7.生贄の村
「おい、おい、おいってばっ!」
遠くから声が聞こえる。
この声――ライト?
いや、悪いけどもう少し寝かせてくれ、まだ頭がガンガンするんだ……
「起きろよ、ショート、アレル、フロルっ! 起きてくれよ!」
なんなんだよ……人がせっかく寝ているのに……
ああ、ダメだ、頭がボーッとする。何もかも忘れてもう一度眠りたい……
「ショート! マジでヤバイって!」
もう、なんだっていうんだ。
俺はようやく目を開ける。
……ここは?
ああ、頭がガンガン痛む。
どうしたんだ、これは。
「ショート、やっと起きたんだな」
半身を起こし周囲を見回す。
俺の隣には双子が寝ていた。
そして、かなり慌てた様子のライト。
ここは……どこかの納屋か? 大した物が置いてあるわけではないが、窓もない倉庫っぽい。
一体、何が……思い出そうとしても、頭が痛い。
いや、だがだんだん思い出してきたぞ。
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エルシャット村を旅立って17日目。
いくつかの村や町に寄りつつ、俺達は王都まであと5日という場所までやってきた。
今日は野宿かなと思って、『地域察知』の魔法を使うと、森の奥に小さな集落を発見。
宿があるとは思えないくらい小さな村だったけれど、もしかすると泊めてもらえないかと訪ねたのだ。
すると、そこでは『旅人とは珍しい』と大歓迎してもらえた。
小さな村なのに、料理や酒まで振る舞ってくれて……それで……うん? そこから先の記憶が曖昧だ。
そう。あの後急激に眠気が襲ってきたのだ。
ようやく記憶の糸をたどり、俺はライトに尋ねる。
「ここって、村の納屋か? なんで、こんな……」
「わかんねーけど、たぶん眠り薬を仕込まれたんだと思う。俺も頭がガンガンするし。どうも閉じ込められたっぽい」
眠り薬? あの食事に睡眠薬が入っていたってことか?
それで、俺達はここに閉じ込められた?
「アレルとフロルは?」
「まだ起きない」
「ってか、ソフィネは!?」
彼女がいないことにようやく気づく俺。どうにもまだボーッとしている。
「わかんねーんだよ。あいつだけいないんだ」
ふむ。
何やら尋常ではないことが起きているっぽいが……
しかし、頭が痛いな。考えがまとまらない。
睡眠薬のせいか。
……ちょっとまてよ。
俺は思念モニタを表示し、『解毒』の魔法を自分にかけた。
すると。
おお。頭がスッキリした。『解毒』って睡眠薬にも効くんだな。
ライトにも『解毒』をかける。
「サンキュ」
「双子も解毒しよう」
俺が『解毒』をかけると、アレルとフロルも目を覚ましてくれた。
「しかし、『解毒』で眠気が取れたってことは、いよいよ本当に睡眠薬を使われたんだな」
「ああ、そうらしいな。ちくしょう、親切な村人だと思っていたのに」
ライトが悔しそうに言う。
一方、いまいち状況が飲み込めていないっぽいアレル。
「ご主人様、アレル達掴まっちゃったの?」
「そうみたいだな」
俺も完全に油断していた。
「でも、なんで私たちを捕まえたんでしょうか? それにソフィネはどうしたんでしょう?」
フロルの疑問に答えられる者はいない。
「じゃあ、村の人達にきけばいいんじゃない?」
アレルが言う。
いや、聞けばいいったって……
ライトがアレルに言う。
「だから、外から鍵かけられてるんだって。ソフィネもいないから鍵開けもできないし」
まあ、さすがの彼女でも、鍵が外側じゃあどうにもならなかっただろうが。
「うーん、でも、ご主人様かフロルの魔法で壁を壊すとか?」
アレルに言われ、俺とフロルは『あっ』と声を上げたのだった。
確かに。こんな木製の納屋の壁、俺達ならばどうにでもできる。
そんな乱暴なことをしてもいいのかと躊躇する部分もあるが、睡眠薬を嗅がせて閉じ込める方が乱暴である。
そんなわけで、フロルが先日立ち寄った町で覚えたばかりの『爆裂』を使って、納屋の壁を吹き飛ばしたのだった。
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『爆裂』の音に、村人達が『なんだなんだと』集まってくる。
村人達は殺気立っており、手に鍬や鎌などの武器になりそうな農具を持って今にもこちらに襲いかかってきそう。
むしろ、好都合だ。
「あんた達、どういうつもりだ? なぜ俺達に薬をかがせて閉じ込めた? ソフィネ――連れの女の子はどうした?」
俺が村人達を睨み尋問する。
だが、彼らは答えず、じりじりと俺達への包囲を狭める。
一触即発だ。
アレルが俺に確認する。
「ご主人様、戦ってもいい?」
「ああ、ただし殺すなよ」
「うん」
さすがに状況が読み切れないし、アレル達に人殺しはさせたくない。
もちろん、俺も人殺しなんぞしたくはない。
「ごめんね。ちょっと痛いよっ!」
アレルは叫び、ミスリルの剣を抜いた。
それにしても、武器を奪わずに閉じ込めるとか彼らも迂闊だね。まあ、見た目ちびっ子と少年と優男だからな。油断したんだろう。
「はぁっ!!」
アレルが剣を一振り。
『風の太刀』である。
もちろん全力ではない。
今のアレルが本気で『風の太刀』を使えば、それだけでここにいる村人全員、一撃で皆殺しにできてしまう。
アレルの『風の太刀』に村人達は吹っ飛ぶ。
「今のは警告です。次は本気でやりますよ。俺達はこれでも冒険者なんだ。ソフィネを返してください」
俺の言葉に、吹き飛ばされた村人達は起き上がり、そして次々に土下座しながら降伏した。
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『ドラゴンへの生贄!?』
別の場所に監禁されていたソフィネも含め、俺達5人は村長から説明を受けた。
で、出てきた言葉が『ドラゴンへの生贄』である。
「はい。3年前、村をドラゴンが襲いました。その時、旅の魔道士様が、ドラゴンを大人しくさせたければ若い娘をドラゴンへの生贄にせよと……その後も月ごとに1人ずつ、生贄にだすべしと……」
なんだ、そりゃ?
「ですが、もう、村には若い娘などおりませぬ。それゆえ……」
ちょうど村にやってきたソフィネを生贄にしようとしたってことか。
「あなた方にお願いします。先ほどの強さを見るに、あなた方ならばドラゴンを倒せるやもしれません。どうぞ、この憐れな村をお救いください」
いやいやいや。
いくらなんでも、それは身勝手にもほどがあるってもんだろう。
「ふざけんじゃないわよ。人に薬を嗅がせて生贄にしようとしたくせに、いざ私たちが強いと分かると『憐れな村を助けてください』ですって!? あんたら自分が何を言っているか分かっているの!?」
ソフィネの怒りはごもっともである。
っていうか、俺も同じ気持ちだ。おそらく、ライトやフロルもそうだろう。
村長を冷たく睨み付けている。
「そ、それは……ですが、ワシらには他にどうすることも……」
「町のギルドに正式に討伐依頼でも出したら?」
「そんな金はこの村にはありませぬ」
「ああ、そう。つまり私たちに出せる謝礼もないってことねっ! よくわかったわ」
ソフィネは吐き捨てる。
「いきましょう、みんな。こんなヤツらドラゴンにでもなんでも喰われればいいのよ」
ソフィネは怒り心頭らしい。
まあ、正直俺も彼女に賛成だ。
いや、さすがにドラゴンに喰われろとまでは思わないが、かといって、俺達が助ける義理もない。勝手に村を捨ててどこかに避難しろとしか思えない。
とっとと、こんな村出て行こうと立ち上がる、ソフィネ、俺、ライト、フロル。
そんな俺達を、アレルが止める。
「みんな、待って」
「なによ、アレル?」
フロルの問いに、アレルがおずおずと言う。
「やっぱりこのままほうっておいちゃいけない気がする」
うう。アレルは優しい子だ。
さすがにドラゴンに襲われる村を放ってはおけないってことだろうか。
「だけどねぇ、アレル……」
フロルがアレルに呆れ混じりに言いかけるが。
「この村の人達にはアレルも怒ってるよ。でも、もし本当にドラゴンがいるんだったら、次は他の村を襲うかもしれないかなって」
あ。
確かにその点は考えていなかった。
この村の住人はどうなっても構わないが、『地域察知』を見れば他にも集落はあるようだし、なにより王都も近い。
それに、先日旅の途中でお世話になった村(こっちは本当に善良な村人達だった)が襲われるかもしれない。
俺達4人は深々とため息。
「とりあえず、ドラゴンの居場所を聞きましょうか」
ソフィネはウンザリした顔を浮かべつつ、そう言ったのだった。




