第40話
「ああ、聖獣、のことだね・・。」
出迎えてくれた女性はマーサといって、レストランの女主人だった。
「聖獣?」
モルベール領の獣について聞いてみたら、思いの外すんなり情報があった。
「数ヶ月前から、何人かね、森で見た者がいるんだよ。その姿が、このあたりに伝わる聖獣とよく似ているんだ。」
「・・詳しく聞いてもいいですか?」
THE家庭料理といった感じのワンプレートランチを美味しくいただきながら、セシルとルイスは、マーサの話を聞くことになった。
モルベール領は昔から神性がつよく、精霊の力もつよい地域だった。
人間達が住まうことになったとき、最初は余所者を寄せ付けない精霊たちによって、追い払われていたが、その時は戦乱の世で、人間達に行き場はなく、彼らはやがて一部の人間達を受け入れ始める。
その一部というのが、モルベール家の祖先で、受け入れの代わりにモルベール家は精霊の王に、愛娘を差し出した。
たいそう美しい娘だったらしい。
その娘の橋渡しもあり、やがて徐々に、精霊たちと人間達は共にこの地で暮らしていくようになった。
魔法が使えなかったモルベール家は、精霊の力を借りる生活魔法を編み出した。
人間が精霊を信じ、力を借りることで、精霊たちは実体化できるようになったり、力を強くできるようになったりし、お互いに利のある付き合いが可能になったのだ。
「精霊の王は、人の姿と、銀色の獅子の姿をとることができてね、獅子の姿は聖獣と呼ばれたのさ。」
「・・ということは、もし、森でみつかった獣がその聖獣だったら、それは精霊の王だということですか?」
セシルが尋ねる。
「そう信じているものもいるってことだ。そんな伝説みたいな話があるのかねえ。」
マーサさんは話しながら、あまりそれが事実とは信じていないようだった。
「ちなみに、守り人って、知ってる?」
今度はルイスが聞く。
「ああ、それも昔はいたようだねえ。なんでも、誰でもなれるわけでもないらしくて、今はこの国では聞かなくなっちまった。」
守り人の方が情報は少なそうだ。
とにかく森に行ってみようということで、二人はレストランを後にした。
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セシルのいた森は、静かで澄んだ場所に違いなかったが、それでもモルベール領の森と比べると格の違いを認めざるをえなかった。
空気が澄みわたり、だが不思議と重みを感じる。
木々は力強く、そこにあるだけで圧倒される。
入るのに、誰にかは分からないが許可を得ないといけないような、挨拶しなければならないような、そんな場所。
(そんな風に思うのは私だけなのかしら?)
そう思ってルイスを見ると、彼も服の襟を正しており、似たようなことを考えていると分かる。
森に一歩足を踏み入れたとき。
「みつけた!!ルイス様!セシル様!」
後ろから名前を呼ばれて振り返ると、朝案内してくれた番人が走ってくる所だった。
「なんだい?」
ちょっと不機嫌そうなルイス。
「あー、領主様が一旦引き上げて戻っていただくようにとのことです。」
「なんで?」
「いや、でも・・領主様、ちょっと怒ってらっしゃったので、お願いなので戻ってください!」
必死な顔。
なんとなくヴィンスとかぶる。
「ジャンニの機嫌とかどうでもいいけど。」
「ルイス、帰りましょう。」
セシルがルイスの肩に手をおき、諭す。
(そういえば、私たち、何も言わずに出てきちゃったんじゃ。)
それなら、悪いのは自分達だ。
「えー?」
不満そうながら、セシルに促されてルイスが森に背を向けた時。
(あら?)
セシルは目のはしに何かをとらえて振り返った。
「セシル?どうかした?」
「女の人がいました。」
「え?」
ルイスは目を凝らすがもう誰も見えない。
「町の人かな?」
「そうかもしれません。」
答えながらセシルは不思議な気持ちだった。
(なんだか、体が光っていたような・・。)
「お急ぎくださいー!」
セシルの思考は、その声で一旦途切れた。




