第58話(最終回)
時の魔法には制約がある。
時を止める範囲は、術者の視野に納まること。
止めたい場所の一部に触れること。
命あるものには効かないこと。
止められる場所は一ヶ所であること。
「僕の目的には全く邪魔にならない条件だけどね。」
「目的?」
「うん。あのさ・・。僕、いつも考えていて。君を・・得た、時のこと。」
少しずつ変わっていくセシルの反応に、抱いたほのかな期待。だが、それは、楽しい想像ばかりではない。
「君を得るってことは、失うことがあるってことだ。想像もしたくないけど、はっきり分かるのは、きっと耐えられないってこと。だから・・自分を保てるようにしなきゃって思ったんだ。」
竜の寿命は長い。その血を濃く引くルイスは、恐らく人より長く生きるだろう。
セシルを失えば、自分がどうなるか。想像したとき寒気がした。
自分は、世界を壊すかも知れない。
「だから、セシルの空気を閉じ込めて、時を止めた場所がほしいと思った。狂いそうになったら止められるように。・・もちろん、僕が先に逝くなら、セシルがもとの生活をすることも可能だしね。」
だめ?と聞くルイスを、セシルは一刀両断する。
「重いです。」
「あ、やっぱり?」
「でも。」
セシルは続ける。
「いいですよ。なんなら、シチュー作っておくので、時をまた動かし始めたら食べてください。」
愛の重たい、どうしようもない勇者様。
その男を愛する決意をしたセシルもまた、普通の令嬢ではない。
セシルの誕生日はそんな誓いを刻んで、終わっていったのだった。
そして一年後。
約束を果たしながら、二人は王都にささやかな一軒家を建て、生活を始めた。
しかし、彼らの新居には、来訪者が多い。
特にセシルを訪ねて。
「セシルさん!ルイス様が夜勤を拒否し続けで、部下(主に僕)は、夜眠れぬ日々。もう、限界です!たまには夜勤に行くよう言ってください!!」
ある日は、ヴィンスがすがるように言ってくる。
やっとできた彼女にフラれそうなのは同情するが。
「セシル。力が戻ってきた以上、我が輩は鈍らないように訓練がしたい。ルイスが一番適任なんだが、あやつ、一向に誘いにのらぬ。一度、そなた我が輩に誘拐されてくれないか?」
またある日には、唐突に現れた魔王アクタスからの要求。
「セシルよ!暇じゃ暇じゃ暇じゃー!!何か楽しい余興はないか?ルイスも最近からかいがいがない。また出張させようかのう?」
ある日にはアリシア姫からの訪問。相変わらず自由な姫は、最近外出規制が緩和され、わりに頻繁にやってくる。
訪問だけではない。通信でモルベール家ジャンニからもまた来ないかと誘われ、精霊を使って新たな精霊王たちからもメッセージがくる。
幸せな毎日ではある。
だが、ルイスは、相変わらずセシル以外には無関心。
セシルと過ごすことを最優先するため、その皺寄せは周りにいく。
セシルは彼らの要求に、大きなため息をつく。
だって。
「本人におっしゃってください。私が言ったって同じです。」
いや、逆か。セシルが頼めばルイスは絶対にそうする。それが分かっているからこそ、セシルは迂闊に頼めない。
(ルイスの行動に、責任なんてもてないよ!!)
だから、セシルは同じセリフを全力で言うことになるのである。
「皆さん、私にお願いされても困ります!」
勇者様の溺愛は重すぎる。でも、そんなセシルだから、やっていける、のかもしれない。
おしまい
やっと結末までいきました。
毎日投稿の挫折を経たにも関わらず、見捨てずに最後まで読んで下さった皆さまに、心から御礼申し上げます。
本当にありがとうございました!
懲りずに次回作も構想中です。
近いうちにまた投稿しますので、その時はまたよろしくお願いいたします!




