1997年 誘蛾灯(4)
数ヶ月しか行っていない学校の卒業式など何の感慨もない。
事前の練習もいい加減にやり過ごしていた。
それにしても暇である。転校生のぼくには台詞などないし、校歌だって曖昧にしか覚えていない。退屈で貧乏ゆすりを繰返し、爪を噛む。じっとしていなければならない状態で、神経が過敏になっていた。盲腸の手術痕がきりきり痛みだし、心なしか頭痛も始まった気がした。
後方の席に座る前田くんも、どこか不安定な状態だ。噂によると私立が全滅し、ニシコーを受験したらしい。発表を控えている所為か、イライラしていた。
「しっかしあっという間だったなぁ、まだ二月の気分だよ」
「二月と三月って曜日が一緒だから、変な感じですよね」
卒業式が終わると、前田くんはすっかり元気になっていた。アルバムに、何やら文字を書いてもらったりしている。
彼の弟さんは、在校生としてやってきていたが、ご両親は仕事が忙しく、参加していないようだった。
「なぁなぁ、打ち上げ行こうぜ、酒あるとこで」
学級委員にも気さくに話しかける彼が、少し羨ましい。ぼくには絶対にできない芸当だった。
「馬ッ鹿お前、制服で酒は飲めないだろ?」
馬鹿という言い方が癪に障ったが、関東では普通の言葉らしいので黙っていた。何より、言われた本人である良輝くんが、怒っていないのだから、ぼくが何かを言うべきではない。
ワイワイと騒ぐ喧騒の中、ぼくは前田くんに手を引かれた。
朝が光っていた。風が冷たく、雪が眩しい。
合格発表の掲示を見ても、なんとも思わなかった。もともと成績は足りていたし、試験に落ちたことがないから感動が薄いのかもしれない。
「……あった」
隣で前田くんの声がする。掠れた小さなそれは、次第に大きな叫びに変わっていた。
「マジで! 受かった、やった!」
彼からの衝撃で、少しよろめいた。その抱擁は、なんだか場違いな気がしたけれど、しかし嬉しくも思った。自分の番号を見つけたときよりも、感動があった。
「なんだよ泣くなよ」
そんな前田くんの声が聞こえたらが、ぼくは泣き虫だ。




