ミュエル王
僕が夢の中で、初めてあの惑星を訪れ
てから、もう一年以上経つ。
これまでに二十回くらいは、あの星に
行ったんじゃないかな。
だけど、行く時のパターンは何種類か
あるんだ。
金縛になって体がブルブル震えだし、
僕の肉体から霊体がスルッと抜け出
して、空を飛ぶところまでは同じな
んだ。
でも最初の時みたいに光がぶつかって
くる場合もあれば、光に吸い込まれる
場合もある。
一度なんか、僕が団地の周りを飛びな
がら、
[美緒ちゃん家にでも、行ってみよ
うかな]
って考えてたら、目の前に突然、
金色の滝が現れて、砂金のような
ものがザアザア空中に流れ出した
んだ。
僕が驚いて見てたら、その砂金の粒子
がギラギラと輝き出して、目も開けて
られないくらいに眩しくなった。
そのうちに、僕の体はその光の滝に向
かって引き寄せられて行ったんだ。
僕はパワーが出せなくて、逃げるこ
とも、抵抗することも出来なかった。
そして、光の中に吸い込まれた瞬間、
意識が吹っ飛んだ。
気がつくと、僕はあの惑星の墓地みた
いなところで目が覚めたんだ。
そこには、暮石のような黒い石板が、
見渡す限り並んでた。
光の滝以外にも、団地近くの神社の
森に突然空から眩しい光の柱が突き
立って、僕はその柱に吸い込まれた
こともある。
あの星で目覚める場所も、
一定じゃないんだ。
僕はあの惑星にある南極以外の五つ
の大陸の色んな場所で目が覚めた。
あの星の海岸で目覚めたことも
あるし、高い山の上や、森の中
で目覚めたこともある。
とにかく、色んなパターンがある
から面白いと言えば面白い。
だけど、いつも美緒ちゃんの家に
行く前に、光の滝や柱や球体が現
れるんだ。
◇◇
あの惑星の街並みは、どの大陸に
行ってもほとんど変わらない。
高い塔が各所に立ってて、半球体や
円錐型の建物がたくさん並んでる。
あの高い塔は、天候のコントロール
に利用されてるみたい。
雨の日と晴れの日で塔の色が変わる
んだ。
雨の日は黒くなって晴れの日は白く
なる。
驚いたのは、あの星の駅の様子な
んだ。
線路は全て地下を通ってて、
行き先によって、細かく路線
が別れてる。
だけど駅だけは地上に出てて、
何層にも別れてる。
時間帯で行き先が変わるから、
あの星の人たちは、駅の中を
レクリエーションみたいに、
グルグル動き回って喜んでる。
あの星の人たちは寿命が長いから、
あまり急がないんだ。
でも、たまに急いでる人もいて、
僕は駅で迷った人たちを何度も
空から助けてあげた。
あの星の人たちは、仕事も遊び
みたいに楽しんでる。
だって、人間の生活に必要な物事は
全てロボットがやってくれるから。
農業や畜産、生鮮、衣料、その他、
生活必需品や工業製品の生産管理、
建築等の都市基盤整備や資源開発、
再生、調達、その他天候の管理に
至るまで全部ね。
資源については、巨大な円盤で他
の惑星から無限に調達出来るから
何の心配も無いし、利権争いも起
こらない。
だから、あの惑星の人たちは、学問や
芸術、科学、音楽、発明、スポーツな
んかを仕事にしてる人たちが多い。
王様は凄く尊敬されてて、各分野で優
れた成績をおさめた人たちは王様から
表彰されるんだ。
それだけが、あの星の人々の生き甲斐
みたい。
特権階級もないし、政治家も官僚も居
ない。
行政は全てロボット任せ。
賃金は皆平等、物価もめちゃくちゃ
安いし、住む場所や、転居・旅行は
全て自由、ビザやパスポートも要ら
ない。
教育や医療、美容なんかも全て無料
で平等に受けられるから競争原理や
市場原理が全く働かないんだ。
だから、あの惑星の人たちは、
みんな穏やかで優しいし、凄く
のんびりしてる。
みんな寿命が長いから百年単位で
個人の計画を立てるんだ。
みんなマンションタイプの豪邸に
住んでて、使用人は高度な知能を
備えたAIロボット。
ヒューマノイド型で、男性タイプと
女性タイプどちらでも自由に選べる。
自然が好きな人たちは、山の中や
海の近くに、戸建てタイプの豪邸
を建てて住んでる。
どれも半球体か円錐形のものが多い
けどね。
◇◇
僕は始めの頃、あの星の人たちとは
ほとんど交流したことがなかった。
空を飛ぶのが楽しくて、話しをしてる
時間がもったいないと思ってたんだ。
どうせ夢だと思ってたし、肝心なとこ
ろで僕が消えちゃうし。
だけど、ミュレーナ姫に会ってからは
気持ちが変わったんだ。
絶対に姫を助けたいと思った。
それに、この間不意打ちを食らった
アーリン星人に仕返ししてやりたい
って気持ちが強くなったんだ。
僕が王様のお城に行ったのは、
ミュレーナ姫に初めて出会った
次の夢の時だった。
この惑星に来て最初に出会った
白人の男性が僕を案内してくれた。
彼の名前はカミュって言うんだ。
カミュはずっと僕のことを探してた
みたい。
僕の方から会いに行くと、
凄く喜んでくれた。
◇◇
王様は眩しく光る巨大な白い
球体の中に住んでた。
僕たちはフェラーリみたいな
黒塗りの王室専用車で空から
球体の中に入って行ったんだ。
継ぎ目の無い滑らかな球体の
表面に、突然入口の空間が開
いた時は少し驚いた。
その球体は、普段は僕が最初に
訪れた街から、二千キロ離れた
山岳地帯の中にあるんだけど、
この惑星の色んな場所に移動で
きるんだって。
宇宙空間にも出て行けるらしい。
お城というよりは宇宙船だった。
「翔太、この球体はね、普段は別
の次元にいるから見えないんだ。
必要な時だけこの次元に現れる。
そこにあるけど、そこに無いって
感じかな。地球ではまだ開発され
てないけど、我々は次元転移シス
テムを使って、色んな場所に行け
るんだ。必要なら君を今すぐ地球
まで送って行くことだって出来る
んだよ。もっとも次元転移システ
ムを使う時は、王様の許可が必要
だけどね」
ってカミュが教えてくれた。
カミュの職業は科学者なんだ。
◇◇
ミュエル王は凄く体格が良くて、
ハンサムだった。
真っ白な軍服みたいな服を着てて、
身長は二メートルくらいあった。
銀髪で初老の雰囲気だけど、
肌の色は褐色で健康的な感じ
がした。
ミュレーナ姫と同じブルーの
大きな瞳をしている。
この惑星の遺伝子工学を使えばいくら
でも細胞を若返らせることが出来るん
だけど、王様は威厳を出すためにわざ
と初老の皮膚細胞にしてるって、後で
カミュが教えてくれた。
ミュエル王は広大な広間の窓際の
ソファーに腰掛けてた。
大きな窓からはヒマラヤ山脈みたいな
絶景が見渡せた。
高い山々の頂は雪に覆われている。
ここは相当標高が高い場所みたい。
球体の外からは中が見えないのに
中からはパノラマみたいに景色が
見渡せた。
部屋全体が全面ガラス張りみたい
になってるんだ。
僕たちが男性型ヒューマノイド執事
に案内されて王様の前まで行くと、
手品みたいにスーッと白いソファー
が二つ床から出てきた。
座り心地が良さそう。
[これも次元転移システムを使った
のかな?]
って、僕は思った。
王様も同じようなソファーに腰掛け
てた。
「二人ともよく来てくれたね。
翔太君、カミュ君、そこに掛け
たまえ」
と言って、ミュエル王は立ち上がり、
ソファーの方に手を向けた。
僕たちはソファーに腰掛けた。
王様もまたソファーに座った。
「翔太君、私は君に会いたかった。
一年前に、カミュ君から君の話しを
聞いてね、やっと会えて嬉しいよ」
「どうも初めまして、山野翔太です。
僕も王様にお会い出来て嬉しいです」
と言って、僕はペコリと頭を下げた。
僕は緊張してて、脇の下に汗をかい
てた。
「君の話は大体聞いてるよ。君は先日
空からミュレーナを助けようとしてく
れたそうだね、どうもありがとう」
「いいえ、姫を助けられなくて、
すみませんでした」
「いや、とんでもないよ。でも君は
体中に弾丸を受けたって聞いたけど
大丈夫なのかい?」
「ええ、大丈夫です。僕はこの星では
不死身みたいです」
「死んでから蘇るなんて、まるで
キリストみたいじゃないか」
「いいえ、僕はそんなに立派な人間
じゃないんです。自分でも何で空を
飛んだり、死んで蘇ったり出来るの
か分からないんです」
「やはり神のご意思としか思えんな。
この惑星の危機に天が君を使わせたの
だろう」
「いや・・僕はそんな大それた人間
じゃないんです。ただの高校生です
から。僕をあまり買いかぶらないで
下さい」
「まあ、いいじゃないか翔太君。
そういうことにしておこう。そう
でも思わないと、私も気が滅入っ
てしまう。ミュレーナが囚われの
身となって以来、私は一瞬も気が
安まる暇がないのだよ。ああ私の
ミュレーナ! 可愛いミュレーナ!」
と言って、王様は少し涙ぐんだ。
「ご安心下さい王様。翔太が力を
貸してくれれば、ミュレーナ姫は
必ず奪還できます」
って、カミュが口を開いた。
「何か良い案でもあるのかね?
カミュ君」
「僕に良い考えがあります。ご存知の
通り、あの塔には奴らが張り巡らせた
次元転移防御システムがあるので、姫
がいる部屋にヒューマノイド兵を直接
送りこむことはできません。でも翔太
の念力シールドで姫を保護できれば、
外からあの塔の窓を破壊して姫を助け
出すことができます。翔太のシールド
は電子機関銃の弾丸を弾き返せるほど
の強度があるので大丈夫です。まず、
次元転移システムであの塔のてっぺん
まで戦闘型円盤を何機か飛ばします。
そして、翔太のシールドで姫を保護し
た後、小型ミサイルで、あの塔の窓を
爆破します。その後は、空中から翔太
が姫を助け出します。敵の戦闘機はせ
いぜい五、六機程度です。奴らの本隊
は条約で定められた北極からまだ出て
いません。奴らが攻撃してきたら他の
円盤で翔太と姫を援護します。先日の
『ジューク塔の聖戦』の映像を見てみ
ましょう。これはあの塔の周りに配置
してある異次元監視カメラでとらえた
映像です」
カミュがパチンと指を鳴らし、
ヒューマノイド執事に合図した。
[聖戦って何だ?]
と思って、僕がポカンと口を開けて
たら、さっきまで山岳地帯の絶景が
見渡せたパノラマみたいな大きな窓
に僕が奴らと戦ってる時の映像が出
てきた。
映像は地球の3D映像なんかとは
比べ物にならないくらい立体感が
あって凄かった。
実物の僕がその場にいて、戦って
るような感じなんだ。
塔の周りを飛んでる僕の後方に
アーリン星人の奴らが乗った、
スクーターみたいな戦闘機がい
きなり六機現れた。
奴らも次元転移システムが使える
みたい。
僕が張ったシールドに弾丸が弾かれ
てる映像が映し出された。
奴らは顔を見合わせて驚いてる。
その後、僕が圧縮空気爆弾で奴らを
やっつける映像が流れた。
次に僕が塔の窓の外に佇んで
ミュレーナ姫とテレパシーで
会話してる映像。
「おおミュレーナ、私の可愛い
ミュレーナ!」
と王様が叫んだ。
その直後に、奴らが戻って来て
僕が全身に銃弾を浴びる映像が
流れた。
僕の体は、奴らの銃弾を食らって、
ボロ雑巾みたいに粉々になった後、
フッと映像から消えた。
自分が殺されるのを見るなんて、
あんまり気持ちの良いもんじゃな
かった。
「おお、何て酷いことを! 翔太、
翔太! 君は本当に生きてるのかい?」
王様は僕に近寄って来て、僕の
顔や頭や背中や肩を撫でた。
そして大声でこう言ったんだ。
「おのれー、もう許さん! 私の可愛
いミュレーナと翔太を、こんなに酷い
目に合わせるなんて! カミュ! 今度
の作戦が無事終了したら、私はこの星
の名誉にかけて奴らと徹底的に戦う!
アーリン星人の奴らを、この星から、
一人残らず追い出してやるからな!」
その時僕は、ミュレーナ姫の映像を
見たからか、美緒ちゃんのことを急
に思い出したんだ。
[美緒ちゃん、僕のラブレター読んで
くれたかなあ?]
って。
そしたら体が少しムズムズして来た。
僕はこの惑星から消える時、いつも
そういう感じになるんだ。
そのことは、これまでの経験から学ん
でた。
王様とカミュも僕の異変に気づいて、
驚いた顔をして僕の方を見てた。
僕の体はだんだん透明に薄れて
行った。
「王様、また来ます!」
って早口で言って、僕はフッと
消えたんだ。
「待ってるぞ!」
って、カミュが早口で答えた。




