第43話
「セイラ。二人の様子は?」
深夜の執務室。ジャンニと、セイラと呼ばれた侍女が向き合う。
「セシル様は、部屋を気に入られたようでした。ルイス様は、こちらの意図にお気づきのようでした。」
ジャンニは「そうか、」と呟き、セイラを見た。
その瞳は領主に似合わない、迷いを含んだものだ。
「どうされましたか?」
セイラは尋ねる。
「・・私がしようとしていることは、人として間違っている。嫌な役回りをさせてしまってすまない。」
セイラは、顔を歪めないように必死で微笑む。
「モルベール領のために。モルベール家のために。必要だと理解しています。謝罪は不要。」
そして、続ける。
「セシル様は、昼に勝手な外出をなさったことを、私達使用人に謝られました。初めてのことで皆驚いていましたが、セシル様を好ましく思った者ばかりです。これまで接したご令嬢と明らかに違いますもの。」
「・・私に見る目がなくてすまないな。」
苦笑するジャンニ。
「いいえ?ジャンニ様に近づく女が身の程知らずの釣り合わない女ばかりだっただけですわ。」
ふっと冷たい声になるセイラに、ジャンニはまた苦笑する。
「要は、私達は、セシル様を歓迎する、ということです。ジャンニ様がどんな手段をとろうとも、目的を達するまでご協力いたします。」
セイラの『歓迎』は、数日の宿泊のことではない。
「まずは、彼女が守り人の血を引くことを確かめなければな。全てはそこからだ。」
ジャンニは、そう言うと、静かに目を閉じた。
翌日。
「・・が・・わ・・!」
「も・・・・い・・・・!」
部屋の前で言い争うような声がして、セシルはドアに近づいた。
声はルイスと昨夜の侍女のようだ。
「だから、寝顔が見れるレアなチャンスだっていうのに、野暮なことしないでくれるかな?!」
「セシル様は慣れない長旅でお疲れのはずです。寝かせて差し上げてください!」
中のセシルを気遣ってだろう、声は控えめだが、何で争っているかは明白。
セシルはいたたまれなくなってドアを開ける。
(ああ、予想通りの反応・・。)
二人とも驚いてフリーズからの、あからさまにがっかりしたルイスと気まずい顔の侍女。
「おはようございます。」
とりあえずにっこり笑って挨拶し、ちょっと申し訳ない気持ちになる。
セシルの朝は早い。
彼らが来るよりかなり前に既に目覚め、身だしなみも完璧に整えて、暇をもて余していたのだ。
「・・朝食の準備をして参ります。」
侍女はそう言うと退散した。
「部屋、入りますか?」
セシルが言い、ルイスは中に入る。
「素敵なお部屋なんです。ジャンニ様にお礼を言わなければ。」
「・・この部屋がどういう部屋か分かってる?」
ルイスは部屋のスタンドライトを確かめながら言った。
え?と首をかしげるセシル。
「女性用の客間、ではないのですか?」
ルイスは深くため息をついた。
「ただの客間なら、男女どちらも行ける調度品にする。この部屋は明らかに・・モルベール家にとって重要な『女性』を泊めるための部屋だ。」
そして、セシルをスタンドライトのそばに手招きする。
「見てごらん?」
そのランプシェードには、『ジルダ』の刻印がなされていた。




