第34話
「うう・・ん。」
ルイスは悩んでいた。
ロベルト事件から1ヶ月。王宮内は大幅な人事異動が行われ、アリシア姫いわく、「風通しが良くなった」そうだ。
王宮内を牛耳っていたカルドフをはじめとする、負のオーラが大分消え、活気が出てきた王宮だが、彼らはその中枢に魔王がいることはもちろん知らない。
アクタスは器用に見た目を変え、可愛さを絶妙に保ったまま、少しずつ身長を伸ばしている。
そして、ルイスは、というと。
相変わらずなかなか前進しないセシルとの関係に甘んじながら、ある難題にぶち当たっていた。
「誕生日?」
「うん。聞いてなかったなあ、と思って。ちなみに、僕は来月なんだ。」
日常の会話。
もともとは、ルイスがおねだりを思い付いて話し始めた話題だったのだが、事態は思わぬ展開になった。
「ああ、そういえば、来週末、でした。」
「え?本当に?」
はい、と頷いたセシルに、ルイスはおねだり計画も忘れてサーっと青ざめる。
「ルイス?どうかしましたか?」
心配そうに尋ねるセシルに、ルイスはかろうじて笑顔を見せ、
「へえ。そうなんだー。あ、今日は用事があるんだったー!帰るね。」
と言い、いつもより早めにセシルの家をでる。
出てから、結界を抜け、テレポートで自宅へ。
ついてすぐ、ルイスは頭を抱えた。
「タイミング!タイミングだよ!なんでもっと早く聞いておかなかった、僕!!」
来週末。
時間がない。
「プレゼント、考えないと!!」
ルイスは頭をフル回転させ始めた。
バートン家は実は伯爵家である。
ルイスはそこの三男坊のため、貴族のしがらみからは遠めだが、兄たちがそれぞれ所帯を持ち、長男は家をついで伯爵姓を名乗る家長であり、次男は商会を立ち上げて、手広く商売をしている。
両親は、早くに事故で亡くなった。
長男には、「番をみつけた」と報告してある。
毎晩通っているのも知っているし、応援してくれてはいる。
そもそも、『勇者』を家から出すのは大きな誉れ。
長男はそれを分かりつつ、一族で一番濃く、古に祖先と結ばれたという竜の血をひき、王宮に勤めながら、若干常識はずれでちゃらんぽらん、なのに急に猪突猛進型になるルイスを、かなり心配していた。
「ああ。どうしよう!? うう・・ん。」
普段から飄々とした態度の多いルイスが半泣きで頭をかかえるのを見かねて、
「グラン様。ルイス様が悩んでおられます。」
執事のアモンが報告する。
「ルイスが・・悩んでいる!?」
長男グランの反応は、心配、ではなく驚愕、だった。
なにせ、ルイスときたら、勉強もサボりがちで不真面目なのに、何故か必要な知識は身に付けているし(耳にしたことは忘れないタイプ)、魔法は短い詠唱で自由自在(小さい時からそこは完璧)、剣もあっという間に強くなり(棒切れを振り回しているときからめちゃくちゃ強かった)、しかも気がついたら聖剣に選ばれて勇者になっていた、という超人である。
なのに、何にも執着せず、アリシア姫からの猛烈アプローチの真っ只中、「番をみつけた!」と興奮して帰ってきたかと思えば、毎晩その娘のもとにウキウキと出掛けていく。
なんだか、魔王討伐やら、クーデターの未然防止やら、功績を立てたようだが、グランはそれらを屋敷に帰宅したルイスからではなく、翌日の新聞で知る始末である。
悪いやつではないが、自由に好きなように生きていて、何かと腹は立つ男。兄ながら、グランのルイス評はそんな感じだ。
番のセシル嬢のことで、思い詰めているところは見たが、それすら「よし!頑張るぞ!」と気合いをいれている感じだったし、
(頭を抱えるなんて、よっぽどの難題だぞ?)
魔王より、クーデターより厄介な案件に違いない。兄として、話を聞くべきか、頭の中の警告に従って知らぬふりをするべきか。
だが、執事の報告を受けたからには、何かしら行動しなければならない。
グランは家長として覚悟を決め、ルイスに事情を聞くことにした。




