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第9話 殿、堅崎郷でござる



1587年(天正15年) 8月  近江国高島郡大溝城




岩瀬又十郎が勘三郎を噛みつかんばかりに見ていた


山中の戦いより一夜明け、岩瀬率いる朽木勢は、主人 朽木元網から呼び戻され、勘三郎も鈴に連れられて大溝城の一室で対面していた


参加者は


朽木信濃守

岩瀬又十郎

野尻平八


小舟木勘三郎

能見山新太郎


そして、城主京極高次だった



「此度はご足労いただき忝い。朽木殿が()()()()の小舟木を成敗されると聞いて、一体どういうことかと思いましてな」


京極高次は穏やかな人柄で、常に笑顔を絶やさなかった

しかし、その言葉を聞いて驚いたのは岩瀬又十郎と小舟木勘三郎の2名だった


「京極様の配下ですと!?この山賊共がですか!?」

「京極様の配下ですと!?この小舟木勘三郎が!?」

鈴が勘三郎の尻を思いっきりつねって黙らせた



「左様。この通り名簿(みょうぶ)も受け取っておる」

京極高次が一枚の木片を見せる


『比良山中  小舟木村  小舟木勘三郎能隆   以下参拾名』


「これは…」

勘三郎が絶句した

昨日、鈴が京極高次に助けを求め、渡したものだった

名簿を受け取っている以上、勘三郎は正式に京極家臣という扱いになる



「我が配下に対して軍を催す以上、関白様の惣無事に刃向かうものと受け取られてもやむを得ません。いかが?」

「いや、これは我らが早とちりでござった。てっきり主を持たぬ山賊の類かと思いましてな。

京極殿、小舟木殿、許されよ」

元網が頭を下げた


「殿!」

「黙れ、又十郎」

元網が一喝して岩瀬を黙らせた


「此度の事、こちらの手落ちでござった。詫びて許されるものではないかもしれぬが、出来うるならば今後はよしなにお願いしたい」

改めて朽木元網が勘三郎に相対して頭を下げる



「お顔をお上げ下され。某は降りかかる火の粉を払っただけに過ぎませぬ。こちらこそ、以後は良しなにお願い申し上げたいと存ずる」

勘三郎も軽く頭を下げた


「では、これにて此度の事は落着ということでよろしいかな?」

高次が場をまとめた




この一言で、小舟木勘三郎を世に知らしめた戦

『比良山中の戦い』が閉幕した





散会後、別室にて勘三郎一行は京極高次と改めて対面していた


「京極様。此度の仲立ち、ありがとうございました」

鈴が高次に頭を下げた

「いや、わしも望外に産物を得たのだ。今回一番得をしたわけだからの」


勘三郎が改めて高次に頭を下げた

「改めて、六角旧臣 小舟木勘三郎能隆にございまする。以後は京極様のお下知に従いまする」

「うむ。ただ、()()は返しておきましょう」

高次が勘三郎の名簿札を渡した


「京極様…」

「小舟木は形式上我が配下といたしますが、実質は一郷の独立勢力として立っていてもらう。

要するに、今後についてはお主の尻は拭かぬということだ。

それでよろしいかな。鈴殿」

「はい。重ね重ねありがとうございます」


「はっはっは。小舟木殿、胆の据わった良いご妻女をお持ちだ。尻に敷かれぬようにな」

「はっはっはっ」

勘三郎の乾いた笑いが響いた


尻に敷かれている自覚はあったようだ



「うむ。一郷の郷士なればいつまでも小舟木村でもあるまいな。以後小舟木村一帯を『堅崎(かたさき)』と呼ぶことにしよう。

小さき舟がもやる堅き岬じゃ。いかがかな?」


「堅崎…良き名を頂き、恐悦至極にございまする」

勘三郎が改めて頭を下げた


「では改めて、堅崎郷の小舟木勘三郎よ。堅崎の地を富ませ、領民を撫育することを任として与える。

以後、励め」

「ははっ!」



こうして、我らが小舟木村は正式に京極配下の堅崎郷として世に知られることになった

堅崎郷は以後、山の産物を扱う里として、商人や移住者を引き受けていくことになる








「鈴のおかげで京極様の家臣となることができた。礼を言うぞ」

「礼はいらないわ。その代りこれから毎年10貫文(約100万円)を京極様へ納めないといけないから、ヨロシクね。お・か・し・ら」

「なにぃ~~~~~~!!」

「それを条件に仲裁を頼んだんだからね。反故にしたら今度は京極様の『討伐軍』を相手にすることになるわよ」

「ぬぅ…」

「はっはっはっ。殿、ますます狩りに励まねばなりませんなぁ」

能見山が妙にうれしそうに笑った

六角家臣である小舟木一統にとって、敵対はしていても京極家は六角家と同格、つまり格上という意識があった

六角家の再起が難しい状況では、京極家臣となることに嫌も応もなかった







「殿、よろしいのですか?あのような山賊共を配下に加えるなど」

大溝城内で赤尾伊豆守が京極高次と話している


「良いのだ伊豆守。名簿は返したからの。関白様から何か言われても知らぬ存ぜぬで通せば良い」

「しかし、小舟木は京極様の家臣であると申し開きをしましょう」

「なに、わしが認めておらぬと言えば奴らは所詮山賊でしかないのだ。もしもの時は我が手で討伐すればよい」

「はっ…」


柔和な笑顔の奥に一抹の冷酷さを備えた高次に、赤尾伊豆守はそれ以上の意見を控えた


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