第35話
「緊急招集!」
バートン家の広間に使用人達が集められた。
「今から話すことは、拍子抜けすることかもしれない。だが、先のことを考えれば、ここはバートン家の重大局面!」
グランの声は緊張感を帯びている。
ゴクリ、と喉を鳴らす音。
「ルイスの番の、誕生日が来週末に迫っている。ちなみに、ルイスはこんなに毎日番であるセシル嬢のもとに通い、アプローチしているのに、いまいち進展していないそうだ。」
「いや、一回キスを・・。」
「女性からしてもらう、不意打ちの軽いキスを信じるな!」
(グランもいろいろあったのかな。)
ルイスは一人納得してここは引き下がる。
「ここは!バートン家は一丸となってプレゼントを考え、セシル嬢と進展させなければ・・ルイスは・・ルイスは・・完全に嫁き遅れてしまう!!」
「・・いや、僕まだ19だよ?」
「来月には20歳だ!俺も弟のレオンも、十代で結婚したというのに、お前ときたらのらりくらりと・・!」
この世界の婚姻は早めだが、決して二十代が遅いなどということはない。それでもグランが、この三男坊を本気で心配しているのは確かだった。
「・・ということで、知恵を貸してくれ。女性との仲を進展させる、心を掴むプレゼントだ!!」
「はい!」
グランによって、一つになるバートン家一同。
「あら?でもグラン。」
そう、気がついたのは長男の妻フィネルである。
「私たち、セシルさんを知らないわ。ねえ、ルイス。セシルさんて、どんな方なの?」
「奥様!いけません!」
執事のアモイが思わず止めたが、もう遅い。
この二時間後、フィネルは、なぜ使用人がそれを聞かなかったのか、それがいかに駄目な質問だったかを悟る。
いや、正確には二時間もたつまえ、セシルの得意料理のくだりで気がついていたのだが、ルイスを止めることなど不可能だった。
「それから・・ああ、まだまだ語り足りません!夜も更けてきたし今日はこれくらいにしましょう。続きはまた明日!」
自分からピリオドを打ったルイスがさっさと自室に帰ったあと、ぐったりと崩れ落ちたフィネルは皆に謝罪する。
「こんなに一方的に話を聞く羽目になるなんて、ごめんなさい。みなさん。」
「奥様!大丈夫です!皆やらかしてますから。」
若い侍女が慰める。
バートン家の使用人は、既に数名同じ質問をしてげっそりした経験がある。
そのため、彼らの中で、『セシルさんってどんな人?』は、聞いてはいけない禁断の質問なのだ。
「たた、分かったことはあるわ。」
ただでは起きないフィネルは顔をあげる。
「ルイス君、溺愛してるわりに、セシルさんの趣味や嗜好といった大事なところは全く知らないわね。」
それでは心を掴むプレゼントなど考えられるわけがない。
「これは大変ね。」
頷くバートン家一同。
一方、久しぶりにセシル愛を存分に語ったルイスは、
「よーし。なんとかなりそうな気がしてきた!」
と、いつもの元気を完全に取り戻していたのだった。
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「ほう、セシルが、誕生日とな?」
翌日の王宮では、何故かルイスがふくれた顔で、アリシア姫に報告していた。
「しかし、そなたも悪い男よのう。元・恋人に今の女の相談とは。」
「いつ恋人だったんだよ? いや、僕はアリシア姫には相談しなかったよね? いきなり呼び出して、しつこく聞き続けたのはアリシア姫だよね?」
ルイスはヴィンスにアドバイスを求めたのだ。そこから何やら話が広がり、アリシア姫からの呼び出しを受け、今に至る。
「わらわも、そなたらを応援しておるのじゃ。よいよい。わらわも協力してやろう。」
「いや、失敗できないから!アリシア姫がからむとややこしいこと多いから!」
ルイスもそれなりに学んでいる。
「まあ、そう言うな。そんな面白そうなこと、一枚噛まなければ損じゃろう?」
「面白がってるよね? 僕、めちゃくちゃ真剣なんだけど?」
焦るルイスを見て、笑みを深めるアリシア姫。
(ああ、何言っても駄目なパターン・・。)
「帰ってよいぞ。また思い付いたら呼ぶ。」
結局、説得もむなしく、アリシア姫は意味深な笑みを浮かべて、ルイスを退室させたのだった。




