第20話 魔王嫁入り編完結
翌日になった。
朝ごはんを丁寧に作り、アクタスと二人で食べる。
「なんだか、たった数日過ごしただけなのにすごく寂しいです。」
ポツリと言うセシル。
「そなたは本当に不思議な女だな。」
アクタスは苦笑いする。
「そなたといると、我が輩は自分が魔王であることを忘れそうになる。・・アリシア姫と出会っていなければ、本気で勇者と取り合っていたかもしれぬぞ。」
ん?となるセシルに、
(ルイスも苦労するな。)
とやはり同情してしまうアクタスである。
「王宮ともなれば、闇に染まった者や、もしかしたら闇の魔力をもつ者があるやもしれぬ。我が輩は意外と早く力を取り戻すかもしれぬからな。・・その時はまたこっそり会いにきてやろう。」
それは、人間にとっては良いことなのか、どうなのか。
闇の魔力の正体は、人間がもつ暗い感情。
スタートがどこからかはもはや分からない。
遥か昔、核となる石の周りに目には見えないそれらの感情から発せられた障気が集まり産まれた魔王、という存在。
魔物という、見た目も力も歪み、その代償に闇の魔力を手に入れた存在の拠り所。
アクタスは、6000年以上もその役割を担ってきた。
初めの頃は、衝動的に破壊活動その他いろいろなことをしてきた。
しかし、長い時間付き合ってくれば、闇の力にも慣れ、自我も芽生える。
人間は、美しいばかりではない。
闇の感情は誰もが紙一重で飲み込まれる可能性がある。
だが、その闇の感情もまた、愛情や尊敬といった光の差す感情と紙一重だったりする。
アクタスにアリシア姫への愛が芽生えたのも。
セシルといると、自然と何やら温かい感情が沸くのも。
闇とそういった感情が意外と近いから、なのだろう。
だからこそ、アクタスは警告をする。
「セシル。・・ロベルト、という男に気を付けろ。あやつは、近い将来、闇に染まるぞ。」
「・・ロベルトさんが?」
「ああ。今はまだ大丈夫だが。」
セシルは、二人が来たときにアクタスが「ほう・・」と驚いたように言っていたのを思い出す。
「やつ自身も気がついておらん。まあ、人間は皆、闇の感情を抱くときはある。大抵はそこから自力で逃れるか、心が弱くて飲み込まれるか・・。」
むしろ、そのどちらかならば、染まりきる前に救い出せる可能性がある。
「あの、ロベルトという男、闇の感情に気づいたら、自らそこに染まりに行くタイプだぞ。」
そして、おそらくロベルトに闇の感情を抱かせるきっかけを作るのは、セシルではない。
「ルイス、ですね。」
「勇者、だろうな。あやつほど、天然で男のプライドを破壊するやつもおらんからな。セシル、そなたは・・」
「アクト!待たせたの。会いたかったぞ!」
アクタスがなにか言おうとした時、ばーんとドアが開き、アリシア姫が入ってきた。話し込んでいて、馬車の音に気づかなかったのかと思いきや、わざわざちょっと遠くに馬車を停めて、そっと来たらしい。
「アクトの驚く顔が見たかったのじゃ。」
と得意気に笑うアリシア姫は、ルイスへの失恋からは完全復活しているように見える。
「では、行くことにする。世話になったな。」
アクタスは、律儀に朝食の食器を流し台に運んでからセシルに言った。
「はい。お幸せに。」
セシルも別れを告げる。
「・・そういえば、セシル。」
別れ際、アリシア姫が耳打ちしてきた。
「昨日はちゃんといただかれたのか?」
「・・私たちは、オトモダチ、です!!」
意味ありげに笑うアリシア姫に、全力で強調する。
「あの反応は、意外と脈ありかもしれんな。」
馬車に乗り込み、アクトを膝の上で抱き締めつつ、にやにやと笑うアリシアに、心の中でアクタスはひそかに賛同した。
魔王・アリシア姫がとりあえず落ち着きました。
次回よりロベルト編スタートです。
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