第42話
「あの・・守り人、について、何かご存知ないですか?」
話が途切れたのを見て、恐る恐るセシルは聞く。
意外なことに、ジャンニはセシルが守り人の血を引くことを知らなかった。
「あなたが、守り人の血を引いている?親族が守り人なのですか?」
「ジルダおばあちゃんが・・祖母が、守り人だったんです。」
その瞬間、ジャンニの目が大きく見開かれた。
彼の唇が、『ジルダ』と動くのだが、声はかすれていて、聞き取れなかった。
「どうしたんだい?ジャンニ。」
あまりの反応に、ルイスも戸惑ったように声をかける。
「取り乱してすまない。」
ジャンニは一呼吸置いてから言った。
「『ジルダ』は、かつて、我がモルベール家から、精霊の王に捧げられた女性の名なのだ。」
セシルは、マーサから聞いた話を思い出す。
「驚きました。でも、『ジルダ』自体はすごく珍しい名前というわけではないですし、偶然では?」
そう尋ねるセシルに、ジャンニは驚く事実を告げた。
「守り人になれるのは、精霊王の妻になったジルダの血を受け継ぐ者達です。つまり、セシルさんの祖母のジルダさんは、モルベール家の血を引く女性だということ。モルベール家において、『ジルダ』は、偶然につけることはあり得ない名前なのです。」
祖母の名は、確かにジルダなのか、と聞かれるも、セシルは頷くしかない。
「ちょっと待って。」
そこで、ルイスがあることに気づいた。
「じゃあ、セシルも、モルベール家の血筋ってこと?」
「ああ、そうなるな。」
ジャンニは頭の中で、目まぐるしく何かを考えているようだった。
「・・長い話になってしまった。夕食を食べよう。」
外が暗くなっているのに気がついたジャンニの提案で、食事が用意され、夕食を食べることになった。
用意してくれたモルベール家の使用人たちに、セシルが昼の謝罪をすると、彼らは一瞬驚いた顔をしたが、優しい微笑みで応じてくれた。
手間をきちんとかけて素材の味を引き出した料理の数々は、マーサのレストランとはまた違う魅力で、おいしくいただく。
一方で、いまいちモルベール家の血筋であると言われても現実味のないセシルに対して、難しい顔で何かを考えているルイスとジャンニ。
ルイスの深刻そうな顔は、セシルを不安にさせる。
「もう今夜は遅い。ゆっくり休んでくれ。・・ああそうだ。セシルさんの部屋も準備できたので、申し訳ないが部屋を移動してください。荷物は動かしてあります。」
ジャンニから何やら恭しい態度で接しられて不思議な気持ちになりながら、セシルは年配の侍女とおぼしき女性に連れられて新しい部屋に案内された。
「こちらでございます。」
「わあ!」
思わず声をあげたのは、調度品がとても可愛らしく、好みだったからだ。
最初に案内された部屋も、洗練されていて美しかったが、それよりも新しい部屋のほうが好きだった。
「なんか、セシルを口説かれてる気分だよ。なんで部屋をわざわざ分けることにしたんだか。」
ついてきていたルイスが、不機嫌さを隠そうともせずにそう言うが、セシルはいまいち何が言いたいか分からず、首をかしげる。
「こちらはセシル様のために用意した部屋でございます。男子禁制でお願いいたします。」
口調こそ丁寧なものの、有無を言わさない侍女の言葉で、ルイスは退散せざるを得なくなった。
「朝ごはんの支度ができましたらお呼びいたします。ごゆっくりおくつろぎください。」
侍女は、セシルに柔らかい笑みを向けてから、セシルの部屋の扉を閉めた。
「ルイス様。お部屋にご案内いたします。」
続いて侍女はルイスを先導しようとした。
「ねえ。セシルの部屋を準備するように命じられたのは、夕食の時?」
ルイスの問いに沈黙で答える侍女。何かあると言っているようなものだ。
(嫌な予感がするな・・。)
セシルが守り人の血を引くと知ってから、ジャンニの言動が明らかに変化している。
セシルは気づいていないようだが、これは・・。
ルイスはその夜、ずいぶん久しぶりになかなか寝付くことができなかった。




