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「あのさジェイド。パーティーから抜けない?」
「は?」
フォークに刺した肉を口に運ぼうとして――止まった。
安食堂にしちゃ上出来な肉が、ポトリと皿に落ちる。
それよりこいつなんて言った?
今の今まで普通に飯食って、次の町どうするーとか、装備どうするーとか、そういう話してたんだが?
で、いきなりこれ?
「……オレ、なんか嫌われるようなことした?」
「いやちがうんだ! ジェイド、君のこと嫌いになんてなるかよ! 一番の親友だと思ってる!」
「じゃあなんでクビ切ろうとしてんだよ、親友」
こいつ――アッシュとはガキの頃からの付き合いだ。
孤児院で一緒に育って、一緒に旅に出て、気付いたら仲間も増えて、今は六人パーティー。
で、その初期メンを?
なんの前触れもなく?
「急に思いついて?」
「雑すぎんだろ理由」
思わずフォークを逆手に持つ。頭のテッペンに突き立ててやろうか。
「さっきから、なんかそうしなきゃいけない気持ちに駆り立てられて?」
すると他の連中も同調するように頷く。せめてなんか言えば?
「なにこれ集団いじめ?」
いや違うな。
なんつーか、全員「理由はないけどそうしなきゃいけない気がする」って顔してる。気持ちわる。
「せめてもうちょいマシな理由ないのか」
するとアッシュが「あっ」って顔をした。
「最近さ、槍使いのランス加入したじゃん」
「おう。ネーミングが雑な槍使いのランス」
「前衛多すぎかなって……」
「じゃあなんで入れたんだよ」
「見たことない職業がいたら捕まえたくなるじゃん」
「図鑑でも作ってんの?」
もしそうなら初期メン切ってまでやらないでほしい。
「大体よぉ、この町もう魔王城の近くだぞ」
肉を咀嚼しながら言う。
「ここまで来るのにどんだけやってきたと思ってんだ。オレだってそれなりに腕上げてるし、決戦前なんだから人数は多い方がいいだろ」
「ぐぬぬ……」
アッシュは露骨に詰まって、視線が泳いでいる。
さっきからこいつ、“追い出す理由”を後付けで探してるだけだ。
とりあえず皿の肉を全部片付けて、空になった皿を重ねる。
それを見たアッシュが、
「……あ」
間抜けた声を出した。今度はなんだ。
「それだ」
「なにが」
「ジェイド。君は食費がかかりすぎる」
肩に手でも置きそうな勢いで言ってきた。
しかもなんか、いいこと思いついたみたいな顔してる。
「そこまで言うほど……」
積み上がった皿を見る。
「……オレが一番デカいんだから燃費悪いのは仕方なくね?」
「それはわかってる! わかってるけど多いんだよ!」
その他どもにもめちゃくちゃ必死に頷かれた。
「君の一食、他のメンバーの一日分くらいあるんだよ!」
「マジで?」
「マジだよ!」
「またまたご冗談を」
言われてもう一回皿見る。
……まあ、そうかもな?
「最近装備更新も増えてるし、金いくらあっても足りないんだ! 実際、依頼挟んで金稼いでるだろ!? その分進みも遅れてるし!」
「ぐぬぬ……」
今度はこっちが詰まった。
言われてみれば、思い当たる節はある。あるけど。
「いやでも、それで切るか普通?」
するとアッシュは一瞬だけ顔を曇らせて、
「ああ……ジェイド。俺は別に君が嫌いなわけじゃないんだ」
出たよ。
「本当だよ! 目つきも口も悪いけど、仲間想いでいいやつだってわかってるし!」
「フォロー下手か」
でも、そのあとが変だった。
「君は大事な幼馴染だし。でも……どうしても、一緒にいちゃいけない気がするんだ」
ピタッと、空気が揃う。
その他どももまた、同じタイミングで頷いた。寒気がする。
「……あーもう、いいや」
アホらし。
「抜けりゃいいんだろ」
アッシュの顔がパッと明るくなる。
「わかってくれたか!」
「わかったのは、お前らが“なんとなく”オレを追い出したいってことだけだよ」
それで十分だ。
別にオレは絶対魔王倒したいマンではない。
あれはどっちかっていうと、アッシュの夢だ。ガキの頃から一緒にいたから付き合ってただけで。
オレはまあ、飯食えて生きてけりゃいい。
そのために旅して、強くなって、ここまで来ただけだ。
だからまあ。
その当人にいらないって言われたら、ここで終わりでいい。
「じゃあな」
ご親切に金もきっちり分けて渡してきたし、回復薬もやたら持たされた。
ついでに抱きつかれて「平和な世界でまた会おう」とか言われた。涙目で。
嫌われてもいないのに追放されるとは。
しかも理由が『燃費の悪さ』だし。
食堂を出て町の出口に向かって歩き出す。これからどうしようか。
「あ、あのっ……!」
背後から声。振り返る。
「ンだよ」
そこにいたのは、フード被った小さいの。
「ひぃっ……! ご、ごめんなさい……!」
「なんだ、迷子か」
「ち、ちがくて……あの……さっき、パーティー……」
「ああ。抜けたけど」
見てたのか。あんま触れてほしくないんだけど。
するとそいつは勢いよく頭を下げた。
「それ……ボクのせいなんです!!」
「は?」
……今日は意味わからんこと言われてばっかりだ。
チビはオレの目つきの悪さに怯えながら声を絞り出す。
「わわっ……ボクが……この物語の原作者……なんですっ!」
「……えーっと」
よくわからんけどとりあえず、
「殺していい?」




