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限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
プロローグ 限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない

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今日3話更新しているのでご注意ください。

 悲鳴と怒号が響き渡る。僕はよろよろと立ち上がると、自分がなにをしなければいけないのかわからなかった。周囲は逃げようとする大半の奴隷たちと、逃げずにただ震えている奴隷たちとに分かれていた。

 逃げ出す奴隷の多くが向かったのは天賦珠玉が収められている倉庫だった。【影王魔剣術(シャドウキング)★★★★★★】を取り出すために倉庫の扉は開かれていた。危険なスキルを取り上げられていた奴隷たちは、逆に言えば「スキルを入れる余裕」がある。それに、天賦珠玉を持ち出せば高く売れる、そんなことも考えたのかもしれない。

 そこでは倉庫を守る鉱山兵と奴隷たちとの間で血みどろの激戦が繰り広げられていた。


(僕は……どうなるんだ?)


 このままぼけっと突っ立っていても、やがて鉱山兵によって捕まって、また別の「主」を設定された契約魔術によって奴隷に戻るだけだ。


(……イヤだ。まやかしの生活に戻るのは)


 僕はこの鉱山での生活に慣れ、「そう悪くないじゃないか。少なくとも兄弟に忌み嫌われて食事を抜かれるよりは」なんて考えていたけれど、それが契約魔術による幻想だったとわかると二度とあの境遇には戻りたくない。

 かといって、生まれ故郷にも戻りたくない。

 ではどうする——決まっている。自分で「生き抜く力」を身につけるんだ。


(……ラルク)


 彼女は真っ先にその「生き抜く力」を手に入れた。そして僕に救いの手を差し伸べた……。


(今は、彼女のことを考えるな)


 ここに残った僕にできることは、1つしかない。倉庫に行こう。そして天賦珠玉を手に入れるのだ。幸か不幸か僕はスキルを1つも取得していないからなんでも吸収できる。

 倉庫へと向かうと、奴隷たちが優勢で決着がつきそうだった。こんなところで無駄死にしたくはない鉱山兵と後がない奴隷では意気込みが違う。倉庫に雪崩れ込む奴隷たちについて僕もまた倉庫内へと侵入した。


「こういうふうになってるんだ……!」


 倉庫は広く、いくつもの棚が置かれてあった。棚のすべてに穴がくりぬかれてあって、そこに天賦珠玉が置けるようになっている。だけれど、今、棚のほとんどは空だった。


「クソッタレ! めぼしいスキルは出荷した後かよ!」

「星1なんて要らねえ!」

「要らねえなら寄越せや!」

「ああッ!? これは売るんだよ!」


 残ったわずかな天賦珠玉の取り合いで奴隷同士の殺し合いが始まりかねなかったけれど、


「おい、奥に扉があるぞ!」


 奴隷たちは一斉にそちらを向いた。鍵の掛かっていた鉄扉は、必死の形相でやってくる奴隷たちの前には無力だった。彼らが何度も何度も剣や盾を振り下ろすとカギは壊れ、扉が開いた。


「うおおおおおおっ! なんだこりゃ!」

「レアオーブだらけじゃねえか!」


 扉から光が漏れてくる。奴隷たちはその小部屋に殺到すると、オーブを手にしては吸収していく。


「てめえ、それは俺が目をつけてたんだ!」

「バカが、先に取ったもんの勝ち——いでえ!?」


 横から剣が突き出され、奴隷の手から天賦珠玉が落ちた。その青色の珠はまばゆいばかりの光を纏って僕の足元に転がってきたのだ。


【四元魔法★★★★】


 と表示されたそれは、星4つ。ラルクの手に入れた星6つをのぞけば見たこともないレアなオーブだった。僕があわてて拾おうとしたとき、横からぬっと影が割って入った。


「ガキが、すっこんでな!」

「うぐっ!?」


 真横から蹴り飛ばされた僕は倉庫の地面にバウンドした。胃の中はカラッポだったけれど、お腹がちぎれるほどに痛い。


「アハハハ! 運が回ってきたじゃないのさ!」


 星4つの天賦珠玉を手にして笑っていたのは——食堂のおばちゃんだった。光は彼女の身体に吸い込まれる。


「てめっ、ババア!」

「返せ!」

「アハハハ! ウスノロどもが、消えな!」


 おばちゃんが右手をかざすと、そこから強風が発生し、奴隷ふたりが倉庫の壁に叩きつけられる。


(すごい……天賦珠玉ひとつで、こんな力を手に入れられるのか?)


 魔法の巻き添えを食ってはかなわないと、奴隷たちは小部屋から飛び出した。もちろん、もはや天賦珠玉はひとつも残っていなかった。


「クソッ、あのババア、覚えてろ……」


 壁に叩きつけられた奴隷たちもまた倉庫から外へと出ていく。おばちゃんはもうとっくに出てしまっていた。


「なにも、ない……」


 がらんとした倉庫に取り残されていたのは僕だけだった。

 痛むお腹を押さえながらよろよろと小部屋へと向かうけれど、薄暗いそこにはやっぱりなにもなかった——ん?


「あれ? 1つ、転がって——ハッ」


 僕はあわてて口を両手で押さえた。天賦珠玉には人間の感覚を高めるものもあるという。ふと漏らした声を聞かれてはたまらない。

 僕は恐る恐るそれ(・・)へと近づいた。

 ごくり、とつばを呑んだ。

 それは真っ黒な天賦珠玉だった。中央に虹色の点があって、光を吸い込むように回転している。


森羅万象(ワールド・ルーラー)★★★★★★★★★★】


 あり得ない(・・・・・)、天賦珠玉。


 ——8を超える星も存在する……。

 ——え?

 ——それらは人には扱えぬもの。ワシは一度見たことがある……この鉱山倉庫の奥に眠っている人智を越えた(オーバーリミット)天賦珠玉(・スキルオーブ)を……。


 これが、そうなんだ。人智かどうかはわからないけれど、限界を超えた(オーバーリミット)天賦珠玉(・スキルオーブ)とはこれなんだ。

 僕はなぜだか、この天賦珠玉に呼ばれている気がした。

 指先をそっと伸ばし、珠の表面に触れる。つるりとした手触りを期待していたのに僕の指先はとぷんっと水面に触れたかのように珠へとめり込んだ。


「あ……」


 黒い表面が割れ、中から虹色の光がほとばしる。光は奔流のようにうねり、幾筋にも分かれ、小部屋を駈け巡り、僕の額へと飛び込んで来た。


「あ、あ、あ、あああああああああああッ!」


 僕の目に見えたのは小部屋の壁を越え、大空洞を越え、鉱山を越え、雲を越え、大気圏(・・・)を越え、そこに広がる宇宙だ。


「そう、だったんだ……」


 僕はこのとき、知った。


だから(・・・)、僕はこの天賦珠玉が使えたんだ……」


 過去の心の傷をえぐられ、凄惨な殺人をいくつも見て、さらには蹴り飛ばされ——()の手を払いのけ、散々な目に遭っているというのに今の僕は清々しいような気持ちになった。


「……僕がこんなふうに異世界転生(・・・・・)するだなんて。前世と、今世と、ふたりぶんの人生があるから僕のスキル枠は()の16もあるんだ」


 そう、僕にはちゃんと名前があった。


「僕は晴海礼治。高校生のときに死んで……この世界に転生した」



   *   *



 窓の外は真っ暗になっていた。

 教室にひとり残り、慣れないキーボードをぽちぽちと叩いてた僕は、「うん……」とひとつ伸びをした。


「ようやく終わったぁ〜……疲れた」


 文化祭のクラス出し物、お化け屋敷。そんなありきたりなものでも、怠惰で保守的な担任教師は「予算と計画。危険防止のための施策内容をまとめろ」とクラスに投げた。で、クラス委員は僕に「晴海くん、やってくれるよねぇ〜?」と押しつけて帰っていったのだ。

 この仕事は、仕事のための仕事。どうせ書類がまとまっても担任が見るだけで終わり。そんな無駄なことに時間を割きたくない——彼からはそういう気配が透けて見えた。


「はー……帰って勉強しよ」


 誰かが僕のためになにかをしてくれるなんてことはほとんどなかったように思う。ただこうして他人から「使われ」、「感謝もされない」日々を僕は送っていた。

 だけど勉強は僕を裏切らない。勉強すればするだけテストの点数は伸びるし、志望の大学ランクも上げていける。今の僕にとって楽しいことは「勉強」だった。

 ……そんなの虚しい、って?

 確かに! そりゃまあ、僕だって女子と甘酸っぱい高校生活を送りたかったけれども!


「この低い身長じゃなぁ……」


 と学校を出てギコギコ自転車を漕ぎながら、僕は小さく産まれてなかなか育てなかった自分の身体を恨むのだった——そんなふうに他のことに気を取られていたのがいけなかった。

 自転車は車道から滑り落ちた。僕は先日の雨によって増水した用水路にはまり込んで、溺死した。



   *   *



 手に入れた天賦が【森羅万象(ワールド・ルーラー)★★★★★★★★★★】がどんな効果を持っているかはすぐにわかった。

 頭に流れ込んでくる様々な情報こそがこの天賦の真髄。たとえば空を見上げれば、これが春の空だということがわかり、夜半に一雨降るだろうこともわかる。なんとも言えない感覚だった。目に見える範囲の事象がわかってしまう、全能感。


「これが……世界を統べる者(ワールド・ルーラー)……!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 情けない死に方だなぁ
[一言] 食堂のババア 豹変したら恐るべし w
[一言] 表現がたどたどしいため感情移入しづらいです。
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