第44話
「今日の予定だが。」
そろって朝食をとりながら、ジャンニが切り出した。
「私は執務室から離れられないのでね。侍女のセイラと、侍従のアランに案内させる。」
朝食後に挨拶に来たのは、昨夜から、何度も会っている侍女と、昨日屋敷に案内してくれた番人役の男性だった。
「彼らは森にも詳しいし、訓練もうけている。頼りになるはずだ。」
「ほんとにいらないよ?獣を確かめるだけなんだし。・・それとも他に目的があるのかな?」
ルイスは口元だけ笑いながら冷たく返す。
「あるわけがないだろう?邪推だ。」
ジャンニも口元だけの笑みで返した。
行くのは午後からになり、出発までにセイラからモルベール家とモルベール領の歴史と、聖獣、守り人に関する話を聞く。
「最初の守り人は、当時のモルベール家当主の娘にして、次期領主の姉でいらしたジルダ様です。」
互いの利害が一致して交わされた守り人の契約。
精霊の王は人の姿をとれたため、二人の間には子どもが生まれた。
「お子さま達はモルベール家でお育てし、あるかたは領地に住み、あるかたは森を守り、あるかたは領地を出て新天地を目指し・・そうして散らばって行きました。」
彼らは守り人契約を結び、子孫にも結ばせると約束した。
「でも、今はあまり聞かないって・・。」
セシルは問う。
「守り人は契約です。詳しくは存じませんが、おそらく精霊の力を借りる対価が何かあったのではないかと。それに、血を繋いでいくということができなかった方もいたでしょう。その辺りは分からないのです。」
セシル自身は守り人ではない。それも疑問だった。
それからセイラはモルベール領について、いろいろ話した。
昨日マーサから聞いた話とそんなに違わなかったが、セイラの方が情報が細かく、分かりやすかった。
「すごく詳しいんですね。」
とセシルが驚くと、
「ジャンニ様のお役に立ちたくて、頑張って勉強しました。」
と微笑む。その余りの柔らかさにセシルが見とれていると、セイラは少し慌てたように、
「そんなことはともかく!そういった経緯で、森での見極めがすごく大切なこと、分かっていただけたらありがたいのです。」
と口早に言った。
「どうでもいいから、さっさと行こう。」
「大丈夫です。分かりました!」
ルイスが相変わらずの不機嫌さで呟くように言うのに合わせて、セシルは力強く頷いた。
そして。
「では、入りましょう。」
森までの道は昨日と同じ。しかし、セイラとアランの漂わせる緊張感に、セシルは気持ちを引き締める。
その後ろでルイスは、なぜか、険しい顔をしていた。




