第29話
「さて。どうすれば一番ルイス様は怒るでしょうか?」
ロベルトの言葉で、セシルはぞわり、という悪寒とともに、彼の目的を察する。
カルドフが「目的が違う」と言っていた意味も。
「まあ、一番は、あなたの純潔を奪うことでしょうか。・・ああ、死んでも嫌なのでご心配なく。でも、そうですね。あなたに傷つき苦しんでいただかないと駄目なのは確かだ。」
ギリギリ、と手首に靄が食い込み、セシルは痛みに顔をしかめる。
「僕は、ルイス様が怒りのままに力を振るうところが見たいんですよ。圧倒的な力でねじ伏せるところが。平和な日常はつまらない。」
「・・っ、そのために、自分が悪役になるというのですか?・・そんな、めちゃくちゃなっ!」
声を絞り出すセシルに、ロベルトは笑う。
「何のために、カルドフさんがいるんです?ルイス様が力を振るうのは、カルドフさんたち、つまり、反王政派の貴族たちですよ。」
僕はルイス様に従って彼らを粛清するんです、とうっとり続けるロベルトに、セシルは混乱する。
「この、状況で、そんな道理が通るはずないだろ!!・・え?」
叫んだあとで、ヴィンスは何かに気づく。
「お前、まさか・・。」
「さすがですね。悪いですが、ヴィンスは口を封じさせてもらいます。私たちは、セシルさんを守りきれず、カルドフさんの陰謀でやられてしまうのです。セシルさんもショックで証言できず、私はカルドフさんを告発する。・・ああ、怒りに支配されたルイス様は、カルドフさんたちにどんな裁きを下すでしょう?」
(やばい。ロベルトさん、こんな人だったなんて・・。)
セシルは必死で考える。
このまま行けば、ロベルトの計画は遂行される。
めちゃくちゃな計画に見えて、彼の闇魔法とルイスの単純さを考えると、全ては実現可能な気がしてくる。
(そうだ!アクタスさん!)
セシルは胸元の黒い石に必死で念じてみるが、何も変化はない。
(どうやって来てもらうのか、ちゃんと聞いておくんだったわ。)
後悔していると、ふいに拘束が解かれ、セシルは床に落ちた。
「・・っ!」
足を打ち付け悶絶する。
「セシルさんっ!」
ヴィンスの声。
ロベルトが言う。
「まだ人の心配するなんて、お人好しですね、ヴィンス。」
そして、すらりと短剣を抜いた。
「闇の魔力は苦しみを与えてしまうんです。あなたにはそれは使いたくない。・・大丈夫。あなたほどではないが、私も剣は扱えます。苦しまないようにいかせてあげますから。」
「お前っ!」
ヴィンスが動こうとするが、とてもではないが太刀打ちできない。
「だめです!」
セシルが這うようにしてヴィンスの側に行き庇おうとした。
だが、ロベルトには、カルドフのようなためらいはない。
「邪魔です。」
淡々とそう言うと、ロベルトはセシルを払い飛ばした。
、、、、、、、、、、
闇の魔力をまとった、短剣を持った方の手で。
刃の先が頬を掠め、肌が切れる感触がある。そのままとばされたセシルは壁に体を打ち付けた。
裂けた皮膚から血が飛び散る。
痛みに気が遠くなりそうなとき、頭の中に祖母の声が響いた。
『セシル。お前の血には最善を呼び込むまじないがかかっているからね。』
(最善・・私にとって最善は・・!)
その場が光に満ちたのと、頬を伝う血が黒い石に届いたのが同時。
「「セシル??」」
そこには、魔王アクタスと、勇者ルイスの姿があった。




