第23話
「元気そうだの、セシル。」
通された部屋では、アリシア姫と5人の侍女が待ち構えていた。
「さあ、ルイスは部屋から出るのじゃ。ここからは女の時間じゃ。」
アリシア姫の言葉で、侍女たちにルイスが追い出され、いつかの時間が再来した。
「え?また?」
「やっぱり!グリーンもお似合いですわ。」
「背中のラインがきれいですわね。」
「うなじを見せましょう!」
「ならば、リップは濃いめに!」
「イヤリングは大ぶりのをお付けいたしますわ。」
戸惑うセシルにはお構い無し。今日は肩と背中が大きくあいた、グリーンのドレスを着せられ、髪を結われてアップにされる。
メイクも手際よく施されて、ご令嬢の出来上がり。
さすがの早業である。
「そなたをここに連れてこさせるには、ルイスの説得がいるからの。ドレスアップは、やつへの賄賂じゃ。」
得意気なアリシア姫に連れられて、テラスに行くと、お茶会の準備がされていて、アクタスとルイスが席に着いている。
(勇者と魔王のお茶会・・なかなかシュールな光景よね?)
と内心苦笑いしながらセシルも席に着いた。
「セシル可愛い・・」
「じゃろう?なかなかの自信作じゃ。実は他にもな・・」
ルイスとアリシア姫が何やら話し始めたので、セシルはこっそりアクタスに話しかける。
「アクタスさん、お元気・・そうですね。」
お元気ですか、と疑問形にしなかったのは、聞くまでもなくアクタスがつやつやしていたからである。
「うむ。予想以上に王宮は、闇に満ちておる。魔力の戻りも早い。」
アクタスは、満足そうに言った。
(ああ、なんか、未来が明るくない・・。)
曖昧な笑みを浮かべながら出された紅茶をのみ、お菓子に手を伸ばしたとき。
「失礼いたします。」
年齢は四十前後といったところか。片眼鏡をかけた男性が入ってきた。
「なんじゃ、カルドフ。わらわは来客中じゃ。」
カルドフ、と呼ばれたその男はにこりと顔だけ笑い、ええ、と頷いた。
「こんな機会でもなければお会いできない方が来ていらっしゃると聞いて、たまらず来てしまいました。ほう、この方が。」
カルドフはセシルを値踏みするように見る。
「減るので見ないでもらえますか?用件は?」
ルイスがにこやかにカルドフの視界を遮った。
カルドフは笑顔のまま、二歩後ずさる。
「いえ、お顔が見たかっただけですから、もう結構。」
では、とテラスを去る後ろ姿を見送りつつ、
「あやつの闇は、不味い。」
とアクタスが呟いた。
「そうじゃ、ルイス。そなたに父上が会いたがっておった。ちょっとだけいこう。」
「え?今?」
「今じゃ!すぐじゃ、すぐ!セシル。しばしルイスを借りるぞ。」
アリシア姫が突然そう言い、ルイスを引っ張った。
ルイスはしぶしぶ立ち上がり、上着を脱ぐと、セシルの肩にかける。
「僕がいないところで肌をさらさないでね。もったいないから。」
「・・器の小さなやつ。」
アクタスの嫌味を受け流して涼しい顔をしつつも、ルイスはアリシア姫に引きずられていった。
「あ、そうでした。アクタスさん、私に何か用事がありましたか?」
はた、と気がついて、セシルは言った。確かもともと、それが目的だったはずだ。
「・・ああ。渡しておきたいものがあってな。」
とアクタスがごそごそして、取り出したのは、何やら黒い、石の欠片だった。




