第39話
「・・まさか、領主様の屋敷に泊まることになるなんて。」
思いがけない展開に、セシルは戸惑いを隠せない。
アリシア姫が手配したのだから、あり得る話ではあるが、それでもちょっといい宿、くらいだろうと思っていたのだ。
「・・ここの領主、苦手なんだよね。真面目だし、暗いし。」
ルイスがため息をつく。
モルベール領に入る手前の広い川辺で、ジストは降り立ち、ルイスの魔法で二人は荷物と共にふわりと着地した。
関所でルイスが名乗ると、門番をしていた男性がそのまま案内してくれたのが、領主の家だったのだ。
道中、現領主が、ジャンニ・モルベールという名前であること、まだ若く、ルイスと同じ年齢らしいことを簡単に聞いたが、どうやらルイスはジャンニと知り合いらしかった。
「まあ、学園の同級生だったからね。」
というルイスは、いつもとは違い、多くを語らない。
(どんな方なのかな。)
セシルは緊張しながら、荷物を預け、挨拶のために領主の部屋を訪れた。
こん、こん。
ルイスが部屋をノックすると、「どうぞ。」というバリトンの声。
部屋に入ってジャンニを見たセシルの正直な感想は、
(美形だわ・・)
の一言に尽きる。
ジャンニ・モルベールは、眼鏡をかけた短髪の美形で、ルイスと印象は正反対。そのせいかルイスよりも大人びて見える。
「久しぶりだな、ルイス。今回は長旅をさせての依頼、受けてもらって感謝している。・・そちらのお嬢さんが?」
「・・教えたくない。」
「セシルです!私まで泊まらせていただいてすみません。お世話になりますが、よろしくお願いいたします。」
なぜかふてくされるルイスに、慌ててセシルは挨拶する。
ジャンニはふっと笑った。
「アリシア姫が言ったことは事実のようだ。ルイスの大切な女性だと聞いている。ゆっくり寛いでほしい。」
(美形の笑顔は破壊力があるわ・・。)
お辞儀をしながら、セシルは思わず見いってしまった。
部屋に案内され、主張の強すぎない品のよい調度品に目を奪われるセシルの横で、ルイスは相変わらずむくれている。
「ルイス?なんでそんなに不機嫌なんですか?」
ちょっと責任を感じて話しかけるが、ルイスはむくれ顔のまま、
「アリシア姫、絶対わざとだ。面白がってるのが分かる・・。」
と一人ぶつぶつ言っている。
(もう!)
と思いつつ、セシルはどうしても気になっていることがある。
(なぜ二人とも同じ部屋に案内されてるの?)
これは、つまり、そういうことだろうか?
いつもなら、こういうシチュエーションはルイスの方が勝手に盛り上がってはしゃぐのだが、今日は少し違うようだ。
「ルイス。部屋のことなんですけど・・。」
「セシルもセシルだよ!ジャンニに見とれてた!学園時代から対して気のきいたことも言わないのに、何故かモテるんだ。僕、あいつ、キライ。」
子どもみたいに拗ねるルイスを見て、今は何を言っても無駄だな、と思う。ただ、ルイスの不機嫌はかなり自分の責任だと感じて、セシルはたしなめる。
「ルイス、連れてきてくれてありがとうございます。ジャンニさんは今までいないタイプだったのでつい観察してしまいましたが、それだけですよ?」
これは本心だ。だって、ジャンニに会いたいとか、そんなことは思わない。それより、ルイスといたいと素直に思う。
「本当に?」
ルイスは、セシルの肩にそっと頭をのせながら聞く。
セシルは、もちろん、と頷いた。
「一緒に調査、行きましょう?それから、私の『守り人』に関する情報あつめ、付き合ってくれますか?」
今度はルイスが、もちろん、と頷く。
「本来の目的を忘れちゃだめだね。せっかく来たんだし、ちゃんと町や森を見て回ろう。」
調査を指したセシルの『ちゃんと』と、観光優先の ルイスの『ちゃんと』に差があることをなんとなく感じつつ、機嫌の直ったルイスと共に、ひとまず出かけることになった。
まずは、獣の情報を求めて・・というよりは、カラフルな町並みに誘われて、二人は町を歩くことになった。
モルベール領は、これと言って有名な特産物や娯楽があるわけでもなく、もともとは影の薄い人のよりつかない地だったそうだ。
せめてもう少し人が立ち寄らなければ、町を発展させる道が開けないと、考え付いたのがこのおとぎ話のような外観。
もともと精霊との強い結び付きで知られるこの場所とマッチして、町を一目見たいと訪れる者が増えた。
王都と比べればもちろん、活気は控えめだが、レストランやバーもあり、人々が集っている。
「・・食事にしようか?」
町並みを楽しんでしばらく歩いたあと、ルイスの提案でレストランに入る。
看板にはレストランとあったが、どちらかというと定食屋、に近い雰囲気の店である。
「いらっしゃい。あら、ここらじゃ見ない顔だね。旅行かい?」
店にはまだ人は少なく、出迎えた体格の良い女性が親しみやすい笑顔で出迎えてくれた。




