第19話
「・・つまり。」
アクタスが言う。
「我が輩は魔王だろう?魔王なのに、人間の子どもの姿をしているのは嫌なのだ。魔王たるもの見た目からそれらしく、かっこよくありたい。」
見た目に反してギャップを狙おう、という気はないようである。
「なるほど。」
セシルの相づちに、アクタスは続ける。
「しかし、だな。あの、アリシア姫にあんな笑顔を向けられて、あんな、あんな風に抱き締められて、我が輩は、我が輩は、とても幸せだったのだ!!全てはこの見た目のおかげ!中身は同じなのに!!」
・・たしか、6000歳越えてたのだったか。
「要するに、見た目の可愛さで得た愛情を失いたくないけど、それを受け入れたら魔王じゃなくなる、と?」
「そうだ。我が輩は、中身が魔王であることは変わらない。なのに、子どものふりを続けるなど、あってはいけないのではないか?」
(アクタス君・・ってもう言っちゃだめか。アクタス・・さんって、やっぱり結構真面目なのよね。)
「いいんじゃないでしょうか?」
セシルはさらっと肯定する。
「人間だって成長します。その姿で愛されるなら、素直に満喫して、しれっと大きくなってしまえばよいのでは?その間に、中身でちゃんと、アリシア姫に好きになってもらえばいいんじゃないですか?」
何事にもきっかけが必要だ。
魔王として頑張ったけど駄目だったのなら、再び訪れたチャンスをどうにかしてものにするしかないのではないだろうか?
「魔王だと言わなくていいのか?」
「それは、アクタス・・さんの求めるものによります。」
アクタスが、魔王の妻になることをアリシア姫に求めるのなら、アクタスは魔王として、アリシア姫の愛を勝ち取らなければならない。
だが、もし、一人の男として、アリシア姫に愛されることを望むなら、彼はアクト、でよいのではないだろうか?
「その場合、万が一うまく行ったら、我が輩は人間の国の国王だぞ?」
まあなあ・・とセシルは考える。
「アクタスさんが人間を滅ぼすつもりなら、もちろん問題、ですけど。」
その辺、どうなのだろう?やはり魔王はそういうものなのだろうか?
「いや、別にこだわりはない。魔王というのは、いるだけで意味があるのだ。だから、存在していれば、よい。」
「なら、問題はないのではないかと。6000年以上生きている知識、これまで魔物を統率してきた力、意外と真面目な性格、何よりアリシア姫への思い・・むしろ・・。」
セシルは少しだけためらったが、言うことにした。
「ルイス、より、かなりましな気がします。」
「もはや勇者が不憫だぞ。」
一瞬自分の悩みを忘れて、ルイスに同情するアクタス。
だが、セシルの言葉は奇妙な説得力があった。
(不思議な女だな。)
と、思う。アリシア姫によってドレスアップされているせいもあるのだろう、妙に貫禄もあり、彼女に肯定されると、なんだか自信が沸いてくる。
「きっかけがあるならば、か。そうかもしれぬな。」
久しぶりに惚れた女である。アリシア姫と過ごせるチャンスがあるのなら、この外見、利用してみてもよいのかもしれない。
「よし。では我が輩はアリシア姫との蜜月を楽しむことにする。永い一生だ。たまにはそんな経験をしてみるのもよい。」
晴れ晴れした顔のアクタスに、
「そうですね。」
と笑顔を見せるセシル。
「セシルー!うわっセシル?」
そこに、ルイスが帰って来た。
今日の出来事を説明する。
「なんだか急展開だけど、魔王とセシルが一つ屋根の下で過ごすのは今夜が最後なんだね?良かったー。」
と、どこまでも世界の中心がセシルのルイス。
「っていうか、セシル。その格好、すごく素敵だ。女神様みたいだね。もう、押し倒してしまいたい。」
「ルイス。私とあなたの関係は?」
真顔でせまるルイスににっこり尋ねるセシル。
「オトモダチ、デス。」
「よくできました。」
(さて、ルイスに見せたことだし、シャワー浴びて着替えましょ。)
そう思ったセシルは、はて、と考える。
(あれ?私、なんでルイスに見てもらうのを待ってたのかしら?)
セシルとルイスの関係も、じわじわ変化していく。
まだ、セシルは気づいていないが。
(きっかけはなんでも、か。セシルと勇者にも言えそうだな。)
幸せを掴みそうな今、そんな穏やかな気持ちで二人を見る、アクタスであった。




