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原作者を殺したい  作者: 鈴井 六
原作者を愛したい

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11

 ああ、間違えた。バカなことを言った。

 久々にジェイドくんとふたりで話せて浮かれていたんだと思う。好きだと思い知って、もっと一緒にいたくなってしまったんだ。


 ジェイドくんはつい最近まで、わたしのことを男の子で魔王で子どもだと思っていた。……いや、実際そうだったんだけれども。

 だから、わたしのことを好きになってと望むのはあまりに無謀だとわかっている。それならせめて、一緒にお城にいてくれたらこれからも今までみたいに話せるかなって。

 それがたとえ、ジェイドくんとティアの結婚によってしか実現しないとしても。それでもいいから一緒にいたいと思った。

 ジェイドくんがお城での暮らしなんて望んでいないことはよくわかっていたはずなのに、わたしの願いを押し付けようとした。


「……殺したい。自分を殺したい」

「はあ? 死ぬ前にパン買ってこいよ、クソ作家」

「……」


 わたしが落ち込んでいようがなんだろうが、アルの腹は空くのだ。そしてこいつにはわたしが落ち込んでいるかどうかなんてどうでもいいのだ。クソが。


 アルがわたしの前に現れてから一週間。その間、毎日こうしてこいつに食べ物を恵んでやっている。

 最初の二日くらいは街を歩いてアルが興味を示した食べ物を買ってあげたりしていたけど、初日のパンが気に入ったのか、今は毎日あの店のパンを買っている。ジェイドくんの馴染みの店にあんまり顔出したくないんだけどな。


 しかしまあ、一週間。そう、一週間。

 アルと会った日から一週間ということは、わたしがジェイドくんを怒らせてから一週間ということでもある。

 あれからふたりで会っていない。

 避けていないと言えば嘘になる。ジェイドくんが何度かふたりで話そうとかごはんを食べようと誘ってくれたけど、予定があると全部断ってしまった。いや、でもこれは嘘じゃない。

 わたしたちがお城でお世話になり始めて二週間経った。祝賀祭の日が着々と迫ってきている。

 ティアがわたしの服について話し合おうと前より頻繁に誘ってくれるようになった。すっかり忘れていたけど、ジェイドくんと一緒にわたしも人前に晒されるんだ。

 キラキラしたやつとかフリフリした服をおすすめしてくるティアに、頼むからもっと地味な、初期装備みたいな……そう、『布の服』とかでいいからって言ったけど、にっこり笑って「バカ言わないで?」って言われたので、まだまだ決まりそうもない。

 それに加えて、


「腹減ったー。パンー。はーやーくー」

「……」


このクソガキの相手もある。本当に時間がないのだ。

 わたしがいない時間は、街から出て川で水浴びしたり適当な洞窟で寝たりしているらしい。生命力が強い。さすが元魔王。

 とはいえ、今はただの子どもの体なんだ。ただの子どもにいつまでも洞窟暮らしなんてさせていていいわけがない。

 思えばティアのこともジェイドくんのこともアルのことも、全部中途半端にしている。前の世界にいたときのわたしとなにがちがうんだろう。

 一番になんとかしなきゃいけないことはなにか考える。いや、考えなくても、わかっているんだけど。



  ―――



 完全に避けられてる。あの日以来、ニトを誘っても理由をつけて断られてる。

 オレも祝賀祭の件で打ち合わせに呼ばれたり「ガハハハハ!」に捕まったりしてバタバタしてるし、ニトも実際に忙しそうではある。でも声をかけたときの表情が明らかに気まずそうで、避けられてるのは確実だろう。

 あの日ニトに言われたことにはムカついたし、あいつに二度と言うなと言ったことを取り消す気もない。

 だからって、ずっとギクシャクして話もしないような間柄になるのは絶対に嫌だし、もう怒ってないから、ちょっとくらいオレに構えって言いたいだけだ。でも、それを言う隙すら与えてくれない。

 あいつが構ってくれないから、ひとりで外に出た。なんとなく、ニトと一緒に来たときのことを思い出してパン屋に来ていた。


「よぉ」

「お、ジェイ坊」


 店の裏で煙草吸ってる店主のおっさんに声をかける。

 このおっさんは昔から店に立つのが嫌いで、店番を雇った人間に任せて自分はひたすらパン焼くだけ。暇な時間はたいてい店の裏でこうして煙草吸ってる。


「もっと顔出せよなー。相棒の可愛い子ちゃんはさっきも来てくれてたぞ?」

「ニトが?」


 あいつ、ここに来てたのか。気に入ってくれたなら、うれしいけど。


「ちょいちょい来てくれてるよ」

「そうなのか? あいつ、なんか言ってたか?」

「いやー、俺はこうやってここで煙草吸ってたら、パン入った袋持って歩いていくニトちゃん見かけるだけだからさ。話とかはしてない」

「チッ。たまには店に出ろよ」


 このヘビースモーカーが。


「てかさージェイ坊。なんで一緒に来ないんだよ。まさか喧嘩でもしたか?」

「……」

「え、図星?」

「喧嘩ってほどのもんじゃねえ。オレがちょっと……」


 ……ちょっと、好きだって言ってもいないくせに振られたみたいな感じになってムカついただけだ。


「おいおい。とりあえずさっさと仲直りしてまた一緒に来いよ? ガキンチョの頃から知ってるお前さんに可愛い相棒ができたの、結構嬉しかったんだからな、俺」

「なんでおっさんが喜ぶんだよ。てか、いろいろ複雑なんだよ。……まともに話せてねーし」


 一応オレだって話す努力はしてるつもりだ。


「へー。らしくないな。多少強引にでも捕まえて話くらい無理矢理聞かせそうなもんなのに」

「飲み屋のおばさんもだけどよ、あんたらの頭の中のオレ、横暴すぎねぇか?」

「あ、飲み屋にも行ったのか。だって、子どもの頃のジェイ坊、ほんっっっとにクソガキだったし」


 ゲラゲラ笑うおっさん。まあ、否定はしないけど。


「まあ、あのクソガキがこんなにでっかくなって、いっちょ前に可愛い女の子連れてくるようになるんだから、そりゃ俺だって歳とるわけだ」


 この前ニトと一緒に来たときからそうだが、おっさんはオレがニトに特別な感情向けてることを当たり前に思ってるように感じる。

 オレでさえ、つい最近まであいつのことを子どもだと思ってたのに。


「……ニトのこと子ども扱いしないの、おっさんが初めてかも」

「子どもー? そりゃちっちゃいけど、ジェイ坊とそんな変わらんだろ?」

「ああ。でもオレは最初、もっとガキだと思ってた」

「でも一緒に来たときにはもうひとりの女の子として見てたよな?」

「まあ……」

「だからだよ」


 だから、とはなんだ。


「ジェイ坊があの子を見る目が、なんつーかこう、優しくてさ。これ絶対恋してるわ、って思ったもん。それを見てたから、ニトちゃんのことも子どもじゃなくて素敵なレディに見えたのかもな?」


 オレは、そんなにわかりやすい男なのか。他の奴にもそう見えてるんだろうか。


「ジェイ坊よ。なにがあったか知らないけど、お前さんにあんな顔させる女の子、手放しちゃダメだぞ。喧嘩したなら、たとえお前が悪くなくてもさっさと謝っちまえよ」

「……なんとかする。もう行くわ」

「おう。またな。あと、孤児院にも顔出せよー? 院長先生まだ元気にしてるから」

「……それは、また今度な」


 孤児院は、ちょっと行きにくい。

 それより今はニトに会いたい。

今回から不定期投稿とさせていただきます。

それほど長くはならない予定です。

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