第48話
「私は、精霊王の妻だよ。でも、セシルの祖母なんだ。」
尋ねたセシルに、ジルダは言った。
ちなみに、とりあえず精霊王のところへ行こう、と、歩きながらの会話。フィンネルはセシルの腕の中に納まっている。
「モルベール家のジルダさんが精霊王に捧げられたのは、初代でしょう?もう、500年くらい前なんじゃ・・。」
計算が合わないセシルに、ジルダは順を追って説明した。
「私は、精霊王から溺愛されていてね。でも、人間の寿命は、精霊達の物差しではとても短い・・」
それが分かっていた精霊王は、自分たちの子孫にまじないを施した。
できるだけ彼らに不利な影響のないようにという、ジルダの頼みで、自分の死期が近づいたときに初めて発動するまじないを。
人間として血を繋ぐ彼らにはある決まりがあった。それは、家系を見れば分かる。
女の子が極端に少ない。
ジルダが産んだ子どもの中で、一人だけいた女の子。その家系にだけ、必ず一人、女の子が産まれる。
そのルールが変わるのは、その女の子の家系が何かの事情で途絶える時。
その時だけ別の系図に女の子が登場する。
他にはいない。その理由は。
「・・精霊王が死ぬとき、ジルダとして、彼のそばにいるため。」
ジルダも彼を愛していた。だから、自分が死ぬときに精霊王が悲しみに沈みながら何度も懇願するのを見て、結局了承した。
精霊王の死期が近づくまでは、女の子の体を借りて転生していても、ジルダの記憶はなく、自我をもつ一人の人間として、人生を全うしていく。
精霊王は、それを決して邪魔しない。
それだけは固く約束して。
「セシルの祖母である私の本当の名前は、アン、というんだ。じいさんが亡くなって、お前の両親が事故で亡くなって、途方にくれていた時、突然、その時が来たんだ。」
まだ赤ん坊のセシルを抱いて、急にジルダの記憶がよみがえった祖母は、そのままモルベール領に転移した。
そこで、精霊王と再会を果たした。
「精霊王の寿命が近づいていた。だけど、再会したあの人は、私を見るなり、自分がまだ見送る立場だと悟って悲しんだ。」
精霊王の寿命は残り50年ほどになっていた。それでもなお、残り15年ほどしか生きられないジルダの方が早く死んでしまう。
絶望する精霊王に、ジルダはある提案をした。
「私は、お前を育てたかったからね。魂を縛る、特別な守り人の契約をする代わりに、私の人生をちゃんと全うさせてほしいと頼んだのさ。」
「魂を縛る?」
「ああ。肉体が死んだら、魂は精霊王の僕として仕え続ける、という契約さ。」
それならば、ジルダは最後まで精霊王と寄り添っていられる。
そして、彼が死ぬとき、共に逝ける。
「お前と生活していたときは、契約後だったからね。ジルダと名乗っていた。じいさんには悪いことをしたが、もうきっと次の生を生きているはずだからね。許してもらおう。」
ジルダの顔は、そのいろいろな葛藤を乗り越えたのであろう、吹っ切れたものだった。
「最初のジルダは、なぜその契約をしなかったの?」
「最初、私はただの捧げ物でしかなく、最初の『守り人』だった。契約は変更できない。私と守り人の契約をした時の精霊王は、自分がそこまで私に夢中になるなんて、思っていなかったんだ。」
ジルダはそう言うとウィンクした。
「ああ、ほら、彼じゃないかい?」
ジルダの見つめる先、大きな白い獅子と、その獅子よりかなり小さな獅子がいて、そこに目指す人物は、いた。
「ルイス!」
フィンネルを地面に降ろし、駆け寄ると、ルイスも駆け寄り、セシルを抱き締めて、それから・・。
その場に、崩れ落ちた。




