進駐させることであり、メジル王国に近い諸侯たちにとって“勇者排除の為“とはいえ流石に自国の領土に他国の軍隊がいることは看過出来なかった。

 その結果どうなったかというと。

 軍隊は派遣できないので各諸侯領から腕の立つものを領土の大きさに従って1〜6人ずつ集めて義勇軍を編成することになった。


 これはギルドにも依頼が出されて――依頼金は会議の中でも選りすぐりの交渉人ネゴシエーター()()()()()帝国に掛け合ってその国庫から出して貰った――各国ギルド本部、最低二パーティ。依頼拘束期間中の費用+αは会議持ち――もちろん本当は帝国から貰った国庫金おこづかい――成功報酬は金貨二十枚という大判振るまいの内容であった。


 各国から募ってきた義勇兵達はメジル王国の隣、ラ=チェリン王国の首都カノッサに集まり、そこで義勇軍としての訓練に移った。


 訓練も一通り終わり、完熟訓練に入った頃。

 メジル王国の勇者が初めて城を出て野外訓練を行うという情報を、メジル王国に潜入させていた優秀な間諜部隊が捉えたと報告が入った。


《勇者の遠足・・の目的は、勇者に実戦経験を積ませるため。

 勇者の名はイオリー=ヒジリカワー。

 年齢は十七歳で黒髪、身長170cm。

 体重は65.4kg。

 メジル王国騎士団長サリック=スターと懇意にしており、メジル王国内で安定の地位を確保。既に彼だけのハレムを形成している。

 今回の遠征にはサリック騎士団長以下メジル王国騎士団のおよそ九割である600余名、副騎士団長と王の近衛兵以外の全ての騎士が護衛に当たるようだ。

 既に、宿営地建設と保守の為に先遣隊が派遣されている。

 やがて王都から騎士団員は姿を消すだろう。

 遠征先はメジャール大森林、この地にはゴブリン、オーガなどの魔物の生息地があると言われている。

 勇者一行は南東からメジャール大森林に侵入する予定。

 これは計画書を実際に見たことなので信憑性は高い。

 

 ――……その他、騎士団の兵種の構成や六人部隊編成について、勇者のハレムに入っている女達の詳細や、各小隊指揮官の個人情報パーソナルデータ、ついでに調べたとメジル王国の宰相や有力者の幾人かの不正や汚職スキャンダルが綴られていた。

 

 以上が報告の全てである。

 貴官ら義勇軍の成功を祈る。》


 最初、“優秀な諜報員“と名添えされた封筒を訝しんでいた義勇軍司令部も、この報告内容を見てからは行動が早かった。――……もっとも、その詳しすぎる内容にはどん引きしていたが――すぐさま作戦会議が開かれ、メジャール大森林の地理が検討がなされる。


 ――時を同じくして部隊配置が開始された。

 200の領邦と8つの国から派遣された猛者368人とギルドから派遣された21のパーティを合わせた、合計463人に出撃が通達され。

 騎士や冒険者、魔法使い、狩人。

 それぞれ方面での達人プロフェッショナルとも言われる者たちで構成された義勇軍が各々の得物を携え、ぞろぞろとものものしい顔でカノッサの陣営を発っていく。

 ……――そうして“勇者討伐“作戦が決行された。

 この時、勇者召喚から3ヶ月と14日。

 メジル王国の王都では勇者を護衛する500騎もの騎馬武者の行列が確認されたという。



 さて、肝心なのはあの茶髪の少女だ。

 彼女は何故あの六人の男達、メジル王国の騎士隊・・・・・・・・・に追われていたのか?

 そう、すでにご想像の通り、彼女は勇者討伐の義勇軍に参加していた。それも選りすぐりの猛者が選ばれるはずの領邦から派遣された者として。


 彼女が選ばれたのは勿論、その領邦で一番強かったからなのだが、そもそも十二歳の少女が選ばれてしまったことが問題なワケで。そのワケはと言えば、やはりというか、なんというか。


 彼女が代表するその領邦にあったりする。


 彼女の出身のメルリッツ=ビーンは領邦諸国の中でも弱小も弱小、これといった強みもなく、百年後でも進歩が無いだろうと嘲笑されるキング・オブ・弱小。

 最弱国であった。領邦の名前であるメルリッツ=ビーンの“ビーン“は“豆っちい程小さい国“と住民に名付けられた愛称である。

 笑えない……。

 自虐で胸を張って残るのは、進退窮まったアイロニーのみだ。

 実際、街の発展はここ五十年まったく無しと云われ、住民の数も極々僅かに増えていく程度、増えもしなければ減りもしない。領主であるメルリッツ領邦男爵が「ベビーブーム来はないのか」や「いや、来ても食ってけなくなるから困るな……」などとのんびり構えるくらいだ。


 されども、これといった問題が無いところが救いと言えよう、これはメルリッツ公の平凡な治世が冴え渡っているからであり、メルリッツ=ビーンの人々もこの平凡な領主を、豆っちい国を愛していたのであった。

 

 そんな折に、義勇軍招集なのであった。

 メルリッツ=ビーンみたいな弱小国には金のかかる騎士が居るはずもなく、かといってメルリッツ公が行くとなると、会議が提言した“腕の立つもの“に当てはまらない。


 はっきり言ってメルリッツ公に武芸の才はないのだ。

 だって凡人だから。


 それに仮に公が義勇軍に参加するために遠征するとしても、もし自分の不在の間に何かあれば、一瞬で国が無くなる自信がある。

 ――……何にせよ、公がメルリッツ=ビーンを離れる訳にはいかないのだ。


 かと言って義勇兵を派遣しない訳にもいかない。

 多くの諸侯らが参加する会議の要請を我らが最弱国であるメルリッツ=ビーンが無視する訳にはいかないのだ。

 そもそも――、

「(無視した時の)後が怖すぎる」

 メルリッツ公は酒場の席で一人ため息を吐く。

 ちなみに、“最弱“の称号を欲しいままにするメルリッツ公でさえ、彼が気合を入れれば神聖帝国とは対等に交渉できるのであるから、帝国の権威は推して知るべし。

 それはさておき、取り敢えず会議の要請は受け入れるとして、腕の立つものを探さないといけない、ということで彼自ら酒場にやってきて情報収集を始めたのだった。

 ――……別に、やけ酒にかこつけた訳じゃない、違うったら違う。


 情報収集をしながらおさけをのみながらしばらくして、酒飲み達の話が腕のいい狩人の話になった。

「……」

 領主の耳がピクリと動いて、男達の会話に耳を傾ける。


 我が娘のことのように、やけに饒舌に語り合う男達が言うには。

 どうやら、その狩人は特殊な技能スキルを持っているらしく、その技能で武器を作り出し、原理は解らぬが「バーン!」と音が鳴ると遠くの獲物を倒すらしい。

「見えない攻撃か……」

 領主は口の中で小さく呟く。

 いけるかもしれない。領主の中に確かな確信が芽生えた。

 ――……その者だったら腕も立つし、生きて帰ってきてくれるかもしれない。

 メルリッツ公は戦争というものには悲観的なイメージしか持ち得なかった、そして彼もまた領民を愛していたのだ、いくら逆らえない命令とはいえ、みすみす領民を死なせに行かせるわけにはいかないと思っていた。

 ――……その者に今回の義勇兵を頼んでみよう、領主はそう決心する。

 そして、いてもたっても居られなくなったのか席を立ち酒場を出ていったのだった。


    

「おい、なんか今領主が居なかったか?」

「んー? どこにもビーンの旦那はいねぇじゃねえか」

「さっき、彼処の席にいたんだよ……」

「まあ、いいじゃねえか。それよりも今はフィナの話だ、今日もあの子が獲物を沢山取ってきてくれたから息子たちを食わせて、俺らも酒が飲めるんだ」

「そのとおりだー」

「そうだぜー」

 だいぶ酔っているのだろう、赤ら顔の男達が賛唱する。

「最近のうちのお袋の俺の扱いなんて、はっは、役立たず扱いだぜー? もっとフィナちゃんみたいに狩りなさいよってさ。くぅ〜っ、正論なんだなっ、これが!」

「いいじゃねえか、俺達にはフィナちゃんが倒しても運びきれない獲物を運ぶ役目があるんだからよぉっ!」

「そうだそうだー」

「まったくだぜ、フィナが狩るようになってから俺達の生活も安定したからなっ!」

「こりゃあ、我らの救いの天使フィナちゃん万歳だなっ!」

「ばんざーいー」 

「がっはっは! おいっ、スクオッシュ! お前また酔っ払ってんぞ! 何杯飲だんだだっ?」

「ん〜、一杯〜?」

「相変わらず、酒弱えーな! おい!」

「そんなに弱いなら酒を飲まなければいいんだがなぁ」

「酒はー、良いものーだーぞ??」

「コレだからなぁ……」

「がはははっ、そうだなっ! 酒は良いものだっ!」


「お前らお袋に叱られないように程々にしとけよー」


 マスターの声が飛んでくる、常連の三人組達にとっては慣れたルーティーンだ。


「おうっ、マスター! がっはっは!」

「へぇーい」

「マスター〜、さけー」


「「「スクオッシュ、お前はもう飲むんじゃねえ!!」」」



 翌日、くだんの少女の元に領主であるメルリッツ公から使いが遣わされた。

 従者が読み上げた手紙ふみに依れば、


 一つ、勇者討伐の義勇軍に参加してほしい。

 

 一つ、道中の旅費、食料については私が従者に持たせたお金を差し上げる。


 一つ、これは領主として頼む、どうかメルリッツを救うつもりで行ってはくれまいか。貴方しか頼める人がいないのだ。今後私は貴方の保護を第一に考えることを約束する、だからどうか、行ってくれないか。そしてどうか――生きて帰ってきておくれ。



 少女は突然の領主の使いの来訪に困惑していた。

 しかし、暫しの逡巡のあと、彼女はようやく決心がついたのか決意を込めた瞳で従者に言う。

 ……――わかりました、お受けします。

 拙い言葉ではあるが了承の意を少女から受け取った従者は、ほっ、と安堵の息を漏らし、領主から預かった金の入った皮袋を手渡して、最後に感謝の言葉を残してから軽やかな足取りで帰っていった。


 ……そんな従者を軒先で見送った少女フィナは、視線を手元の金の入った皮袋にうつす。

 ずっしりと手に伝わってくる重さを感じて、行儀悪くポリポリと頬を掻きながら、うーん……、と教えられた義勇軍の集合場所、カノッサへの行き方を考える――もっとも、大雑把に西のほう〜としか分からないのだが。

 少し考えて、考えるだけ無駄だと悟ったフィナは――なるようになるさ、とそう思い直して、家の中から愛用のポーチを引っ張り出してくると、旅費の入った皮袋をしまい、西の方へと歩き去ってしまったのだ。



 フィナはいわゆる孤児である。

 彼女が物心つく頃には両親は既に亡くしており、幼少期は周りの大人達の助けを得て生活していた。しかし、周囲の助けとは言っても彼ら達、メルリッツの狩人もそう決して裕福という訳でもなく――彼等としても出来れば自分達の子供のように面倒を見たかったのだが――せいぜい食事の世話をするのみで、野草採りや狩りの仕方を自分達の仕事の手伝いの駄賃として教えてやるくらいしか余裕が無かった。

 それ故、狩人として自立できるようになった今でもフィナは“モノ“というものに縁が無く、彼女の財産と言えるものは、狩人になったお祝いに近所の小父さん達に買い与えられた皮のポーチだけだった。皮の切れ端で可愛らしく花が装飾されたそのポーチは彼女のお気に入りで、家宝兼常に持ち歩く財布であった。


 シャクリ


 メルリッツ=ビーンの西門に向かう大通りの道すがらで買ったリコンの実を齧りながら考える。

 赤い実から溢れる酸味のあるジュースが爽やかな甘味として口の中に広がって心地良い……――食料だけ最低限買って、旅の道具とかは全部隣の街で買おうかな。

 道具の類いはやはりメルリッツ=ビーンでは都合しづらく、隣の街まで買いに行った方が(この場合、道中で買うのだが)数も種類もあるのだ。 


「ちょいと、お待ち。フィナちゃん」

「あ、ヤネル小母おばさん」


 うー。と眉をしかめて唸りながら、頭の中で必要な道具類をリストアップしていたフィナに路地の方から声が掛かった。

 聞き慣れた声にフィナがふと顔を上げると、路地でこちらを手招きする緋色の女性が目に入る。道を逸れて路地に近づけばやはり、その女性はフィナの面倒を見てくれる大人の一人である、ヤネルであった。 

 

「やーねぇ、いい加減“お母さん“って呼んでくれても良いのよ?」

「そんな、無理ですよー。……だってオード小父おじさんたちはわたしの命の恩人なんだもん」

 ヨネルの夫、オードはカレル、スクオッシュとともにフィナの面倒を見ているメルリッツの狩人達である。

 カレルの妻、ジーナと。

 スクオッシュの妻、ペネ。

 そしてオードとヨネル。

 彼らがフィナの保護者たちであった。

「だからこそ、よ。私たちのことを家族と思って良いのよ?」

「うぅ、でも……」

 フィナの声がか細くなる。

 幼少からのヨネル達に対する多大な感謝は、そう簡単にはフィナにとっての家族という一線を越える踏ん切りをさせないようだ。

 フィナの内心の葛藤を察したのか、ヨネルも茶髪の少女のヤセギスな肩を抱く。ふと、ちゃんと食べてるのかしら? と一瞬疑問に顔を曇らせながらも少女の肩まである髪を撫でる。

「ごめんなさい、ちょっと私も焦り過ぎてたかもしれないわね、ゆっくり……でいいのよ。私たちはちゃんと、あなたを待っているわ。だからもういいの、もう、いいのよ……」

「……うん、うん……」

 ヨネルは罪悪感を感じる。フィナの愛らしさの余りまた先走ってこの子を泣かせてしまった。

 フィナがオード達三人組に見つけられたとき、彼女は一ヶ月以上一人で孤独に晒されていたらしい。それは幼い――精神が形作られる年頃の――少女には余りに苦痛であった。

 ヨネルは腕の中の少女を感じる、彼女――フィナは未だ精神が未熟なのだ。当時の、孤独という激痛の後遺症に苛まれているのだ。果たして彼女自身でこれは治せるのだろうか?

 否、私たち大人や周りの人間が彼女を救わなければならない。

 願わくば――自分の娘として明るく笑ってくれる日が来てほしい。腕の中の華奢な少女が落ち着くまで、ヨネルはつらつらとそう思った。


「それじゃあね。今日は西に行くのかい? 昼飯には間に合いそうもないねっ。オードに言っとくよ、……そうそう、あいつまた酔っ払って今朝帰って来やがったのよ! まったく、困ったもんだねぇ。それじゃっフィナちゃん、いってらっしゃい!」

「……あっ、いってきます……」 

「気を付けていくのよー」

「あ、あ……ちがっ……。」


 どうやらフィナは今日は狩りに行くのではないことを伝え損ねたようだ。


 ヨネルが去ってしまった後、呆然と立ち尽くしていたフィナであったが、ややしてようやく現実に復帰し。そして肩を落とす。

 長くため息を吐きながら、目には“がんばるもん“と勇気の眼差しを浮かべて、しかし、よろよろとした足取りで大通りを西進、西門から出ていったのだった。


 西の門番がまた狩人の少女が錯乱したのかと呆れながらに見ていたのはこの際、語ることでもないだろう。



 こうして義勇軍最年少の兵士が故郷を旅立った。

 領主であるメルリッツ公としても。万全の人材を選んで、なお且つ“帝国会議“にも睨まれなくて一安心だろう。

 しかし。

 メルリッツ公は一つだけ間違いをおかしていた。

 それは彼がフィナの年齢が十二歳の少女であることを知らなかったのもそうなのだが、それとともに、彼女がメルリッツ=ビーンの人々の家計を浮かしてくれるありがたい存在であったことを知らなかったことだ。

 彼女が狩人としてその技能スキルを振るうようになって以来、メルリッツ=ビーンの狩猟業の取れ高は数倍に跳ね上がった。

 影響はそれだけに留まらず、干し肉の備蓄、動物から取れる皮や骨を使った工芸品の生産、メルリッツ=ビーンで百年に一度・・・・・、稀に見る産業の活性化が引き起こされていたのだ。

 一人の十二歳の少女によって。

 そうであるから。

 年若い狩人の彼女に人々は感謝こそすれ、侮る者はいなかったのだ。


 その後フィナが義勇軍に参加しに行ったということが発覚した際に、公が民衆に白い目で見られたことは言うまでもない。

※後書きには登場人物を書いていきます。

✢✢✢ ✢✢✢ ✢✢ 

○フィナ……主人公、ブラウンの髪に茶色の目、狙撃手


○イオリー=ヒジリカワー……メジル王国の勇者、なぜか名前が訛っている。ハーレム持ち、召喚されて間も無い十七歳の少年、黒髪黒目


○サリック=スター……メジル王国騎士団長


○メルリッツ領邦男爵……メルリッツ=ビーンの領主、“ビーンの旦那“などと呼ばれるが別に彼の背が低いわけではない


○オードとヤネル……フィナの保護者の夫婦その①

○スクオッシュとペネ…… 〃 その②

○カレルとジーナ…… 〃 その③


12/2 文字数のカウントを修正、あと矛盾した所を修正しました。(数刻前に遡る➼数カ月前に遡る)当初は追われる直前まで戻るつもりが、長くなって数刻前どころじゃなくなったからですね。

    

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