(4)
「おい、今なんて言った?」
中学生になり、けんたは小学生の頃のがっしりとした体格そのままに成長し、そこにいるだけで威圧感を伴う雰囲気まで纏っていた。そんなけんたが今目の間で僕の事を睨みつけている。眉間にしわを寄せ、今にも殴りかからんとするほどの剣幕は、その後の展開次第では簡単に暴を振るう事も出来るぞといった威嚇をはらんでいた。
「しゅんすけの事、覚えてるよな?」
けんたは何も言わない。もちろん今更知らない憶えてないだなんて言わせるつもりはない。
「犯人の事、覚えてるよな?」
けんたは尚も何も言わない。僕が憶えているのなら、けんただって間違いなく憶えている。
『俺じゃない。俺はそこまでやっていない』
当時の記憶に残る男の証言。そんなものに当時誰も耳を貸さなかった。
「いいから言えって言ってんだろ」
能書きはどうでもいいらしい。けんたは僕の事実の言葉が、聞き間違いではない事をまず確かめたいようだ。
本当はこんな事をわざわざほじくる必要はなかった。だが、知ってしまった今僕は彼を見過ごすわけにはいかない。何もせずにはいられない。
「分かったよ」
ならばいいだろう。いくらでも言ってやる。
お前は。お前は――。
「しゅんすけを殺したのは、おまえだろ」
これで満足か。まだこれでも半分だけどな。
*
「今更何言ってんだよ、お前」
冗談で濁すような言葉を使いながら、睨みつけた目元の厳しさはそのままだった。お前の話を聞いてやるぞといった、上からの視線と態度が気に食わない。
「これ、知ってる?」
僕は携帯で一つの記事を開いて、けんたの方に差し出した。けんたはその鋭い視線をようやく僕から外し、携帯の方へと下ろした。
『小学校男児、公園の落とし穴に落ちて大怪我』
何てことのない地元のニュースに思えた。でも、落とし穴というキーワードは僕にとってはどうしても反応してしまうものだった。
僕はたまたまこの記事を見つけた。そしてそこから、疑念が再発した。
「これが何だよ」
そう言うだろうと思っていた。自分は関係ないと。
「見ての通りさ。少し前、男の子が公園の落とし穴にはまって怪我をしたんだ」
「それが?」
「この落とし穴は二号公園にあったそうだよ。でね、この落とし穴。ただの落とし穴じゃないんだ」
「ただの落とし穴じゃない?」
「そう。中にね、細いパイプが仕込んであったんだって。先を斜めに切って尖らしたパイプが一本」
「……」
「危ないよね。今回この男の子は、落ちた拍子にそのパイプが足に刺さっちゃったらしい。でもまだ足で良かったよね。刺さりどころによっては、死んじゃってたかもしれないよね」
「……それが何なんだよ」
「この穴、いつ仕掛けられたんだろうね」
記事にはそこまで書いていなかった。だからこれは一つの可能性だった。これだけでは何も言えない。でもこれが疑念のきっかけだった。
それから僕はけんたへの疑念に囚われ、どうしようもなく気になった。あの日の落とし穴の一件は、誰が仕掛けたものなのか。




