第30話
「セシルっ!傷!!」
ルイスがセシルの頬に触れ、それだけでセシルの傷が跡形もなく消える。
「ヒール!」
続いて詠唱の声がすると、部屋全体が光り、その場にいる全員の傷が治癒していく。
(聖魔力がただ漏れているわ・・。)
常識では考えられないすごいことなのだが、セシルはこんな時なのに、呆れてしまう。
「どうやら、セシルに狼藉をはたらいた者がいるようだな。」
アクタスの声と共に、場の空気が重くなり、ルイスの聖魔法で復活したヴィンスとカルドフ、そして放心状態のロベルトが、強制的に膝をつかされた。
まとう空気でアクタスと分かるものの、その姿は成人男性のもので、おそらくはルイスと対峙した時と同じ。
その証拠に、ヴィンスとロベルトは彼を見て驚きの表情を浮かべている。
「セシル、何があったのかな?」
ルイスがにっこりと笑って聞く。
(ルイスって、怒りが大きくなると笑うのね・・。)
そんなことを考えつつ、どう答えるべきか迷うと、
「そう。じゃあ、まずはヴィンスかな。」
そう言ったルイスは指をくいっと動かして、ヴィンスの体を宙に浮かせた。
体が浮き上がったヴィンスは、首の辺りを押さえて苦悶の表情を浮かべる。
(息、できてない?)
セシルはあわてて止めにはいる。
「ルイス!だめです!ヴィンスさんは何も悪いことしてません!!」
「セシルを守ってない時点で、死刑だけど?」
冷ややかな声のルイス。
セシルは初めてルイスの怖さを垣間見た気がした。
「ヴィンスさんは、突然切りつけられて、動けなかったんです。」
「・・へえ。」
ルイスの呟きと共に、ヴィンスは床に落ち、急に戻ってきた空気の感覚に、必死に呼吸を取り戻した。
「ならば、はっきりしておる。・・どうしてくれるか。」
アクタスが、重力を弱め、その代わりにカルドフとロベルトを壁に磔にした。
二人は声も出せない状態になっている。
「気に食わぬ二人だ。中途半端に闇の力を手に入れ、しょうもない欲を満たすためにそれを振るう。魔物より遥かに下等だ。」
吐き捨てるように言う。
「セシル?君を傷つけたのは誰?」
ルイスの言葉に、セシルは答えられない。
言ってしまえばヴィンスより容赦なく、ルイスは命を奪おうとするだろう。
強い恐怖を与えられながらも、セシルはそうすることにためらいがあった。
(ロベルトさんは、ヴィンスさんを苦しめたくない、と言った。)
アクタスも中途半端という言葉を使った。
まだ戻ってこれるならば。
ロベルトの闇に対して、ルイスとセシルには責任がある気がする。
「セシルを傷つけた代償は大きい。苦しんでもらうよ。・・水。」
はりつけの二人の頭部に、ぴちゃり、という音がして、二人がごぼっと空気を吐いた。
顔周りに出現した水のかたまりが呼吸を止めている。
はりつけの手足はアクタスによって縫い止められ、抵抗もできずにいやいやと首を降る二人。カルドフの目には涙がにじみ、ロベルトの目は恐怖に見開かれる。
「ルイス様!だめです!二人が死んでしまう!!・・セシルさん!ルイス様を止めてください!」
ヴィンスの悲痛な叫び。
「ルイス!やめて!私は大丈夫だから!」
セシルも叫ぶが、ルイスに届いている様子はない。
「セシル。庇う価値のある二人ではない。闇に落ちる勇者というのも、我が輩は悪くないと思うが?」
アクタスは冷たい目でルイスを見守る。
(だめ!止めないと!ルイスがルイスでなくなってしまう!)
セシルは必死に考える。
今の状況が最善であっていいはずがない。
二人を裁くのはルイスではない。
セシルが、セシルの血が求めたのは・・!
そこまで考えた時、ふっとセシルは気がついた。
なぜ、セシルにとっての最善が、ルイスだったのか。
たぶん、ずっと前から、それは心の中にあったのだ。
セシルは呼び掛けるのをやめて、静かにルイスに、近づいた。
30話まで来ました!
だいたい10話で小さな話を一区切りしていたのですが、ロベルト編は少し長丁場。
その分セシルとルイスがちょっと進展して書きたかったイチャイチャ感が出せたらいいなと思っています。
読んで下さっているかた、ありがとうございます!
一つ目の目標の総合200を越えられて、もう一頑張りの力をいただき、前進中です!
引き続き応援よろしくお願いいたします!




